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『生殖の海』 2021年版 第一章「いまも言ふ」

割引あり


『生殖の海』 2021年版 第一章「いまも言ふ」

しづかなる暁ごとに見わたせばまだ深き夜の夢ぞ悲しき

式子内親王


アプワイザーリッシェのかゝるクローゼットにカーゴパンツをつかむ朝あけ

弁当に着替へも詰めつ紅引きつビッグサイトにさて向かふべし

ローソンの脇の柱に身をあづけいつものメンツかほと交はす「おはやう」

たはぶれにけふも語らふ「植竹は黙ればめつちやかつこいゝのに」

彼女などなき大藤くまモン待受まちうけのかのぢよのれる壁ぞまばゆき

「わかんないもんスよ、見た目くまモンでも」と言ふ田越はガチのイケメン

腰袋カチッと締むるこの音にをんなはガテン系女子となる

髪を結ひヘルメットメットに顔を隠すかぎりをんなのからだより自由なり

二四〇〇ミリメートルニイヨンのポールの二、三本ぐらゐ担ぐよ現場こゝに生けるかぎりは

かひな、又肩に支ふる重みよし任されひとり下端したば組むとき

なでふこの※ クタノルムを組める我が血潮のをどり胸のたかなり
※展示会施工に仮設ブースを組むシステム部材の一種にて、木工ブースにかはり広く用ゐらる

基礎工事キソが好き特別装飾トクサウに又血の沸けばげにおもしろきオクタノルムや

にをればなべてなるめる男らの脚立のへには匂ふことわり

されど我が恋ふるこゝろは男より雄々しきひとにうちなびきつゝ

腰袋はづして髪もほどくときなべてのをんなONE OF THEMと戻るさびしさ

おほかたは鞄に収まらぬメットきれいにればよき日なりけり

     ✽

宿に風は夜露も霜ゝ紛ふらむ冴えざえ冬は更けてこそゆけ

音もなくさ庭に雪の降り積めば雲を割りてぞ月出でにける

ラチェットレンチラチェットを齧れば深き血の味のうらさびてゆくしろき月影

アキちやん、とつぶやき握るラチェットの昔をいまになすよしもがな

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