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コインチェックから始まった国内IEOは今 資金調達方法として普及するために必要なこと(コラム)

コインチェック株式会社は2021年7月、IEOプラットフォーム「Coincheck IEO」の提供を開始し、同月に株式会社HashPalette(ハッシュパレット)とともに日本初となるIEOによる資金調達を実現しました。2023年11月現在、国内IEOの事例は4件あり、コインチェックはうち2件に関わっています。

「国内初事例の経験も含め、コインチェックはしっかりとした審査体制が強みです。IEOの実施を検討している企業へのきめ細かいサポートはもちろんですが、購入者の皆さんが安心して取引できるようにすることがIEOには欠かせません。そこはコストをかけ、非常に力を入れて取り組んでいるところです」と一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)のICO・IEO部会副部会長も務めるコインチェックIEO事業部の播磨徹(はりま・とおる)さんは言います。コインチェックがIEOで目指すことを聞きました。


IEOとIPOは補完的な関係

――コインチェックがIEO事業に目を向けたきっかけを教えてください。

播磨:まず言えるのが、ICOが問題視されていたという歴史的背景です。ICOは2013年に始まり、2014年にはEthereum(イーサリアム/ETH)がICOで約3万1,500BTC(当時約16億円)の資金調達に成功したことで、新しい資金調達方法として注目を集めました。しかし、2017年の暗号資産バブルに乗じ、調達後に発行体の企業と連絡が取れなくなるなど、法律の抜け穴を利用した詐欺が横行しました。その後、金融庁認定の暗号資産自主規制団体である一般社団法人日本暗号資産交換業協会(JVCEA)が設立され、2019年には暗号資産に関する法整備が進んでいきました。ICOでは確かに詐欺が横行しましたが、Ethereumの事例のように暗号資産の発展に非常に大きなインパクトがある仕組みであり、そうした資金調達の仕組みは重要になっていくと感じていました。暗号資産業界の発展をリードしていくためにも、コインチェックがIEOの先駆者となり、戦略的にやっていくべきことなのではないかと考え、2019年8月にIEO事業の検討を始めました。

――資金調達方法としてすでにIPOがある中で、IEOならではの魅力は何だと考えていますか。

播磨:私見ですが、IPOとIEOは実施すべきタイミングやフェーズが異なると思っており、資金調達の選択肢を増やすという点では、補完的な関係だと考えています。IEOはどちらかというとプロジェクトの立ち上げや、IPO的な考え方で言うとベンチャーキャピタルから投資を受けるようなタイミングで資金調達をするのがIEOの位置づけだと捉えています。また、IEOでトークンを発行すると一般の消費者が早期のタイミングでプロジェクトに参加することになるため、IPOよりもIEOはコミュニティ形成をスタート時から開始できるという点で、非常に魅力があると思っています。

――プロジェクトという意味では、クラウドファンディングでの資金調達と近いように思いましたが、クラウドファンディングとの違いはどんなところでしょうか。

播磨:確かにステージとしてはクラウドファンディングもプロジェクトのかなり初期の段階で実施されることが多いため、クラウドファンディングとIEOは少し近いステージかもしれません。ただし、資金調達の規模や投資家がどうプロジェクトに関わるかというところが異なっていると個人的には考えています。クラウドファンディングでは、投資家に対してお返しをして終わりというのが一般的かと思います。一方でIEOはトークンを発行するため、購入者はトークンホルダーとしてそのトークンエコノミーに貢献することになります。トークンを保有することでユーティリティがある場合も、トークン自体が値上がりした時に売却するという場合もあるため、IEOでは購入者は応援している企業との関係を築き続けられるという点が挙げられます。

初のIEO、申込倍数は24倍に

――コインチェックは2021年7月にCoincheck IEOの提供を開始し、HashPaletteと日本初となるIEOによる資金調達を実施しました。NFTプラットフォーム「Palette」で利用されるトークン「Palette Token(PLT)」のIEOをコインチェックとしてはどう評価していますか。

播磨:当時を振り返ると、日本初のIEOということで、IEOは本当に安全な資金調達手段なのか、この1件にかかっているというような業界の雰囲気を感じていました。コインチェックだけではなくJVCEAも間に入って厳密な審査をし、プロセスを経てPalette Tokenを販売したということもあり時間がかかりましたが、申込倍率は24倍と非常に高く、目標金額にも到達し(販売総数2.3億枚、販売総額9億3,150万円、販売価格4.05円/PLT)、上場後の価格は販売価格を大きく上回りました。発行企業のHashPalette、購入者、コインチェック、どの立場から見ても、最初のIEOとしては大成功と言えるのではないでしょうか。

――購入者の傾向としてIEOならではと言えそうな特徴はありますか。

播磨:販売総額や申込設定などはそのプロジェクトや発行する企業、取引所の規模によって変わってくるため一概には言えませんが、Palette Tokenに関して言うと、1口1,000PLT、申込上限口数を2,400口にしていましたが、最小額の4,050円だけでなく最大額の972万円まで様々なニーズがあることが分かりました。今後のIEOとしては1,000万円近い額を投資したいというニーズがあることも考える必要があると思います。

