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デジタル時代の顧客志向概念

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
家電量販店などで、メーカーから出向してきた店員さんと話していて、別メーカーの製品を勧められたことってないですか?あれ、不思議ですよね。自社製品を売り込むチャンスなのに、なんで他社製品を勧めてしまうのだろうと。実は、これもマーケティング的な意図があるようなのです。
今回は、そんな顧客志向について書いてみようと思います。


カスタマー・アドボカシー

デジタル環境が急速に進み、ユビキタス(どこにでもある)社会と言われる現代において、消費者は望む・望まぬに関わらず大量の情報に触れるようになっています。そうした環境下で、消費者は企業が提供する製品やサービスの情報を集め、主体的に取捨選択できる機会が、以前に比べ飛躍しました。
その結果、企業と顧客間のパワーバランスは、顧客側に傾いてきています。5フォースで言えば「買い手」の影響力が高まっているような状況です。
このような消費者側の影響力が増すデジタル環境下の顧客志向概念のひとつがカスタマー・アドボカシーです。
アドボカシー(Advocacy)は日本語にすると「弁護」「支援」「推薦」といった意味合いを持ちます。要するに、顧客を支援するという考え方です。顧客との長期的な信頼関係を築くために、自社の短期的な利益は置いておいて、顧客にとっての最善を追求しようというのが、カスタマー・アドボカシーの根底にあります。そのため、顧客にとって自社製品よりも他社製品が適しているならば、迷わず他社製品を薦めると言う行動に出ます。家電量販店で他社製品を薦めるメーカー担当者はおそらく、この概念のもとに行動していたのでしょうね。
確かに、無理に自社商品を売りつけるより、顧客側の視点で他社製品も候補として扱ってくれるセールスの方が好意が持てますし、そのセールスが所属する企業に対するプレファレンス(好意度)も上がる気がします。
「中の人」も先日、保険の営業さんにとある相談をしたのですが、「それなら、あまり弊社の商品はお勧めできないですね。〇〇というサイトが他社情報も含めて有用な情報が載っていますよ」といって第三者機関の情報サイトを紹介してくれました。それだけで、なんだか好意を覚えた記憶があります。
改めてカスタマー・アドボカシー志向を定義すると下記のようになります。

「企業が顧客利益の最大化をめざし、透明性を高め誠実に活動するために、顧客との相互支援活動を行いともに知識を高め、顧客にとって最高の製品を目指す。その結果、顧客との長期的な信頼関係を構築するための戦略志向」

山岡隆志「カスタマー・アドボカシー志向尺度の開発」『流通研究』

アドボケイト(Advocate)

アドボカシーの動詞形がアドボケイトなのですが、マーケティングでは企業や製品に対するロイヤルティが最も高い顧客をアドボケイトと呼びます。
「見込み顧客」→「初回顧客」→「得意客」→「サポーター」→「アドボケイト」といった顧客ロイヤルティの最終形態に位置しています。
ロイヤルティが最も高まったアドボケイトに属する顧客は、顧客紹介や製品推奨、正の口コミといった企業を支援するような動きをとるそうです。
さらに、コトラー大先生の『マーケティング4.0』によると、デジタル時代のカスタマージャーニとなる5Aモデルにアドボカシーを採用しており、その重要性を示してくれています。

5Aモデル
認知(Aware):広告や口コミなどでブランドを知る
訴求(Appeal):ブランドに引きつけられる
調査(Ask):積極的に追加情報を得ようとする
行動(Act):店舗やECサイトで実際に購入する
推奨(Advocate):SNSへの投稿や口コミなどで情報発信・共有を行う

このアドボケイトを獲得することは、SNSでの炎上対策にもなるそうです。
SNSで非難や批判などのコメントが集中的に投稿されることを炎上と言いますが、一度炎上してしまうと企業側がコントロールし沈静化することは極めて困難です。しかし、複数のアドボケイトによる好意的な投稿が炎上を沈静化するという効果を生むそうです。

カスタマー・アドボカシー志向5つの要素

カスタマー・アドボカシー志向は5つの中心概念で成り立っているそうです。以下にそれぞれ詳述していきます。

顧客利益最大化

企業の利益よりも顧客の利益を最優先しましょう。という考え方です。リレーションシップ・マーケティングに深く関係する部分ですが、顧客生涯価値(LTV)を意識したCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)活動は企業のメリットを優先する考えも含むという点で違いがあります。
例えば、コールセンターで商品に関係ない話でも長時間顧客の声に耳を傾けたり、事業とは関係のないサービスを紹介したり、顧客にとって最良の選択肢を選ぶことが顧客利益の最大化につながります。

透明性

さまざまな情報に即時にアクセスできるデジタル社会において、「透明性」は重要な要素です。フェイクニュースなど偽りの情報も多く溢れています。また、偏った情報が多く、触れている情報は多いのに実態は情報不足なんてこともあります。その状況を悪用しようという思考は顧客関係の悪化を招きます。自社に不利益な情報であっても積極的に公開するのが得策とされています。
スーパー大手のオーケーではオネストカードというPOPにネガティブな情報も公開し、顧客からの信頼を獲得しているそうです。

相互支援

企業が顧客を支援することで、顧客は製品を購入し、他者へ推奨する。あるいは製品改善に貢献するという相互支援の関係が成り立ちます。顧客が他の顧客に商品を語るという、顧客が顧客の支援をする流れが生まれることもあるそうです。SNSにおけるUGC(ユーザーによる投稿)などもその一部でしょう。

誠実性

透明性と近い部分ですが、顧客と関係を築いていくには信頼が必要不可欠です。信頼を生み出す上で誠実であることは重要なことですよね。法令遵守はもちろんのこと、倫理観や道徳観からも逸脱しない企業経営が求められます。

最高の製品

カスタマー・アドボカシーを採用している企業は、顧客にとって他社製品の方が優れていれば他社製品を推奨します。自社製品が最高の製品でないとすれば、他社製品のセールスとなんら変わらない活動になってしまうので、最高の製品作りが不可欠となります。他社製品を推奨する場面があった場合は、そのニーズと自社製品の弱みを分析し、製品改良にフィードバックすることで自社製品を推奨できるように改善をしていく必要があります。

まとめ

デジタル環境が充実し、消費者間のコミュニケーションの中心をアドボケイトと呼ばれるロイヤル顧客が担う場面が増えてきています。
特に、SNSのビジネス利用が活発になり、ULSSASモデルという消費者行動モデルが生まれる現代では、カスタマー・アドボカシー志向の重要性が高まっています。
UGCで認知し、タグる(SNSで検索)、購入後はSNSで拡散という消費者の声が大きくなっている中で、顧客利益を最優先にするという考え方は、長期的にプレファレンスの向上に寄与し、利益につながるのかもしれませんね。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
マーケティングの概念も時代に合わせて次々と更新されていくので、捕捉していくのが大変ですね。
ウェブ解析士は資格取得後も、様々なセミナーやフォローアップがあるので比較的最新情報を入手し易くはありますが、それでも自発的に情報を集めないと「学び終わったら古くなっている」状況から抜け出せませんね。
「中の人」もこのnote執筆を通して、なんとか学び続けることができています。いつか、読んでくださる皆さんと情報共有・交換や勉強会なんかができたらいいなぁとか思っています。
それでは、また来週お会いしましょう。


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