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#6 わきみち堂のパン作り(1/2)

1.月曜日(水曜販売分の前種仕込み&本仕込み)

■前種仕込み&下ごしらえ■
午前6時~11時

①準備&計量

作業の服に着替え
定期的な作業としての各種酵母の撹拌を済ませ
※いつも育てている酵母の撹拌は朝夕の2回行います。
必要な道具の準備と必要な材料の計量(水、塩、酵母)を行います。

【所要時間】
約1時間半

②前種仕込み

わきみち堂のパン作りの一番最初の工程はパン生地の前種仕込みです。
前種とは、本仕込みより事前に酵母(種)を調整しておく事。
パンの発酵源である酵母(元種)を適量取り分け、小麦粉と水を加えて捏ね、適度に発酵させたものを前種と呼んでいます。
この工程の目的は、常時育てて発酵熟成している酵母(元種)を、若くリフレッシュ(前種)させパンの発酵源にする事で、パン生地の発酵力を安定させる事にあります。

わきみち堂の使う前種には2種類の形態があり
一つは生地玉形態(賢治、ジョバンニ)
もう一つは水種形態(カムパネルラ、A食)
それぞれにパンの仕上がりに違う影響を与えます。

生地玉→味わいや風味がストレートに出やすい。
水種→香りと風味が引き立ち、食感が軽やか。

ここで、その時の全種類のパンの前種を仕込みます。
前種の形態によって作業自体が違ってくるので、所要時間は違いますが
生地玉→約20分
水種→約40分
5種類の仕込みで大体150分(2時間半)の作業となります。

【所要時間】
約2時間半

※週後半のパン作りの時は、更に常備酵母(小麦酵母、生乳酵母)の種次ぎが加わります。所要時間1時間。

③パン賢治のライ麦&全粒種の下処理

パン賢治には、粉全体量の50%のライ麦粉と小麦全粒粉を使います。
この二つの粉は、精製された小麦粉より硬く水分が染み込みづらいものです。
食べ易いしっとりした食感にする為に、こちらも本仕込みの数時間前に下処理を施します。
ライ麦粉、小麦全粒粉、水、塩、を一緒に混ぜ合わせ冷蔵庫で寝かせます。
塩を入れるのは、種の酵素活動を抑える為です。
酵素活動が進み過ぎると、種に不快な酸味が伴う事があるのです。

【所要時間】
約20分

④洗い物&片付け&掃除

【所要時間】
約40分

午前11時~13時30分
↓↓↓↓↓

場合によりますが、この時間帯は
・材料の発注
・販売場所(一輪車)の掃除
・注文の集計
・製造分の袋の準備(表示シール張り付け)
・メッセージのやり取り
・昼食
などの事をやっています。

14時~18時30分
↓↓↓↓↓

この時間は副業の学童支援員の仕事です。

■本仕込み■
19時~5時(翌火曜日)

帰宅後、夕食を済ませ、すぐ作業に入ります。

①準備&計量

作業の服に着替え
各種酵母の撹拌を済ませ
必要な道具の準備と必要な材料の計量を行います。
※本仕込みでは、それぞれのパンに個別の材料が複数あるので、計量は煩雑なものになります。

【所要時間】
約2時間

②本仕込み

ここから全種類のパン生地の本仕込みに入ります。厳密に言えば、作業効率や発酵管理を考慮して、本仕込みの作業と計量の作業は入り交じっています。
パンの種類で仕込み順は決まっています。

【所要時間】
約7時間

《1番、ムカイ、ヨシノ》

この両者はバゲットタイプになりますので、最低でも12~14時間の長時間の発酵を必要とする為、いつでもトップバッターです。

※1
パンの製法に『低温長時間発酵』というものがあります。
基本的な酵母の活動温度帯は
24~26℃→酵母にとって快適
28~30℃→酵母が活発になる

といった感じですが

ムカイ・・・5~7℃ (14~16時間)
ヨシノ・・・17~18℃ (12~14時間)
両者は明らかに温度低いです。

生地をあまり捏ねず(粉の栄養を損なわず)、低温でパン生地を管理する事で、緩やかに酵母は活動していき、パン生地の旨みを保持したまま発酵のピークを迎える事が出来ます。また、その間徐々に水分は粉に浸透していくので、パン生地はしなやかなものになっていきます。
この2種類のパンを食べた方にはわかって頂けると思うのですが、これらのパンの旨み成分は他のパン達より強めです。
この方達の音楽も旨み強めです。

