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草津温泉旅館もデジタル証券で投資対象に! ST市場拡大のキーワードは積立投資(セキュリティ・トークンコラム)

セキュリティ・トークン(デジタル証券)に関した改正金融商品取引法が施行されたのが2020年5月1日。その1カ月前の2020年4月に設立された三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社(以下、MDM)は、国内外の不動産やインフラ投資を行う資産運用会社であり、これまでに様々な不動産を担保とするセキュリティ・トークンを発行してきました。なかでも、MDMが2022年3月に発行した不動産セキュリティ・トークンは、じゃらんや楽天トラベルなどが実施する温泉地ランキングで常に上位に入る人気の温泉地・草津温泉に関したものだったことで話題となりました。

この「不動産のデジタル証券~草津温泉 湯宿季の庭・お宿木の葉~(譲渡制限付)」はMDMにとって二つ目のセキュリティ・トークンの事例となり、当時の学びがその後の商品開発にも活きていると丸野宏之(ひろゆき)取締役は振り返ります。MDMが目指すセキュリティ・トークン事業について、草津温泉旅館の開発の中での気づきも踏まえて話を聞きました。


オルタナティブ投資の新たな選択肢

――MDMは2021年12月に「不動産のデジタル証券~神戸六甲アイランドDC~(譲渡制限付)」で初めてセキュリティ・トークンを発行しています。そもそも、なぜMDMはセキュリティ・トークン事業に力を入れようと考えたのでしょうか。

丸野:MDMの設立時期がセキュリティ・トークンの法改正と同時期だったこともあり、初めからセキュリティ・トークンを視野に入れて事業構想をしていたというのはあります。日本において個人がどう資産形成をするかという課題がもう20年、30年前から言われていた中で、貯蓄から投資へシフトしていくには決定的に商品が足りていないというのが我々の仮説であり、この会社を作るきっかけにもなっています。これまで機関投資家向けには、キャッシュフローが比較的安定している不動産やインフラなどのオルタナティブ資産が数多くありましたが、個人投資家には手が届きにくいものでした。投資未経験者に対して投資をしない理由についてヒアリングした際、「なんだか怖い」「損しそう」などというネガティブな意見が多く、だったら、キャッシュフローが安定したオルタナティブ資産が個人投資家向けにもあれば、エントリー商品としてヒットするのではないか、という仮説を立てました。セキュリティ・トークンを活用すれば、投資商品の小口化が可能になります。これを活かさない手はないなと思いました。

「不動産のデジタル証券~草津温泉 湯宿季の庭・お宿木の葉~(譲渡制限付)」は三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社、三菱UFJ信託銀行株式会社、野村證券株式会社の3社協業で公募を実施しました(写真提供は全て三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社)

――不動産商品の小口化だけに着目すると、 上場REIT や不動産クラウドファンディングという手段もあります。

丸野:まず前提として、セキュリティ・トークンはあくまでも投資手段の一つなので、その商品の特長を生かせるかどうかという観点から、上場REITにするか、不動産クラウドファンディングにするか、それともセキュリティ・トークンにするかを考える必要があります。3者の違いの話をすると、上場REITは流動性の面で優れていますが、株式市場などの影響を受けて不動産本来の価格以上に投資口価格の値段が動いてしまうという特徴があります。そのため「なんだか怖い」という人にとっては、いい選択肢とは言えないかもしれません。また、物件がポートフォリオになっているため、好みの物件を一つひとつ選べないという点もあります。不動産クラウドファンディングについては税制面の理由(※後述あり)で本格的な資産運用を行うには物足りないと感じる人もいるでしょう。これらの観点を踏まえ、MDMが目指す金融商品とターゲットとなる投資家を考えると、一番相性がいいのがセキュリティ・トークンだと思いました。

――セキュリティ・トークンで商品開発をした場合、ターゲットをどう考えていますか。

丸野:小口投資だと1口100円程度からできるような若年層をターゲットにしたものをイメージする人もいると思いますが、MDMではある程度まとまった金額のキャッシュフローを得たいというニーズを満たしたいと考えています。その意味で、一定の貯金も含めて資産ができた人たちが働きながら資産形成ができることをイメージし、ターゲットは30~50代の会社員、または、退職金で資産運用を考える60~70代だと考えています。

草津温泉の旅館がREITでもクラファンでもなかった理由

――「不動産のデジタル証券~草津温泉 湯宿季の庭・お宿木の葉~(譲渡制限付)」を踏まえてお話をうかがいます。そもそもどういうきっかけで「草津温泉 湯宿季の庭・お宿木の葉」が投資商品となったのでしょうか。

