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【七物語2021】を読む

毎年、嶋田さくらこさんと千原こはぎさんが声をかけて作成されているネプリ【七物語】…今年は若枝も参加させていただいたので、にぎやかしも兼ねて一首評をしてみたい。

本日だけ公開のネプリだが、コロナ禍に配慮してPDFでも(同じく本日だけ)公開されている。

今年のメンバーは、有村桔梗さん、笠木拓さん、北虎あきらさん、田丸まひるさん、嶋田さくらこさん、千原こはぎさん、そして若枝あらうとなっている。それでは早速、自分以外の連作から一首ずつ引いていきたい。

素麺をひとたば茹でるまひるまの空のむかうに星があること
/ 有村桔梗「銀河の気配」より

素麺と、星の相性に驚いた。素麺の束を解いて鍋に散っていくさまが、空に散らばっているはずの星にリンクするようだ。そして、それらは素麺のようにささやかな、でも確かに世界の一部である。

回廊のように川原と橋はありあらゆるものらみな巡礼者
/ 笠木拓「ささめきこと」より

どこにでもある川原と橋に大きな意味付けを与える歌だ。教会や礼拝堂にある回廊は自らを省みる場所であるとどこかで聞いた覚えがあるが、主体もまた巡礼者なのだろう。

写真から指のちいさな擦り傷と夜風のあったことがわかった
/ 北虎あきら「ベランダ」より

写真には、主体でない誰かが写っているのだと読んだ。指の傷と夜風という気づきにくいものにフォーカスを与えることで、その背景にある「誰か」の存在自体がどれだけ当たり前だったかを伝えたい歌なんだろうと思った。

まっピンクのシャンプー流れていくタイルわたしを染めていいのはわたし
/ 田丸まひる「早く会えますようにってほんとに願ってよ」より

内向的な、でも決して排他的でない自意識が散りばめられた連作の中でも、象徴的な一首と思う。カラーシャンプーに染められているわけではなく、その行為を選択したのがあくまで自分であることを毅然と主張する歌。

うつくしい野良猫になりあなたとは目もあわせずに通り過ぎたい
/ 嶋田さくらこ「星を燃やす」より

なりたい、ということは、逆説的に今はそうではないのだろう。野良猫ではなくあなたに依存していて、目もあわせてしまう。思い描く自立も含めての「うつくしい」なのだろうと読んだ。

星のない空を覆った沈黙がさよならのさを音にさせない
/ 千原こはぎ「目覚めるように」より

そうか、曇り空は沈黙なのか。確かに、星はしばしばさんざめくという動詞を伴う。賑やかな中には忍ばせられそうな「さよなら」も目立ってしまう静けさが、たしかに星のない夜にはあるように思う。


以上、できるだけ歌および連作の余白を塗りつぶさないように簡潔な評にとどめたつもりだが、蛇足あればご容赦いただきたい。

本日限りの公開、みなさまに楽しんでいただければ幸甚です。(公開終了後も本記事は残すつもりですが、各位不都合あればおっしゃってください。)


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