《2番、ジョバンニ》

このジョバンニは、二つの理由から1、2番手の仕込みとなります。

第一の理由は、オートリーズという作業を行うからです。

※2
オートリーズとは、小麦粉に水を加えて軽く捏ね混ぜ一定時間(20~60分)置いておくというものです。
そうしておく事で、小麦粉は余計な損傷を被らずに水分を蓄える事が出来、芯から水を吸うのでパン生地も伸びやかで艶のあるものになります。

第二の理由は、こちらも低温長時間の発酵が必要な事と最大限の膨らみで発酵を終える必要があるからです。
ジョバンニの酵母は、小麦酵母の生地玉仕様。
ゆっくりと発酵するタイプです。

ジョバンニ・・・20~21℃ (14~16時間)
低温で生地の力を温存させつつ、しっかり発酵しっかり膨らませる事で
パンとして焼き上がった時に、香りの良い、食感と味わいのバランスの取れたものに仕上がっていると思います。
ジョバンニの人物としてのクセをどうやって美味しく活かせるか…これからも調整は続きます。

《3番、カムパネルラ》

3番手はだいたいカムパネルラです。
その理由としては、カムパネルラがわきみちパン製造のキーマンだからです。
何故カムパネルラがキーマンかというと
幅広く製造の時間に対応が可能だからです。

カムパネルラには2種類の酵母を併用していて
小麦酵母の水種仕様、レーズン酵母
その事はそのまま発酵力の相乗効果を生みます。

力が強いので、パン生地としての発酵のピークを迎えるのも早く
後の仕上げ工程(成型、焼き上げ等)の起点となる一番手を任せやすく、かつ冷蔵庫の温度でも緩やかな発酵を続けるので、他のパンの調子によってはじっくり待つ事も可能です。

物語に描かれるカムパネルラ自身も、多くの人から好かれる、頼られる性質を持ち、懐の広い言動を垣間見る事が出来ます。
決して狙ってこうなった訳ではないので、何だか不思議なものです。

《3番、ミネタ》

頻繁に作らないミネタですが、作る時は決まってこの3番のタイミングです。

ミネタの酵母は、み酵母の水種仕様
み酵母(ミネタ用に起こした生乳酵母)は小麦酵母に比べると発酵力が強いので、ミネタは製造全体の半ばで捏ね、仕上げ工程はトップバッターといった感じです。

ミネタは一回の製造につき、1ユニット(粉1キロ)を二回(2ユニット)仕込みます。
ミネタは唯一全てを手捏ねするパンなので、一度に捏ねられる量が限られます。
かつ、モデル峯田さんの特徴を出す為に、自身で考えた特殊な捏ね方をやるので、時間と労力を要します。

1ユニットにつき、特殊な捏ねの工程が3回&4回と計7回入ります。時間は約45分かかります。
単純に2倍して、全体だと90分かかります。

それからミネタの生地は水分量がとても多く、さらに工程を重ねて生地に力をつけないといけません。

生地に15~20分の休みを入れつつ、3回ずつまた別のやり方で生地に力をつけます。
こちらで更に90分くらい。

ミネタ選手は捏ねだけで約3時間かかります。
でもこの工程がミネタを表現するに必要なものなのです。
粗野と繊細のギャップを引き出す為の四苦八苦なのです。

《4番、賢治》

不動の4番バッターは賢治です。
賢治はカムパネルラより更に柔軟に製造に対応してくれます。

賢治もカムパネルラ同様に2種類の酵母を併用しています。
小麦酵母の生地玉仕様&玄米酵母
この二つの酵母は瞬発力タイプというより底力タイプという感じなので、ゆっくりじっくり発酵していきます。

早い発酵(場合により高温)でものんびり発酵でも、ほぼ遜色ない仕上がりと味わいになってくれるのが賢治の特徴です。

ライ麦粉や小麦全粒粉を多く使うので、捏ねる作業はベタつきで難儀しますが、捏ねてしまえば後は一番安心感があるのも賢治です。
本当に広く深く根強いパンなのです賢治は。

《5番、A食、み食》

食パン系は決まって最後の5番手です。

A食は小麦酵母(水種)のスロースターター
み食はみ酵母(生地玉)のミドルスターター
なので、A食は最後に捏ねてそのまま仕上げ工程も最後。
み食は発酵力強めなので、途中いったん冷蔵庫で休ませて、仕上げ工程は最後にもっていきます。

