見出し画像

アカウントアブストラクション(アカウント抽象化) 4: 稼働初年の傾向(コラム)

アカウントアブストラクション(Account Abstraction、アカウント抽象化)は、イーサリアム(Ethereum)の規格の一つであるERC-4337で定義され、簡単に言うと「ユーザーがスマートコントラクトをウォレットとして使用できるようにする」ものです。イーサリアムのメインネット上でERC-4337スマートコントラクトアカウント(スマートコントラクトウォレットと同義)が稼働した2023年3月1日から2024年1月現在まで、どのような成長が見られたのか、アカウント数の推移やプロダクトの傾向など解説します。

なお、本単元はブロックチェーン開発プラットフォーマーであるAlchemy(アルケミー)が提供する「Understanding Account Abstraction」の内容を翻訳、一部再編集したものとなります。


540万以上のUserOperationsを実行

ERC-4337スマートコントラクトアカウントでは、基本的なトランザクションの代わりにUserOperation(ユーザーオペレーション)を開始することができます。UserOperationとはBundler(バンドラー)によってバンドルされた(取りまとめられた)メタトランザクション(トランザクション送信者がガス料金を支払わずにトランザクションを送信できる技術)のことです。2023年第4四半期には540万件以上のUserOperationが実行され、2023年第3四半期と比較して194%増加しています。

月別に見たUserOperationの推移

2023年第4四半期において、ERC-4337スマートコントラクトアカウントの成長を牽引したアプリのトップ3は以下の通りです。

■1. Grindery

ユーザーがトークンを送受信できるTelegram(テレグラム)ボット。サインアップを促進するためにトークン奨励プログラムを実施しており、2023年12月にはUserOperationの35%が、Grinderyトークンをイールドファーミングする(DeFiのプロトコルで暗号資産を運用して報酬を得る)ユーザーによって実行されました。

■2. FanTV

動画ストリーミングプラットフォーム。ユーザーが動画を視聴するとトークンが付与される仕組みになっており、2023年12月にはUserOperationの18%が、ユーザーがFanTVに報酬を請求し、送金することによって実行されました。

■3. CyberConnect

Web3ソーシャルアプリ。CyberConnectのスマートアカウントは、2023年12月時点でUserOperationの13%を占めています。

その他、ERC-4337スマートコントラクトアカウントが採用された事例としては以下のようなものもあります。

・ステーブルコイン(USDC、USDTなど)による送金
・CapXというプラットフォームでオンチェーン・クエストを完了し、トークンを獲得する
・EigenLayerというイーサリアムの再ステーキングを行うプロトコルへのステーキング

Multi-UserOperationバンドルが急増

ERC-4337スマートコントラクトアカウントのバンドルトランザクション数を見てみましょう。割合で見た場合、2023年第4四半期にはMulti-UserOperation(複数のユーザーオペレーション)を含むバンドルトランザクションの数が急増しています。10月には32%でピークを迎え、12月には9%まで減少しましたが、相対的には上昇傾向にあります。

Multi-UserOperationを含むバンドルトランザクションの割合

バンドルを実行するためのコストがより多くのUserOperationに分散されると、1ユーザーあたりの手数料を低くすることができるため、一つのバンドルに含まれるUserOperation数を増やすことは重要です。また、ガス価格によって収益を上げているBundlerから見ても、コストがより多くのUserOperationに分散することは、より多くの利益を得ることにつながります。

Polygonがアカウント導入をリード

次に、ERC-4337スマートコントラクトアカウントのアクティブ数をブロックチェーン別に見てみましょう。2023年第3四半期には、Optimism(オプティミズム)およびArbitrum(アービトラム)のブロックチェーンが、8月中の月間アクティブアカウント数でPolygon(ポリゴン)のブロックチェーンを上回っていました。しかし9月にはPolygonが首位になり、12月にはPolygonは月間アクティブアカウントの92%を占めています。

アクティブ数に関しては、そのブロックチェーン上にどのようなDappsがあるのかが大きく影響していると考えられます。特にOptimismではCyberConnectのエアドロップ、ArbitrumではZTXのNFTミント、PolygonではGrinderyやFanTVなど、アクティブなイベント開催の有無も影響しているようです。

チェーン別スマートアカウントの月間アクティブ数

新規ユーザーもリピーターも増加傾向

月間5件以上のUserOperationを提出するERC-4337スマートコントラクトアカウントを「パワーユーザー」と定義し、よりアクティブなユーザーがどれだけ増えているかを調べると、2023年9月にはパワーユーザーが1,688人から2万5,000人以上へと15倍に増加しています。

UserOperation送信数でグループ化した月間アクティブアカウント数の推移

また、ERC-4337スマートコントラクトアカウントを月別に見た場合、その月に初めてUserOperationを行ったアカウント(新規ユーザーのアカウント)の割合は、2023年第3四半期末の71%から2023年第4四半期には88%に上昇しています。

新規ユーザーとリピーターユーザーを比べると圧倒的に新規ユーザーが多いものの、リピーターユーザーも増加傾向にあり、9月の4万7,000人から12月には5万3,000人へと13%近く増加しています。

月間アクティブアカウントにおける、新規ユーザーとリピーターの比較

Paymasterの取引量が100万ドルを突破

ERC-4337スマートコントラクトアカウントのPaymaster(ペイマスター)は、アプリケーションやウォレットに対して柔軟なガスポリシー実装を可能にします。これらのポリシーには、ユーザーにガス料金を補助したり、ステーブルコインや他のERC-20トークンでのガス支払いを可能にしたりするオプションが含まれます。

2023年第4四半期には97%のUserOperationにおいて、ETHで手数料を支払う標準的なアプローチではなくPaymasterが使用されており、PaymasterはERC-4337エコシステムで大きな採用率を獲得しています。このPaymasterの取引量の推移を見てみると、2023年12月時点で累積のPaymaster取引量は100万ドルを超えています。

全Bundlerの累積ペイマスター取引量(米ドル)

Bundler事業者別のガス消費額を見てみると、2023年第4四半期では、Pimlico(ピムリコ)が全体の28%、StackUp(スタックアップ)が26%、Alchemyが24%、Biconomy(バイコノミー)が8%のトランザクションを処理しています。

Paymasterの月間ガス消費額(Bundler事業者別)

アカウント抽象化によるERC-4337スマートコントラクトアカウントは2023年に普及率を伸ばしてはいますが、MetaMask(メタマスク)などのようなEOA(Externally Owned Account、外部所有アカウント)ウォレットに比べるとまだ普及率が低いのが現状です。しかしAlchemy社は今後、より多くのDappsが登場する中で、EOAウォレットよりも高い普及率になる可能性があると指摘しています。


制作:株式会社Kudasai

株式会社Kudasaiは、2020年に創設された日本最大級の暗号資産コミュニティ「KudasaiJP」を起点とし、株式会社化されました。株式会社KudasaiはWeb3企業のみならず、Web3に関わる全てのプロジェクトや企業の成長を支援する企業です。ブロックチェーンスタートアップの計画・開発やアドバイザリー、コミュニティ拡大まで、多面的かつ包括的な成長支援ソリューションを提供しています。

Web3ポケットキャンパスはスマホアプリでも学習ができます。アプリではnote版にはない「クイズ」と「学習履歴」の機能もあり、よりWeb3学習を楽しく続けられます。ぜひご利用ください。

▼スマホアプリインストールはこちら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?