見出し画像

スケーラビリティ問題を解決する新ソリューション「モジュラー・ブロックチェーン」とは(コラム)

暗号資産やNFTなどの利用が増加するにつれて、ブロックチェーンのスケーラビリティが問題になっています。これまでにも様々なスケーリングソリューションが開発されてきましたが、2023年より注目されるようになったソリューションの一つに「モジュラー・ブロックチェーン」があります。2024年3月にイーサリアム(Ethereum)が行った大型アップグレード「Dencun(デンクン)」も、モジュラー・ブロックチェーンの可能性を広げることが期待されています。モジュラー・ブロックチェーンとはどんなものなのか、メリットとデメリットを解説します。

このコラムではモジュラー・ブロックチェーンについて、Web3インフラ企業であるalchemy社の「Modular vs. Monolithic Blockchains」を翻訳、再編集して解説をします。


従来型のモノリシック・ブロックチェーンが抱える課題

モジュラー・ブロックチェーンとは、ブロックチェーンのコアタスクをモジュール化して分離し、それぞれのタスクを専用のレイヤーが処理することでスケーラビリティ問題を解決するソリューションです。2023年10月にモジュラー・ブロックチェーンのCelestia(セレスティア)がメインネットで稼働し、多くのリサーチ企業やベンチャーキャピタルが2024年にさらに飛躍すると予想しています。

モジュラー・ブロックチェーンの仕組みについて触れる前に、ブロックチェーンのタスクについて簡単に解説します。全てのブロックチェーンには、コンセンサス(Consensus)、トランザクションの実行(Execution)、データアベイラビリティ(Data Availability)、セトルメント(Settlement)というコアタスクがあり、これらのタスクを処理することでブロックチェーンは維持されます。

■コンセンサス
トランザクションの内容や順序について合意します。

■トランザクションの実行
ブロックチェーンの状態を新しい状態に更新することを意味し、スマートコントラクトのデプロイとインタラクション(相互作用)を可能にします。

■データアベイラビリティ
ブロック作成者が、他のネットワーク参加者がトランザクションデータをダウンロードできるようにすることでアベイラビリティ(可用性)を保証します。

■セトルメント
トランザクションの確定、紛争(トランザクションデータへの異議申し立て)の解決、証明を検証します。

一般的に、ブロックチェーンはこれらのタスクを同じレイヤーで処理しており、このようなタイプのブロックチェーンは「モノリシック・ブロックチェーン」と呼ばれています。この「モノリシック」とは、「単一のピースから形成される」という意味です。

モノリシック・ブロックチェーンはシンプルな作りで、セキュリティ面の強みや開発の容易さなどメリットがある一方で、効率が悪く、スケーラビリティの問題やデータの増大など主にパフォーマンス面で多くの課題があります。

そこで最近では、従来のモノリシック・ブロックチェーンの課題を解決するソリューションとして、モジュラー・ブロックチェーンの人気が高まっています。

モジュラー・ブロックチェーンで処理の効率化を図る

モジュラー・ブロックチェーンは、ブロックチェーンの各タスク(コンセンサス、トランザクションの実行、データアベイラビリティ、セトルメント)を「モジュール」化したものであり、それぞれを専門的に処理する実行レイヤーを準備することでブロックチェーン処理の効率化を図る仕組みです。

モジュラー・ブロックチェーンはモジュラリティの原理に基づいて動作します。これは、システムを特定の目的を達成するための独立したコンポーネントに分けることを指します。モジュラー・ブロックチェーンの各コンポーネントは「プラグイン可能なモジュール」として機能し、ユースケースに応じて入れ替えたり、統合したりすることができます。