A食はあまり捏ね過ぎずに、逆にみ食は可能な限りしっかり捏ねます。
この対極の捏ね方には一つの理由があり
水種仕様の酵母はあまり強い捏ねを入れると生地が崩壊してしまう事、生地玉仕様の酵母は強い捏ねへの耐性があるという事。

食パンに関しては、山食、角食、どういった食パンにしても一定以上の柔らかさが必要と思っているので、その柔らかさを得る為に生地に力をつけないといけないです。

力をつける為の基本的な作業が二つあります。

※3
一つはしっかり捏ね上げる事。可能な限りしっかりと捏ねていく事で、それに合わせて生地の力も強くなります。当然、リミットを越えると生地は崩壊します。
※4
一つはあまり生地を捏ねずにボリュームアップという工程により力をつける事。
ボリュームアップとは、いったん捏ねた生地を20分ほど休ませ、その後生地を四方に広げて折り畳む作業です。組織の作られた生地を引っ張り、張らせていく事で、生地は余計に傷付く事なく弾力を得て強いものになっていきます。

A食は、きちんと小麦の味、酵母の香り、風味、それぞれがバランス良く感じられる山食タイプ。
み食は、み酵母のまろやかな風味を醸しつつ、しっとりもっちり特有のミルク感を感じられる角食タイプ。

両者は
酵母、小麦粉、副材料、製法(捏ね)、を分けて考える事で、パンの形となった時に全く別の食パン同士になってくれます。

以上の本仕込みを終えた全ての生地は、その量に合わせた大きさの発酵箱に入れビニール袋で覆い、温度管理した場所で発酵させていきます。
例外としてミネタのみ、捏ねたボールに入れたまま発酵させます。本当に生地がデリケートなのです。

生地の管理温度と環境
・賢治、ジョバンニ、A食・・・20~21℃
・ミネタ・・・17~18℃
・カムパネルラ・・・17~18℃、冷蔵庫
・ヨシノ・・・冷蔵庫、17~18℃
・み食・・・冷蔵庫、20~21℃
・ムカイ・・・冷凍庫、冷蔵庫、20~21℃

③洗い物&片付け&掃除

【所要時間】
約60分

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{いやあ、我ながら長いですね…
でもこれでもはしょってはしょっての説明なのです。
作業自体も本当に長い道のりで、本仕込みに於いては
捏ね7時間&準備、片付け3時間
ノンストップ10時間の長丁場になるのです。
オッサンなので、いつもギリギリのところでやってます}

ここからまた仕上げ工程に入ります。

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2.火曜日(水曜販売分の焼き上げ&包装&販売準備)

5時~8時30分
↓↓↓↓↓

本仕込み後のこの時間は
・風呂
・仮眠
・朝食
・トイレ
です。

8時30分~10時
↓↓↓↓↓

着替えをして
・パン焼き上げラックの掃除
・パン焼き上げ網の洗い
・パンマットと発酵籠への粉降り
・食パン型への油塗り
の事をやります。

■分割&成型&最終発酵&焼き■
10時~20時

《1番、ミネタやヨシノ》

【ミネタ】
モデル峯田さんのキーワードは

「粗野」と「繊細」

ミネタの一次発酵を終えた生地は、ぷるぷるしていてとても掴み上げたり出来るものではありません。
そのまま掴もうとすれば手に張り付いて生地の崩壊は必至です。
なのでまず作業台にしっかり粉を降り、生地にも粉を降り、カード小(下辺10センチ強の台形のプラ板)をボールの縁に入れ廻して台の上に開けます。
それからすぐに
前述した※4ボリュームアップの作業をやります。
ただしミネタは他の生地と比べ物にならないくらい柔らかいので、なるべく優しくなるべく素早く作業を行わないといけません。

ここで手違いをしてしまえばミネタはミネタで無くなってしまいます。

ボリュームアップした生地をひっくり返し
綴じ目を下にして
台の上で15分休ませます。

それからまた台の上に粉を降り
休ませた生地をひっくり返し
今度は綴じ目を上にして更に15分休ませます。

※5
この間の放置とひっくり返しの作用は、柔らかい生地をなるべく触らず、自然な重力で生地の状態や内相のバランスを整える為のものです。

台に粉を降り、もう一度ひっくり返し
綴じ目を下にして台の上に置きます。

それからなるべく均等な四角形になるように優しく形を整えて
スケッパー(持ち手のついた下辺15センチ位の長方形ステン板)にて四等分します。
それを素早くカード大(下辺20センチ強の台形のプラ板)で掬い取り、粉を降ったマットに優しく置きます。

