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鰻の白焼きとレンコン畑。

「久しぶりに晴れたから、うなぎの白焼きを食べに行こうよ。」

3年ほど前に出会った友人はそう言った。元々は石垣島の辺銀食堂の辺銀暁峰さんから紹介してもらった。辺銀さんは日本でも有数のライカコレクターだ、辺銀食堂のカウンターでズラーッと並べたライカのコレクションをみて、もしもカメラ好きだったらここに行けばいいよと紹介してくれたのが、彼だった。聞けば、辺銀さんの師匠筋という。

僕と彼とは食を通して仲良くなっていった。僕の周りの日本人の友人の中で圧倒的な知識量があるのは堀江貴文だが、彼もまた恐ろしいぐらいの知識を持っている人間だ。二人とも少し似ていて、どちらも手を動かすのが好きなのと、自ら実践して実験してみるところだ。知識量が多い人はたくさん知っているが、ここに実践したオリジナルの経験値がないとなんとも座学で読書しているみたいな気分がある。

真っ青のジャガーで現れた彼はメリディアンの16個あるスピーカーについて説明をしだした、車の音響っていうのはさ、音場がどこにいってもキープされているっていうことなんだよね。天井の素材を確認するとアルカンターラだった。元々はイタリアのメーカーと日本の東レが共同開発した人口皮革だ。日本語ではエクセーヌという。彼はこう続く。「スウェードっていうのはさ、指でなぞると起毛するのよ。だからいいの。でも日本の東レの社長かだれかが高級感がないっていって、起毛しなくしちゃった。台無しなんだよなぁ、そういうところが。」

お互いに最近の進捗と、利根川東遷事業の江戸時代の話ならをしながら、心地よいドライブでたどり着いたのは霞ヶ浦近く、土浦のレンコン畑奥にあるうなぎ屋さんだった。「ここはさ、外で食べられるんだよ。レンコンの酢漬けあるかな?白魚はとれてねーんだな、まぁいいや、とりあえず白焼きをもらうよ。」取れたてのレンコンはヌメーっとした粘着感がある。これが酢と相まってなんとも言えない。「ここは鰻の蒲焼きは全然大したことないんだけど、白焼きは世界一旨いんだよな。そしてこんな小春日和に外で食べられるっていう贅沢な場所。」

鰻も蒸しと焼きで説明してくれっていったら数十軒の名前が出てくるだろう。「東京はもう無くなっちゃったな、昔は結構あったんだけどね。」彼と鰻について語り、食べ終わったあとに二人でまわったのはジョイフル本田だ。「車だとこういうドデカイホームセンターまわれるんだよ。浜ちゃん好きでしょう?」とニコニコしながら、二人でありとあらゆるものを物色。今回購入したアイテムはスコッチブライトの新作のスポンジ、パイプ掃除洗剤のピーピースルーから始まる。この辺りの商品のウンチクストーリーが面白い。しっかりとパーソナルストーリー化されているストーリーテラーなのだ。

例えば、南部鉄器の底辺が錆びるのを避けたい僕が探していた電熱コンロ。そう都市ガスは水分をプロパンの1.5倍ほど含んでいるため、使っていると錆びてくる。昔は炭でやっていたわけで、今は電気コンロが一番いいわけだ。新しいお店用に石崎の小さな300wのものを買ったのだが、どうもしっくり来ない。そんなことを言ったらこういう。「そりゃ、おまえ。東芝だろ。東芝はそれで伸びた会社だからな。おー、まだ売ってるのか、偉いなぁ。俺なんか、昔金ないときにこれで暖をとっていたわけよ。ガス止められちゃったからね。」と大笑いする。

そんな彼とは新店舗の秘密のバーの、音を一緒にデザインしている。監修と設計は彼がしていて、海外からパーツをかき集めて作ったものだ。ジャガーのメリディアンもいい音だったが、1960年のJBLサウンドは魂が唸る、そんな音がする。いい音がなるために未だにセッティングを変え続けている。そして見つかったのはLED照明のノイズ、それを防ぐために照明屋と協議したりと、鰻探しと同じく終わりなき旅なのだ。

ほとんどの人にとってはどうでもいいことなんだけどね。でも今日から僕にとっては鰻の白焼きは青空の下でレンコン畑っていうのが原風景になった。そんな力強い原風景づくりをしていきたいと思う。

人生とはどうでもいい原風景探しの旅なんだなぁ。

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