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DAOにまつわる事件からDAOの課題を考える(2)(コラム)

DAOにまつわる事件からDAOの課題を考える(1)」では2016年に起きたThe DAO事件、2022年に起きたBeanstalkのマルウェア事例、MakerDAOのリスクについて解説しました。今回は2023年に起きたDAOにまつわる二つの事件を解説します。


Arbitrum AIP-1事件

Arbitrum(アービトラム)は2020年9月にEthereum Layer2(イーサリアム レイヤー2)として稼働を始めたチェーンです。2023年3月下旬に過去のユーザーなどにエアドロップを行ない、各取引所に上場して取引が開始され、トークンを用いたガバナンスが始まりました。

AIP-1では、約1,300億円を予算としたオペレーションコストを含む最初のプロポーザルが提案されていました。しかし、プロポーザルに含まれる課題が非常に多く、使用用途の透明性も認められないという理由から否決されました。にもかかわらず、Arbitrum運営はプロポーザルが通ると考えていたからか、一部のトークンを既に売却していることがオンチェーンデータより判明します。運営側が予算を計上して使用用途まで決め、支払いを終えるつもりで形式上投票を行なっただけであったことがコミュニティに判明してしまい、非常に大きなニュースとなりました。

その後、Arbitrumはプロポーザル内容の分割や透明性の向上をもって再度プロポーザルを行いました。このケースはDAOと銘打っていても、実質的な資金管理者がDAOと異なる意思と行動を取り得ることが浮き彫りとなった一件だと言えるでしょう。

NounsDAO事件

Nouns(ナウンズ)DAOは最も有名なDAOの一つで、自動生成アートを毎日1枚オークションにかけ、その売り上げをトレジャリー保管としているDAOです。生成されるNFTアートはピクセル調の画風で、初日のオークションでは613.37ETH(イーサ、当時のレートで約2億1,300万円)もの価格で落札されました。トレジャリー貯蓄されている資産の使い道に関してはDAOで協議され、子どもに眼科検診を提供するようなことから、カエルの命名権を1,000万円超の価格で取得することまで、様々な用途に使用されました。

DAO設立当初は、プロモーションなどを通じてNounsDAOを広く宣伝していくためにお金を使うという思想に賛同していたDAOメンバーが多かったものの、次第に「トレジャリーに保管された資金量がNounsDAOの裏付けとなる」という考えのホルダーも増えていきました。そのため、暗号資産の弱気相場が続く中でカエルの命名権取得のようなお金の使い方は考え方の異なるホルダー間の意見対立を強めていきました。

これに乗じた勢力がもう一つありました。DAOのトレジャリーに目をつけていたアービトラージ(アービトラージ:裁定取引)トレーダーたちです。彼らはNounsDAOに参加するためにNounsを購入する段階からDAOのトレジャリー価値(=資産の総量)と、もしDAOが解散した時に各Nounsに割り当てられるだろう金額をシミュレートしながらNounsを購入していきました。

例えば、トレジャリーの総資産が1,000ETH、発行済みNounsが100Nounsであれば、1Nounsの価値は10ETHと見なすことができます。つまり、オークションでそれ以下の価格、例えば8ETHでNounsを購入できたとすると、DAOが解散した時には10ETHを受け取れるため、調達に要した8ETHを差し引いた2ETHが利益となります。実際に2022年11月頃から、トレジャリー資産を裏付けとした場合の価格よりも、オークションでの取引価格が下回るようになり、トレーダーたちの標的となり始めます。

ちなみに、オークション価格がトレジャリーベースの価格よりも低い値付けになってしまったのはNFT市況の影響もありますが、トレジャリーが最終的に各NounsNFTに帰属するかという部分が不透明だったからでしょう。つまり、NounsNFTを購入してもDAOのトレジャリーについての権利を持つわけではなかったという背景があります。

2023年8月、フォーク(DAOの分裂)を実装するプロポーザルが可決され、9月にフォークが行なわれました。その結果、56%のホルダーがフォークに賛同し、オリジナルのNounsDAOは約40億円を失うことになりました。トレーダーたちはこの混乱に乗じて、資金を引き出すことで利益を確定していきました。

投票券の51%以上を取得し、自らに有利な提案を行うような単なる51%攻撃だけではなく、トレジャリー価値が大きいDAOは様々な攻撃の可能性に晒されていると言えるでしょう。


制作:株式会社Kudasai

株式会社Kudasaiは、2020年に創設された日本最大級の暗号資産コミュニティ「KudasaiJP」を起点とし、株式会社化されました。株式会社KudasaiはWeb3企業のみならず、Web3に関わる全てのプロジェクトや企業の成長を支援する企業です。ブロックチェーンスタートアップの計画・開発やアドバイザリー、コミュニティ拡大まで、多面的かつ包括的な成長支援ソリューションを提供しています。

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