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複雑な開発を避けつつスケーラビリティ問題を解決、新ソリューション「パラレルEVM」とは(コラム)

パラレルEVM(Parallelized Ethereum Virtual Machine)とは、複数のトランザクションを同時に実行(並列処理)することで、イーサリアム(Ethereum)ブロックチェーンのパフォーマンスを上げ、高速処理を可能にするソリューションです。2023年頃から注目されるようになり、2024年はパラレルEVMの年とも言われるほど、数多くのプロジェクトが開発を進めています。

EVM(Ethereum Virtual Machine、イーサリアム仮想マシン)は2024年4月現在、Web3の事実上の業界標準となっており、ウォレット「MetaMask(メタマスク)」などもEVM互換ブロックチェーンに対応しています。

このコラムではなぜパラレルEVMが必要なのか、パラレルEVMとは何なのかについて、パラレルEVMのリードカンパニーであるSei(セイ)が公開している「Sei v2 - The First Parallelized EVM Blockchain」および「The Sei v2 Public Devnet is here」を翻訳、再編集して解説をします。


トランザクションを並列処理し、高速化へ

パラレルEVMは、ブロックチェーンにおける最大の課題の一つであるスケーラビリティを向上させるためのソリューションです。

パラレルEVMでは、トランザクションを順番に処理する従来のEVMとは異なり、複数のトランザクションを同時に処理できるため、ネットワークの効率性とスケーラビリティが大幅に向上します。

従来のEVMとパラレルEVMのブロック処理(出所:Sei White Paper: The Layer 1 for Trading)

従来のEVMでは、複数のユーザーが同時にトランザクションを執行しようとすると、各トランザクションは前のトランザクションが完了するまで待たなければなりません。トランザクション量が多い時は、トランザクションの執行に時間がかかり、ユーザーエクスペリエンスが低下します。

パラレルEVMでは、これらのトランザクションの多くを同時に処理することができます。この並列処理により、トランザクションの執行が高速化し、DAppsの応答性が向上し、全体的なユーザーエクスペリエンスが向上します。可能な限りトランザクションを並列処理することで、ネットワークは大量のトランザクションをより迅速かつコスト効率よく処理できるようになり、ブロックチェーンはより幅広いアプリケーションやユースケースに適したものになります。

パラレルEVMのメリット

スケーラビリティ問題を解決するためには、Web3業界全体としては以下のようなアプローチが取られてきました。

・コンセンサスアルゴリズムの異なるレイヤー1を構築する(Solana(ソラナ)、Seiなど)
・作業の一部を新しいレイヤーに実行させる(サイドチェーン、レイヤー2など)

多くの選択肢がある中で、なぜパラレルEVMを採用する必要があるのでしょうか。

まず前述の通り、EVMは普及度が高く、Web3の事実上の業界標準となっています。BNB(バイナンスコイン)チェーンやAvalanche(アバランチ)など、時価総額の高いレイヤー1のほとんどはEVMを活用しており、イーサリアムは最大のコミュニティを持ちます。また、Web3開発者数が最も多く、EVMが近い将来に市場シェアの大半を失う可能性は極めて低いと考えられます。

パラレルEVMには、EVMとの運用互換性があるため、開発者はすでにEVMで稼働しているDAppsを、コードをほとんど変更することなくデプロイできるという特徴があります。

一方、EVMの課題として、開発者向けの高性能でスケーラブルなオプションが欠けていることが指摘されています。イーサリアム(レイヤー1)やイーサリアムのロールアップ(レイヤー2)では、1秒間に30トランザクション以上を維持することはできません。そのため、パラレルEVMの採用により、より広範なイーサリアムエコシステムのためのスケーリングアプローチとして、開発者に新たな選択肢となることが期待されています。

パラレルEVM採用のプロジェクト例

パラレルEVMを採用しているプロジェクトをいくつか紹介します。

■Sei

Seiはv2への更新によりパラレルEVMの技術を活用し、全ての資産取引を行うアプリケーション向けに拡張性の高いプラットフォームを提供しています。パラレルEVMを利用することでファイナリティ390ミリ秒、常時45TPSを超えるアクティビティを記録しています。

