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丸井グループのデジタル社債で広がる社会貢献の輪、高まる顧客エンゲージメント(コラム)

セキュリティ・トークン(デジタル証券)を用いれば、証券会社などの金融機関に限らず、事業会社自身が販売会社となって債券を発行することも可能です。2022年6月に国内事業会社として初めて公募自己募集型デジタル債を発行した株式会社丸井グループは、その後も第2回(2022年10月発行)、第3回(2023年9月発行)と取り組みを継続しています。

このデジタル債はブロックチェーン技術を活用した社債(セキュリティ・トークン)のことであり、エポスカード会員を対象にしたソーシャルボンドとして発行されました。丸井グループでは、この取り組みを「応援投資」と位置付けています。丸井グループがセキュリティ・トークンの発行を通じて目指すことなどを、応援投資のプロジェクトリーダーでもあった取締役常務執行役員CFOの加藤浩嗣(ひろつぐ)さんに話を聞きました。

株式会社丸井グループの「応援投資」は発展途上国への支援につながっています(写真提供:五常・アンド・カンパニー株式会社)

Alipayみたいな手軽にできる投資を

――丸井グループがセキュリティ・トークンを発行するに当たり、どのような議論があったのでしょうか。

加藤:そもそもの話をすると、2016年に中国や香港に調査へ行った際、人民元で支払いを行うQRコード決済サービスアプリ「Alipay(アリペイ/支付宝)」が若年層に親しまれていることが気になったのが始まりです。Alipayは決済だけではなく、MMFで資産運用ができるようになっています。当時は年率4~5%の利息がついていたこともあり、若手社会人は給料が入るとすぐにアプリにお金を入れる現象が起きていました。同様の取り組みが日本でもできたらと思っていましたが、実現するにはハードルが高いことが分かりました。でもそこで「投資」は一つのヒントだと考えたわけです。丸井グループは元々、発展途上国へのマイクロファイナンスを担う五常・アンド・カンパニー株式会社とクラウドクレジット株式会社に出資をしていましたが、その社会貢献の輪をエポスカード会員に広げるのはどうかという案が出ました。エポスカード会員には社会貢献に関心が高い層もいることは分かっていましたし、ただ投資をするのではなく、社会貢献につながるのであればエポスカード会員にとってより心理的満足度の高いことができるのではないかと考えました。そんな中、2020年5月に改正金融商品取引法施行によってセキュリティ・トークンが法制化され、2021年5月に野村證券からセキュリティ・トークンの提案を受けました。

――エポスカード会員向けの投資商品として、どんなところがセキュリティ・トークンを開発する決め手になりましたか。

加藤:まず、1口1万円からという少額投資ができることです。また、今回の取り組みにおいてエポスカード会員とのエンゲージメントを高めるという目的があったため、投資家と直接つながれることは大きなポイントでした。通常の社債だと、証券会社が発行する社債を証券会社の顧客が購入するため、まだ丸井グループに接点がない顧客からも資金調達ができる一方で、その接点は証券会社を介したものにとどまってしまいます。自己募集のセキュリティ・トークンであれば丸井グループが販売する立場となるため、投資家と直接やり取りができるようになります。もう一つ、セキュリティ・トークンであればリターンを金銭以外のものに設定できるため、利息としてエポスカードのポイントを付与できることも魅力的だと考えました。

エポスカード会員とのエンゲージメントを高める施策として、社会貢献は大きなテーマになると丸井グループは考えました(写真提供:株式会社丸井グループ)

――エポスカード会員には社会貢献に関心が高い層もいるとのことですが、他にエポスカード会員にはどんな傾向があるのでしょうか。

加藤:エポスカード会員は約7割が女性、約半数が30代以下という特徴があります。ニーズとしては社会課題の解決に貢献したいと考えている人が7割いる以外にも、短期で比較的利回りのいい投資がしたいという声もありました。2018年にエポスカードでつみたて投資とポイント投資ができるtsumiki証券株式会社(丸井グループが100%出資)が設立されたことで、長期的な運用ができる環境はすでにありましたが、短期的な投資ができる環境はまだありませんでした。つまり、社会貢献と短期的な投資を組み合わせた商品を作れれば、間違いなくエポスカード会員のニーズを満たすものになるという確信がありました。

第1回は募集3時間で1億円突破

――丸井グループが2022年6月20日に発行した「第1回無担保セキュリティトークン社債(社債間限定同順位特約および譲渡制限付)(ソーシャルボンド)」は、国内事業会社として初の仕組みとなる公募自己募集型デジタル債となりました。丸井グループでは応援投資を位置付けていますが、これはどのようなスキームだったのでしょうか。

加藤:Securitize Japan(セキュリタイズ ジャパン)株式会社のプラットフォーム「Securitize」を利用して、丸井グループは自己募集でセキュリティ・トークンを発行しました。Securitizeの管理画面では販売状況や投資家情報をリアルタイムに把握でき、これらの情報はマーケティングにも活用できるようになっています。発行に当たってはフィナンシャル・アドバイザーの野村證券にサポートいただきました。自己募集をしてみて私自身が実感したことですが、法律的な解釈や対応なども含め、証券会社のノウハウがないと事業会社だけではやはり厳しいと思います。そこは野村證券に感謝していますし、だからこそ第2回と第3回も同じスキームで実施しています。

発行後に開示されたセキュリティ・トークンの概要

――第1回から第3回まで、利率(税引き前)は年1%(金銭0.3%、エポスポイント0.7%)、年限は1年、発行金額は第1回と第2回が各1億円程度、第3回は2億円程度と定めてエポスカード会員に募集しました。投資家の反応はいかがでしたか。

