「料理通異聞」/松井今朝子

 本作は、江戸の料亭「八百善」を実質的に創業した人物の一代記だ。
 営んでいた食事処で料理を工夫して商売を広げ、料亭にまで押し上げた主人の手腕が余すところなく描かれている。

 まさに、会席料理のルーツと呼ぶにふさわしく、食材の組み合わせと出汁のひき方こそ和食の神髄であるということと、そこに食器や雰囲気まで加えて初めて非日常の料理が完成するのだということが、作品を通してしみ通るように伝わってくる。
 単なる時代小説や料理小説とは一線を画す骨太な人物伝に仕上げられており、料理に興味がある者、江戸の香りに惹かれる読み手を最後まで飽きさせない良作だった。

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