■NEON(ネオン)

NEON EVMは、Solanaブロックチェーン内にEVMをシームレスに統合しています。従来のプラットフォームとは異なり、開発者はコードを変更することなく、イーサリアムのアプリケーションをSolana上に直接デプロイできます。Solanaの技術力を活用し、セキュリティ、分散化、持続可能性の向上を実現しています。

他にもMonad(モナド)、Eclipse(エクリプス)、Lumio(ルミオ)、Polygon Miden(ポリゴンマイデン)がパラレルEVMを採用しています。

Sei v2に見るパラレルEVMの課題と解決策

最後に、パラレルEVMを採用したプロダクトの例として、“最速パラレルEVM”とも言えるSei v2の取り組みについて紹介します。パラレルEVMが抱える課題に対しても、v2にアップグレードする際に独自の解決策を展開しています。

■パラレルEVMの課題

パラレルEVMの課題として、トランザクションを並行して実施するため、コンフリクト(競合)するデータが処理されてしまう可能性があります。

イーサリアムのブロックに記録するには、ユーザーがリクエストしたトランザクションが他のノードによって検証・実行され、ネットワークにコミットされる必要があります。コミットされるとEVMのステート(ブロックチェーンデータの状態)が変更され、ネットワーク内の全てのノードにブロードキャストされる仕組みになっていますが、並列処理をすることにより、同時に同じステートの変更を要求されることが起こり得ます。

■パラレルEVMの課題に対するSeiの解決策

Sei v2では、トランザクションの並行処理で起こり得るコンフリクトへの対応として、Optimistic Parallelization(オプティミスティック並列化)の機能を実装しました。この機能により、開発者が依存関係を定義することなく、ブロックチェーンの並列化をサポートできるようになります。オプティミスティック並列化では、コンフリクトが発生すると、チェーンは各トランザクションのストレージ部分を追跡し、これらのトランザクションを順番に再実行するようになっています。

このプロセスは、未解決のコンフリクトが全て解決されるまで再帰的に(プログラムが自分自身を呼び出し)続けられます。トランザクションはブロック内で順序付けされるため、このプロセスは決定論的(同じ入力が与えられると、常に同じ出力を生成するアルゴリズム)であり、チェーンレベルの並列性を維持しながら開発者のワークフローを簡素化します。

オプティミスティック並列化の競合が発生した場合のTxライフサイクル(出所:Sei v2 - The First Parallelized EVM Blockchain)

またSei v2では、SeiDBと呼ばれる新しいデータ構造を導入し、プラットフォームのストレージレイヤーを最適化しています。SeiDBの主な目的は、ネットワークがデータ過多になる問題であるステートの肥大化を防ぎ、新しいノードの状態同期プロセスを簡素化することです。さらに、コンセンサスアルゴリズムにはツイン・ターボ・コンセンサスを採用しており、バリデーターがさらに迅速にコンセンサスに達することができ、Seiブロックチェーンの全体的なパフォーマンスとスケーラビリティを強化しています。

これらの設計により、Sei v2は最大で毎秒28,300件のバッチトランザクションのスループットを提供し、ブロックタイム390ミリ秒、ファイナリティ390ミリ秒を実現します。

Sei v2のように、2024年には各社が様々なアプローチでパラレルEVMの開発を進め、新プロジェクトが市場に出回ることが予想されます。ユーザーへのメリットとして今後、慣れ親しんだMetaMaskなどのEVM環境でも、高速トランザクションによってさらに快適な体験ができるようになるかもしれません。


制作:株式会社Kudasai

株式会社Kudasaiは、2020年に創設された日本最大級の暗号資産コミュニティ「KudasaiJP」を起点とし、株式会社化されました。株式会社KudasaiはWeb3企業のみならず、Web3に関わる全てのプロジェクトや企業の成長を支援する企業です。ブロックチェーンスタートアップの計画・開発やアドバイザリー、コミュニティ拡大まで、多面的かつ包括的な成長支援ソリューションを提供しています。

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