丸野:MDMの事業に理解のあるオーナーから売却の相談を受けたことが始まりです。2022年1月当時のセキュリティ・トークンとしては比較的規模が大きかったこともあり、 MDMだけではなく三菱UFJ信託銀行と野村證券にも加わっていただき、3社ですぐに議論を始めました。スキームとしては、MDMがアセットマネジメント会社として不動産・ファンドの運用を行い、三菱UFJ信託銀行がブロックチェーン基盤「Progmat(プログマ)」を活用してセキュリティ・トークンを発行し、野村證券が販売するというものでした。

――商品開発において最も苦労したところはどんなところでしたか。

丸野:オーナーからの要望もあり、3カ月弱というタイトなスケジュールの中で一気に進めないといけませんでした。更に、本件は単なるセキュリティ・トークンの発行に留まらず、 ユーティリティ・トークン の付与にもチャレンジしました。このユーティリティ・トークンは2022年7月にセキュリティ・トークンの購入者に対して別途付与するというもので、保有口数に応じて優待プランや温泉施設内の利用券などが設定されました。野村證券には販売に当たり、各パートナー(営業担当者)がセキュリティ・トークンについての知識を蓄えた上で投資家の皆さんに商品を案内いただき、大変頼もしかったです。非常にハードな案件でしたが、関係者に協力いただけたことでなんとか乗り切ることができました。

――今回の商品を上場REITではなく、セキュリティ・トークンで発行した狙いはどんなところでしたか。

丸野:まず商品そのものの話をすると、草津温泉は幅広い年齢層に対して非常に知名度が高いという特徴があります。上場REITのように投資信託のポートフォリオに入れてしまうよりも、一つの商品として扱った方が投資家にとってより魅力的だと考えました。そもそも今回の商品開発に当たり、投資家にある程度まとまった資金を投資したいと思っていただけるような魅力的な商品を作りたいという思いもありました。

――不動産セキュリティ・トークンと不動産クラウドファンディングは似ていると言われがちですが、不動産クラウドファンディングと比べてはどうでしょうか。

丸野:パッと見だと両者は同じだと感じる人も多いようですが、中身をよく見てみると色々な違いがあり、大きな違いとしては「運用期間」と「税制」が挙げられます。運用期間で言うと、不動産クラウドファンディングは1年未満のものが多い一方で、セキュリティ・トークンの多くは5年以上などと比較的長いです。投資家にとって中長期的な資産運用になる商品を開発しようとするとセキュリティ・トークンの方が理にかなっていると言えるかもしれません。もう一つの税制で言うと、クラウドファンディングにすると原則として配当などは総合課税の対象になりますが、今回の商品では受益証券発行信託スキームを活用しており、配当などは申告分離課税の対象となります。申し込みを500万円(50万円×10口)からにしたこともあり、比較的高所得者が対象になるだろうということも踏まえ、申告分離課税の対象になった方が投資家の資産形成としてメリットを感じていただけるだろうと考えました。

――実際に投資家からはどんな声が届いていましたか。

丸野:草津温泉と旅館そのものの知名度が高かったこともあり、比較的安心して投資ができたというお言葉をいただくことがありました。一方で、新型コロナウイルスの影響で訪日外国人旅行者も減少していたタイミングで旅館・ホテルという資産への投資にネガティブな意見もありました。それは我々としても想定していたご意見でしたが、長期的に見て魅力がそがれない商品だと我々は考えていますし、そのためにも投資家への情報発信はしっかりしています。あとは、「そもそもセキュリティ・トークンとは何か」という意見もありました。MDMとしても継続して啓発活動をしなければと考えており、MDMが提供する資産運用サービス「ALTERNA(オルタナ)」の特設サイトでも、セキュリティ・トークンに関するコラムやセミナー情報を発信しています。

累計販売額3,000億円へ、将来的には積立投資の実現を

――この草津温泉の旅館以降、MDMではレジデンスやホテル、旅館、倉庫など、様々な投資資産と紐づいた不動産セキュリティ・トークンを発行しています。セキュリティ・トークンを開発するに当たってそろえた基準などはありますか。

丸野:その商品の魅力を引き出していることが大前提ではありますが、共通して言えることは我々がALTERNA上で直接ご提供する商品については1口10万円から投資できるものをベースにしようという点です。我々の商品は、明日値段が倍になることが期待できるような値動きが激しいものではなく、中長期的な安定収益を狙っていくものです。例えば1,000円からなどという超小口化をしてしまうと、配当の絶対額が小さくなってしまい、得られるリターンよりも手間が上回ってしまうと感じる人も出てくるでしょう。ALTERNAをローンチする前に実施した調査結果の中でもある程度まとまった金額を投資したいというニーズはありましたし、加えて20・30代にも手が出しやすい商品を考えると、10万円からというのは一つのラインだと考えました。

