月九第3回

短歌月九ネプリ 第三回『歌人明日なろ白書』三首選

こんばんは。若枝あらうです。

1月からスタートしたネプリ「月九」、第3号の配信終了が今週末に迫っております。このあいだよりは余裕あるかな…三首選をします。プリントアウトまだの方は是非下記ツイートを参考にお手にとってくださいませ。

以下、三首選。

僕が文鎮なら君は半紙だが抱きあえてるよそうじゃないので / 御殿山みなみ『hey, fever』より

文鎮の「僕」と、半紙の「君」はどんな関係性なんでしょう。きっと「君」は「僕」を包み込むような、やわらかな人なのでしょうね。もしかすると文鎮は半紙の自由を奪ってしまっているのかもしれない。結句の「そうじゃないので」というのは、「僕」と「君」が文鎮と半紙のような関係でありながらも、それでも人間だから「僕」も「君」を抱きしめられるのだと読みました。文鎮にしてはやさしすぎる歌な気もしますが、そうじゃないので、これで良いのでしょう。

「恋文の技術ですか」と問う司書の真剣な目を見られなかった / 西村曜

『恋文の技術』は実在する森見登美彦の小説なので、司書にありかを訪ねて真剣な目で見つめ返されることは、実際に起こりえることでしょう。その司書の目を見られなかった主体の中にはどんな葛藤があったのでしょう。主体は本当にその小説を読みたいだけだったのか、もしかすると(主体が自覚的であるかにかかわらず)本当にその技術を欲していたのか。なんでもないはずのシーンで浮き彫りになる主体の心の動きを想像できて、深みのある歌だと思いました。

句点まで丁寧に書く丸文字の少女から何も奪いたくない / 池田明日香

人に何かを教えるとき、それが却ってその人から何かを奪うものなのではないかという恐怖は、常に付きまとうものだと思います。丸文字は必ずしも美しい字ではないと思うのですが、それを「句点まで丁寧に書く」少女の中に主体は何か大切なものを見出していて、自らの立場を顧みている。主体も、その気持ちを誰かに、何かに、奪われないようにしてほしい。祈りを感じる歌でした。

三首選は以上なのですが、今月は次選に触れさせてください。最後まで本当に迷いました。

やみくもに包装紙やぶる子をおもう重機はかつての校舎を噛んで / 近江瞬『地図から消える』より

この歌が次選なのはおそらく、私が自分の中に経験がある感情を優先して三首を選んでしまったからです。かつての校舎を噛む重機に、包装紙をやぶるという救いのある行為を重ねることが自分には理解しきれなかったのですが、とても、とても印象的でした。いつか、その光景に巡り合ったときには、間違いなく思い出す歌だと思います。


今回の記事は以上です。

今後も #短歌月九ネプリ をよろしくお願いいたします!

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