モジュラー・ブロックチェーンのメリット

モジュラー・ブロックチェーンの設計には、スケーラビリティ、新しいブロックチェーンのローンチの容易さ、柔軟性(フレキシビリティ)といったメリットがあります。

■スケーラビリティ
ブロックチェーンにモジュラリティを適用することで、分散化やセキュリティなどを犠牲にすることなくスケールが向上します。

■新しいブロックチェーンのローンチの容易さ
モジュール化のアプローチにより、セキュリティなど特定のタスクを処理するために別のモジュラー・ブロックチェーン・コンポーネントを組み込むことができ、開発者はトランザクション実行など最低限のことに集中できるようになります。

■フレキシビリティ
セキュリティとデータアベイラビリティを重視するモジュラー・ブロックチェーンや、トランザクション実行を重視するモジュラー・ブロックチェーンなど、開発者はその目的に応じてブロックチェーンをカスタムできる柔軟性があります。

モジュラー・ブロックチェーンのデメリット

一方でモジュラー・ブロックチェーンには、セキュリティ、複雑性、トークン価値の希薄化というデメリットもあります。

■セキュリティ
モノリシック・チェーンとは異なり、モジュラー・チェーンは自分自身でセキュリティ品質を保証することができないため、セキュリティ・レイヤー(通常はコンセンサスとデータアベイラビリティを扱う)の設計には注意が必要です。

■複雑性
例えば実行レイヤーには、不正証明や有効性証明など、モノリシック・チェーンでは考える必要のなかった複雑なメカニズムが必要になる場合があります。

■トークン価値の希薄化
コンセンサスとデータアベイラビリティに特化したレイヤーは、実行レイヤーと比較してユーティリティ・トークンの利用が少なくなり、トークン価値が低くなってしまうため、当該ネットワークに参加者を集めるのが難しくなるかもしれません。

モジュラー・ブロックチェーン・プラットフォームの例

モジュラー・ブロックチェーン・プラットフォームの例として、以下のようなものがあります。

■イーサリアム
イーサリアムにはデータシャーディング(コンセンサスとデータアベイラビリティを分離)やロールアップ(実行をアウトソース)などのソリューションがあり、一種のモジュラー・ブロックチェーンとなっています。

■Celestia、Polygon Avail
CelestiaとPolygon Avail(ポリゴンアヴェイル)は、主にコンセンサスとデータアベイラビリティに関わる二つの新しいモジュラー・ブロックチェーンです。CelestiaとPolygon Availのノードはトランザクションの保存と順序付けのみを担当し、実行のためにトランザクションデータを受け取ることはありません。これらのブロックチェーンは、他の実行レイヤー(ロールアップなど)のデータアベイラビリティ・レイヤーとして機能することが期待されています。

■ロールアップ
イーサリアムレイヤー2ソリューションとして知られるロールアップは、モジュラー・アプローチを採用しています。ロールアップは実行レイヤーとして機能し、その他の機能についてはイーサリアムに依存しています。

モジュラー・ブロックチェーン vs. モノリシック・ブロックチェーン

モノリシック・チェーンにもモジュラー・チェーンにもメリットとデメリットがあります。大きな資金を取り扱うDeFiアプリケーションはセキュリティ保証を第一としてモノリシック・チェーンを選ぶかもしれませんし、より安価で迅速なオペレーションを必要とするプロジェクトには、実行に最適化されたモジュラー・チェーンが適しているかもしれません。

どちらのチェーンを選択するかは、プロジェクトのニーズと許容できるトレードオフを理解する必要があります。


制作:株式会社Kudasai

株式会社Kudasaiは、2020年に創設された日本最大級の暗号資産コミュニティ「KudasaiJP」を起点とし、株式会社化されました。株式会社KudasaiはWeb3企業のみならず、Web3に関わる全てのプロジェクトや企業の成長を支援する企業です。ブロックチェーンスタートアップの計画・開発やアドバイザリー、コミュニティ拡大まで、多面的かつ包括的な成長支援ソリューションを提供しています。

Web3ポケットキャンパスはスマホアプリでも学習ができます。アプリではnote版にはない「クイズ」と「学習履歴」の機能もあり、よりWeb3学習を楽しく続けられます。ぜひご利用ください。

▼スマホアプリインストールはこちら


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?