加藤:第1回では募集開始からわずか3時間で目標額の1億円に到達し、最終的には発行予定額の約20倍もの応募がありました。第2回では募集期間は1週間と短かったものの約15倍の倍率となり、第3回でも多くの応募がありました。想定外の反響に驚いています。特に第1回を実施した際は初めての取り組みだったこともあり、丸井グループとしてはどのぐらいの応募があるのか全く読めませんでした。

――投資家にはどんな傾向がありますか。

加藤:第1回と第2回のデータでは30代以下が38%となり、1万円から投資できる手軽さが若年層にも支持されたようです。また投資経験については、tsumiki証券でつみたて投資をしている方が半数近くいた一方で、社債を購入するのは初めてという人も多かったようでした。エポスカード会員向けに自己募集でセキュリティ・トークンを発行する前に、証券会社を通じて個人投資家向けの社債(リテール債、非セキュリティ・トークン)の発行もしていましたが、リテール債は購入金額が100万円からということもあり、40代以上が96%と圧倒的に多く、投資家の傾向が異なっていました。

――セキュリティ・トークンの良さとしては投資家と直接つながるところですが、応援投資では投資家に対してどのようなことを実施していますか。

加藤:投資家に対するレポートをテキストだけでなく動画でも届けています。投資家から集めた資金は五常・アンド・カンパニーとクラウドクレジットを通して、世界各地にあるマイクロファイナンス機関に融資をしました。リテール債、第1回と第2回のデジタル債で集まった総額約15億円で、自己実現を目指す約3万3,000人に融資を行っています。特に今回、五常・アンド・カンパニーからはインドのSATYA MicroCapital Ltd.(以下、SATYA)に融資をしました。SATYAでは女性の自立を支援しており、織物事業や大理石の彫刻事業など様々な事業に資金が生かされています。そうしたレポートを五常・アンド・カンパニー経由だけではなく、実際に丸井グループの社員が現地に行き、融資を受けた人々の想いを届ける動画もYouTubeで公開しています。

YouTube「この指とーまれ! 丸井グループ」の「【丸井グループの取り組み密着】応援投資の実態調査 inインド」(2023年5月30日公開)より

常時、投資ができる状態にするのが理想

――応援投資に応募した人からはどんな声が届いていますか。

加藤:第1回と第2回の応募者の中から2,051人(有効回答は801人)に実施したアンケートでは、応募を決めた理由を複数回答で聞いた際、1%(ポイント含む)と利率が良い点を挙げた人が76%、次に丸井グループへの信頼性(48%)と答える人が多かったです。実際に、「預金するより意味のあるお金の使い方。銀行で『冬眠』させないことに価値を感じました」(40代)、「寄付先を探していましたが、行動はしていませんでした。途上国への応援が投資になるので応募しました」(50代)、「利回りが良く、デジタル技術を活用した新しい取り組みで小口から投資できるので、おもしろそうだと思いました」(40代)などという声も届けられています。次回も応募したいと答えた人は約99%もおり、ニーズの高さがうかがえました。

――過去3回は全て抽せんになるほどニーズは高いようですが、今後、エポスカード会員以外も対象にする構想はありますか。

加藤:セキュリティ・トークンの狙いの一つがエポスカード会員とのエンゲージメントを高めることなので、対象をエポスカード会員以外に広げることは今のところ考えていません。実際、エポスカード会員のうち、応援投資に応募した人と応募していない人を比較すると、応募した人の方が2割ほどエポスカードの利用が増えたという結果も出ており、今回の応援投資がエポスカード会員の満足度向上につながっていることを実感しています。

――丸井グループでは今後、どのようにセキュリティ・トークンの活用を進めたいと考えていますか。

加藤:ブロックチェーン技術を用いた商品開発はセキュリティ・トークンの発行による応援投資以外にも構想していますが、今のところ具体的な計画として動いているものはありません。そのため現状は応援投資を中心にしていく予定です。構想のきっかけとなったAlipayのように常時、投資ができることが理想のため、応援投資の取り組みを高頻度で実施したいと考えています。ただ毎回、目論見書などを投資家に交付するなどの作業が発生し、なかなか頻度を高められない事情もあります。そのあたりは新しい手段も考えながら事業を進めていきたいと思っています。また、五常・アンド・カンパニーとクラウドクレジット以外にも連携先を増やし、社会課題の解決を目指す企業への融資先を広げることができればとも考えています。

丸井グループは2021年、企業価値向上のために2026年3月期を最終年度とする5カ年の新中期経営計画を策定しています。この応援投資を通じたマイクロファイナンスの取り組みは、財務指標とは別に定めた6個のインパクトのうち、「サーキュラーなライフスタイルの選択肢の提供(顧客数100万人以上)」「信用の共創に基づく金融サービスの提供(顧客数450万人以上)」「一人ひとりの「好き」を応援する選択肢の提供(顧客数350万人以上)」などに当てはまると考えています。新中期経営計画3年目にあたる2023年11月現在、この応援投資を含めて順調に計画が進んでいると感じています。


取材協力:株式会社丸井グループ

1931年創業。商業施設運営など小売事業を行う株式会社丸井やクレジットカードを軸としたフィンテック事業を行う株式会社エポスカードなどを傘下に持つ持株企業であり、小売事業やフィンテック事業、情報システム事業、総合ビルマネジメント事業など、グループの経営計画・管理などを担う。創業者の言葉「信用はお客さまと共につくるもの」に由来する「信用の共創」で顧客に寄り添い共感し、「景気は自らつくるもの」という創業者のもう一つの言葉の通り、顧客の「しあわせ」や社会の変化に柔軟に対応し、新たな需要や市場の創造を目指す。

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