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最小限の音での表現【徒然なるままに】#122

最近またよく聴いているのがマイルス・デイビスのエレクトリックのアルバムだ。
きっかけは水声社から出ているポール・ティンゲン著・麦谷尊雄 訳の『エレクトリック・マイルス』を読み始めたからである。
エリック・タム著のブライアン・イーノの本などもそうだが、水声社から発売される本は本当に面白い。
『イン・ア・サイレント・ウェイ』や『ビッチェズ・ブリュー』、『オン・ザ・コーナー』『アガルタ』『パンゲア』『スターピープル』などのアルバムは持っていたが、持っていないものは、ひとまずYouTubeで検索しながら読み進めている。

テオ・マセロの編集の話は有名だが、それはさて置き、マイルスの持っているセンスの一つに、最小限の音で表現する、というものがある。フレーズは短いが説得力のある音場を作る、というものだ。それは音色と組み合わさって初めて成り立つものだが、エレクトリック・サウンドの前のモード時代よりもさらに前から、それを念頭に演奏していたというのは、音符で埋めるのが全盛の時代に、なかなか勇気が必要のように思えるのだが、それだけ自分のやることに自信があったのだろう、と想像する。

すごいアーティストというのは耳が良く、無駄な音は削っていく方向になるのだが、その削り方はアーティストによっても違う。

マイケル・ジャクソンのドキュメンタリー映画の予告編でマイケルが、セブンスコード(ドミソの三和音に7番目のシの音を足したもの)やテンション・コードを使ったミュージシャンに、音を削るように言う場面がある。彼の音楽をシンプルに表現するには三和音でと充分判断しているからだ。むやみに複雑なテンション・コードを使わないところがマイケルの音楽の良さだと思う。
『エレクトリック・マイルス』は2001年に出版されたものを日本語訳したもので、2018年に発売された。たぶん、この本を読まなかったらビル・ラズウェルが編集した『パンサラッサ』を聴くこともなかっただろう。自分はマイルス・フリークではないので、詳しく知らなかったが『パンサラッサ』はいわゆるリミックスなのだと思っていた。が、リミックスはリミックスでも、素材を使って新たにビートなどを足して作られたものではなく、レコーディング当時テオ・マセロがやっていたようなことを90年代末期にビル・ラズウェルが行ったバージョンであり、新たにブレイク・ビーツを足したようなものではなかった。それならば聴いてみようということになったが、アンビエント感が増していて面白い。かといってテオ・マセロがやっていたことが違うと言うわけでもない。
マイルスのことを書いた他の本に書かれているかどうかわからないのだが、この本には『アンビエント』という言葉が沢山出てきて新鮮だった。自分は特に『イン・ア・サイレント・ウェイ』というアルバムをアンビエント的なものとして、あるいは抽象絵画のような作品として聴いていたからだ。
ブライアン・イーノもこの時代のマイルスには影響を受けているという事実が興味深い。それはスティーブ・ライヒなどからの影響と結びついていて、彼の作るアンビエント・ミュージックに結実しているのだろう。

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