ザリガニ人間②

 死因は外的要因、もしくは内臓の止めどない成長に脱皮が追い付かない成長過多である。つまり人間が徹底した管理をしたとすれば、永遠に生きつづけるのだ。

 ザリガニ人間……、ザリガニ人間は不死身の人間である。成長抑制剤を服用し、定期的に脱皮をしてさえいれば。そのことに気づいてから数十年、私は研究に没頭した。結論から言えば実験は成功したと言える。今日で私は百五十年目の年を迎えた。ケーキよりもロウソクのほうが高くつくくらいだ。写真を見ていただけたらお分かりになるだろう。私の体は、手術当時の四十二歳と全く変りはない。私の体にザリガニを想起させるようなハサミや甲殻の類は一切ない。私は不死の体を手に入れたのだ。皆さんにも是非体験していただきたい。この死の恐怖から解放された無上の喜びを、死刑宣告の覆った奇跡の体験を!

 しかしザリガニ人間になっていただく前にいくつか皆さんに注意をしておく点がある。先ほど申し上げたが、ザリガニ人間は週に一度成長抑制剤を服用しなくてはならない。生産に関してこれは我々のほうで十分な体制が整っており皆さんは決められた時間に必ず服用のことお願いしたい。後は数十年毎の脱皮、これは人によりまちまちだが、そのタイミングは各自兆候を感じ次第お願いしたい。薬を飲むのが面倒だとか、脱皮した皮は可燃ごみでいいのかだとかそんな野暮な質問はザリガニ「人間」である以上、人に聞くまでもないだろう。それともう一つ、これは少し驚かれる方もいるだろう。手術の副作用によるもので生殖機能を完全に失うということだ。しかし、これは実はさほど問題ではない。なぜなら不老不死の我々にはもう子孫を繁栄させる必要など無いのだから。何よりもまず我々は、種の完成、完璧な新人類の幕開けを祝うべきである。」

【続く】

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