ホイロ(発酵室)にて
28℃・60~70分

ほわほわに膨らんだ生地を、また優しく掬い取り
今度は
スリップピール(生地をオーブンに滑り入れる道具)
の上に優しく置きます。
素早くクープ(生地の表面に傷を入れる)を入れ

※6
クープとは、パン生地の表面に傷を入れる事です。
そうする事で、生地の中の膨らむ力の逃げ道が出来て、パンは破裂しません。
クープの入れ方(浅い、深い)によってパンの膨らみ方をコントロールしたり
形や見た目を調えたりします。

台から滑らせてオーブンに投入します。

オーブン温度
上火260℃(260℃)
下火260℃(260℃)
スチーム・・・窯入れ前と窯入れ後に普通量

焼き
余熱は上下ともに260℃で、窯入れ後も上下ともに260℃で20~23分

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【ヨシノ】
モデル吉野さんのキーワードは

「底力」

玄米酵母と小麦酵母(水種仕様)を併用した生地は
強い力で発酵していくので、低温帯で静かにゆっくり熟成させるイメージです。

ヨシノの発酵を終えた生地は、固くもなく柔らかすぎず、ちょうど良い弾力の生地になります。

発酵箱からカード小を使って台の上に開け、長方形の生地(縦20センチ、横30センチ)を優しく引っ張ったり優しく押したりしながら、均等な厚さの長方形(縦30センチ、横40センチ)になるように生地を広げていきます。
長方形に整ったら、スケッパーで八等分にします。

※7
ヨシノやムカイのバゲットは細長い棒状なので、分割の時にあらかじめ細長い長方形にカットして、成型をしやすくします。

生地の余計な気泡を抜きつつ更に形を整え、くるくると横向きに巻き、綴じ目を下にして
番重で10分ほど休ませます。

休ませた生地を台の上に広げ、綴じ目の向きと逆の方から生地を折り返し綴じ目にくっつけます。
一旦生地の両端を持って、適度な長さに伸ばし、生地の丸みに添った手の形で優しく叩きます(余計な気泡抜き)

それから、生地を半分地点に折り返して綴じ、更に折り返して生地をきれいに綴じてしまいます。

※8
バゲットにとって気泡は大事なものなので、一連の作業はなるべく手際良く、優しくするようにして、余計な気泡は抜きつつ、大事な気泡は残す意識で行います。

整えた生地は、ひだを作ったマットに綴じ目を下にして並べて行きます。

ホイロ(発酵室)にて
28℃・60~70分

ちょうど良い弾力で膨らんだ生地を、長い取り板を使い
スリップピールに並べます。
ヨシノは真っ直ぐ一本のクープを入れます。
なるべく浅く、でもきちんと切れているように。
台から滑らせてオーブンへ。

オーブン温度
上火260℃(245℃)
下火245℃
スチーム・・・窯入れ前と窯入れ後に普通量

焼き
余熱設定は上火260℃、下火245℃、窯入れ後は上下ともに245℃で25分前後

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《2番、カムパネルラ》

【カムパネルラ】
発酵後のカムパネルラの生地は、程よい固さで柔らかくしなやかですが、ライ麦粉(少量)を使っている事と2種類の酵母(生地の発達を阻害する作用もある)を併用している事もあり、油断しているとすぐ生地が崩壊します。
やはりそこはカムパネルラ、デリケートな側面もあるんですね。

なので、なるべく生地を壊さないように配慮しながら、でもわりとしっかり丸めます。
前述2種のパンとは違い、しっかり触れる生地なのでこちらはナマコ型(縦長丸)にまとめて10分~15分休ませます。

休ませた生地は綴じ目を上にして、台の上で手の平で優しく叩いてガス抜きをし、更に麺棒をかけ大きめの気泡を抜きます。
カムパネルラは気泡の気目を小さく整えて、なるべく食感を軽くしたいので、ここでしっかり気泡を抜いておく必要があります。

縦向きの生地を横向きに置き直して、生地の上方から
三分の二くらいの地点まで折り返してとめます。
今度は生地の上下を逆さまにして、また上方から三分の二くらいの地点まで折り返してとめ、更に生地を折り返して生地を軽くとめます。