IEO実施直後のボラティリティをどう改善するか

――Palette Token以降、2022年5月にはFC琉球(運営:琉球フットボールクラブ株式会社)がGMOコイン(運営:GMOコイン株式会社)を通じてトークン「FC Ryukyu Coin(FCR)」を販売、2023年3月には株式会社フィナンシェがCoincheckを通じてトークン「FiNANCiE Token(FNCT)」を販売、2023年4月には株式会社オーバースがDMM Bitcoin(運営:株式会社DMM Bitcoin)とcoinbook(運営:株式会社coinbook)を通じてトークン「Nippon Idol Token(NIDT)」を販売と、国内では4件のIEOが実施されています。これまでのIEOを振り返って課題を感じることはありますか。

国内IEOの事例

播磨:課題はフェーズごとに複数考えられますが、その中の一つとしてIEO実施直後の安定した価格の形成が課題として挙げられます。初事例であるPalette Tokenを除き、2例目以降はIEO実施直後に公募割れが発生しています。この件に関しては2023年9月に、私も参画しているJCBAのICO・IEO部会から自主規制団体のJVCEAに対してIEO制度の健全化に向けた自主規制改革の方向性の初期案を提出しています。これから関係機関と協議を行い、JVCEAの自主規制規則の範囲で、実現性の有無を検証していく見通しです。具体的には、価格算定、流動性、安定操作、売却制限の四つのアジェンダで検討の方向性を示しています。

――日本国内では2021年7月のPalette Tokenから約2年で四つの事例がありますが、この本数自体はどう感じますか。

播磨:事例件数自体はまだ少ないと思っていますが、現状では妥当な件数なのではと捉えています。IEO自体が新しい制度であるゆえに、各論点に対する判断基準や事例が少なく、制度面の観点でも会計基準が未整備などの課題もあり、IEOの検討から実施までには時間がかかります。審査そのものに関して言うと、取引所が審査をした後にJVCEAに書類を提出して更に審査をするという二段階審査になっており、一定の時間がかかります。この点はJVCEA側でも審査を迅速にする方針で、改善しようとしています。現状は株式市場を参考にした審査方法であると理解していますが、件数の増加に伴い、今後はIEOに最適化した審査方法になっていくとともに審査のスピードも上がっていくのではないか、と期待しています。

将来的にはトークンや発行体に合わせたIEOを

――コインチェックは様々な企業からIEOの要望を受けていると思われますが、Coincheck IEOならではの強みはどんなところだと感じていますか。

播磨:一つ目は、コインチェックは業界トップクラスの口座数を保有しており、多くのユーザーからアクセスいただける基盤であり、第1弾、第2弾と積み上げてきた実績があることです。二つ目は、審査体制や審査基準の経験を踏まえ、整備・改善をしていることです。過去2回のコインチェックでのIEOはともに10億円規模の資金調達となり、億単位のトークンを発行しています。トークンの販売について幅広い人々に知っていただけ、トークンを通じて多くの購入者がプロジェクトにコミットできるという意味でも、発行体の企業にも購入者にも満足していただけるサービスを提供できていると自信を持って言えます。今後、Coincheck IEOとしては年に数件、IEOを実施できたらと考えています。

――日本では今まさにIEOについて環境整備が進んでいるところですが、海外におけるIEOの現状をどう感じていますか。

播磨:IEOに関してここまで明確にルールが定義されているのは、おそらく日本だけではないかと個人的には感じています。2022年12月に暗号資産取引所のFTXが破綻したのをきっかけに業界が揺れる中、日本の暗号資産に関する規制・規則が整備されていることは強みとなり、海外に比べて企業がIEO市場に参入しやすい環境が整っていると言えると思います。

――IEOを今後より普及させるためにも、IEOの良さが生きる資金調達方法とはどんなものだと思いますか。

播磨:将来的にはトークンを発行する形態に合わせたIEO、またはDAOや企業、企業の中でも企業規模に応じた適切な形でのIEOの提供ができればと考えています。その前に、企業を前提とした現状のIEOの制度にDAOをどう捉えるのか、資金調達規模によって審査基準を変えるべきかどうかなど、議論すべき様々な論点があると感じています。現状、審査期間を踏まえると年に実施できるIEOの件数には制限がありますが、将来的には資金調達の規模により大中小など様々な形のIEOができるようになるのが理想だと思います。コインチェックはトップランナーとして、今後も多様な発行体である企業と協業してIEOを実現することで、先行事例をウォッチしている企業がIEO市場に参入する後押しをしたいと考えています。参入したいという企業が増えてくることで、ここから数年はより速いスピードでIEO市場が大きくなる可能性があるでしょう。


取材協力:コインチェック株式会社

コインチェック株式会社は、アプリダウンロード数4年連続「国内No.1」の暗号資産取引サービス「Coincheck」を運営しています(国内の暗号資産取引アプリ、期間:2019年1月~2022年12月、データ協力:App Tweak)。「新しい価値交換を、もっと身近に」をミッションに掲げ、最新のテクノロジーと高度なセキュリティを基盤として、暗号資産やブロックチェーンにより生まれる新しい価値交換を身近に感じられるように、より良いサービスの創出を目指しています。

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