2022年9月に発行した「不動産のデジタル証券~ALTERNAレジデンス 銀座・代官山~(譲渡制限付)」では株式会社BOOSTRYのブロックチェーン基盤「ibet For Fin」を活用しています

――MDMの資産運用総額は2,300億円(2023年3月末時点、クロージング中も含めたMDMが運用するファンドの資産総額)です。今後のビジョンを教えてください。

丸野:MDMの運用資産の大半は ブリッジファンド ですが、草津温泉の旅館のセキュリティ・トークンのように個人投資家でも購入できる公募ファンドの準備を進めています。今あるセキュリティ・トークンは全て不動産を裏付け資産にしていますが、発電所や、船舶などのモビリティ、データセンターや海底ケーブルなどのデジタルインフラを裏付けたとしたセキュリティ・トークンの開発も、遅くとも2024年度中には一つ形にしていきたいと考えています。今後やってみたいこととして、時間などの制約から自分で投資対象を選び切れない人に向け、様々なオルタナティブ資産に投資可能な「おまかせ商品」のサービス開発ができたらと考えています。そうした投資商品も含め、MDMは2028年度までに累計販売額3,000億円を目標に掲げています。

――MDMはJFRカード株式会社と金融商品仲介業における業務委託契約を締結し、2023年10月3日より、JFRカードユーザー向けにALTERNAの提供を開始すると発表しています。この取り組みの狙いはどんなところでしょうか。

丸野:この提携により、JFRカードは国内初のセキュリティ・トークンを取り扱うクレジットカード会社となり、JFRカードユーザーに対してALTERNAを通じた資産形成の支援をするとともに、将来的にはセキュリティ・トークンで積立投資ができればということを構想しています。

――2023年10月現在、セキュリティ・トークンでの積立投資は可能なのでしょうか。

丸野:現状のセキュリティ・トークンは例えば投資信託のようにいつでも購入・解約できるものではなく、定期的に積み立てて投資ができるものでもありません。MDMとしても積立投資を実現するまでには、何ステップもあると認識しています。MDMでは現状、ALTERNAを通じて2カ月に1度の頻度でセキュリティ・トークンを発行していますが、投資家にとって魅力的かつ価格が安定した商品の研究・開発をした上でセキュリティ・トークンのラインナップを増やし、投資家が定期的に商品を購入できるようにすることがまず目標となります。そのために今、新商品開発チームが奮闘しています。セキュリティ・トークンでの投資信託などのような「おかませ商品」が可能になれば市場がより拡大していきますし、投資家にとってより一層、セキュリティ・トークンが身近になるだろうと考えています。

~ 不動産セキュリティ・トークンについてのご注意事項 ~
・証券保管振替機構(ほふり)で発行・管理されておらず、ブロックチェーン技術を利用して分散型台帳上で権利の記録・移転がされます。ブロックチェーン技術やプラットフォームの運営の不確実性に伴い、買付・売却の受渡し、分配・償還の支払い等が遅延するリスクがあります。
・単一または少数の不動産への投資の成果を投資家に還元することを目指した商品です。投資対象不動産の収益・資産価値変動、不動産市況・金利動向等の市場環境、需給状況等の影響により、商品の取引価格や償還価格が下落し、損失を被ることがあります。また、借入れを利用している商品の場合、契約上の制限事項等に抵触すると、配当停止や資産を廉価で失う等により損失を被ることがあります。
・流動性は限られており、売却の機会は保証されておりません。また、譲渡制限が付されている場合があります。
・お買付時には、購入対価のみをお支払い頂きます。
・ご購入を検討される場合には当該商品の目論見書等の資料をお渡し致しますので必ずご覧下さい。
・セキュリティ・トークンに係る税金の詳細は、税理士等の専門家にお問い合わせ下さい。
野村證券株式会社 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第142号
加入協会/日本証券業協会、一般社団法人日本投資顧問業協会、一般社団法人金融先物取引業協会、一般社団法人第二種金融商品取引業協会、一般社団法人日本STO協会


取材協力:三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社

不動産・インフラなど実物資産を裏付けとしたセキュリティ・トークン(デジタル証券)ファンドの組成、運用、販売を一気通貫で展開する日本初のデジタルネイティブなアセットマネジメント会社です。セキュリティ・トークンで資産運用できるサービス「ALTERNA(オルタナ)」の提供を通じて、将来のために安定した資産運用をしたい方に、新たな選択肢を提供していきます。

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