それから、綴じ目を下にして上から両手で押さえ転がしながら生地を伸ばし形を整えます。
形が整ったら綴じ目をしっかりとめて、ヒダを作ったマットに並べます。

ホイロ(発酵室)にて
33℃・90分

結構しっかり張りを持って膨らんだ生地です。
取り板を使いスリップピールに並べ、クープを4本ずつ斜めに入れます。カムパネルラのクープは割りときちんと入れます。
台から滑らせてオーブンに投入。

オーブン温度
上火245℃(225℃)
下火225℃
スチーム・・・窯入れ前と窯入れ後にやや少量、更に2分後に少量

焼き
余熱は上火245℃、下火225℃、窯入れ後は上下ともに
225℃で24~26分

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《3番、賢治》

【賢治】
賢治はライ麦粉と小麦全粒粉を粉全体の半量使っているので、あまり膨らまない(粒が粗く硬いので生地の発達を阻害する)と思いきや、結構普通に膨らみます。
それは小麦酵母を前種(リフレッシュ生地玉)で使っている事と玄米酵母の補助作用であると感じています。

捏ねる時はかなりベタついた生地も発酵を終えた時には大部触りやすくなっていて、賢治の成型作業はわりと簡単です。

分割した生地を軽く丸め、綴じ目を下にして番重で休ませます。

休ませた生地を綴じ目を上にし、軽く掌で押さえ生地を少しほぐします。
生地を上のほうから三分の二のところまで折り返してとめ、次に下の方から三分の二のところまで折り返してとめ、そのまま形を整えつつ綴じ目を閉じてしまいます。粉をふった発酵籠に綴じ目を上にして詰めます。

ホイロ(発酵室)にて
33℃・90分

籠の天辺を越えるくらいに膨らんだら、表面に少し粉をふり手にとってスリップピールに並べ、クープを真横に5本入れます。
台から滑らせてオーブンへ。

オーブン温度
上火250℃(230℃)
下火230℃
スチーム・・・窯入れ前と窯入れ後に普通量、更に2分後に通常量

焼き
余熱は上火250℃、下火230℃、窯入れ後は上下ともに230℃で30~33分

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《4番、ムカイ》

【ムカイ】
ムカイは酒種酵母とレーズン酵母を併用しているので生地の発酵力は一番強いです。

モデル向井さんのキーワードは

「酒」と「癖」

冷凍庫少々、後ずっと冷蔵庫という環境下でも生地はへこたれず膨らもうとします。

生地の膨らみでの判断が一番難しいのもムカイです。
ムカイはバゲットタイプのパンなので、膨らみ過ぎてしまえばボリュームと比して気泡が多く細かくなってしまいます。
かといって最低限の膨らみを得てないと、そもそも未発酵の気目の詰まったのっぺりとした生地となります。

色々な要素が噛み合う事で初めて、ベストのムカイが生まれます。

終始冷蔵庫で発酵管理しているムカイの生地は結構冷たいので、いったん常温で1時30分~2時間休ませます。
その後台に開けた生地は柔らかいながら弾力を備えているので、優しく叩いたり押さえたり、はたまた引っ張ったりして横幅の長い長方形(縦30センチ、横40センチ)に整えていきます。

※7
スケッパーで八等分し、再度優しく叩いたり伸ばしたりして長方形に整え、くるくる丸めて綴じ目を下にして、番重で10分休ませます。

ムカイは、水分量も少し多く柔らかい生地なので成型作業として、気泡を残す事を意識しながら、手早く張らせ折り畳みます。
ヒダを作ったパンマットに並べてホイロへ

ホイロ(発酵室)にて
28℃・60~70分

適度に膨らんだ生地をスリップピールに並べます。
5~6本のクープを入れますが、その際可能な限り浅く傷を入れます。そうしないと生地の膨らむ強さが強くてクープが開き過ぎになります。
台から滑らせオーブンに投入。

オーブン温度
上火260℃(240℃)
下火240℃
スチーム・・・窯入れ前と窯入れ後に普通量

焼き
余熱は上火260℃、下火240℃、窯入れ後は上下ともに240℃で23~25分

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《5番、ジョバンニ》

【ジョバンニ】
仕上げの最後半5番6番、ジョバンニと食パンは
最大限の膨らみを得た時点で発酵を終えます。

ジョバンニのその最たる理由は、膨らみの分岐点によってパンの出来上がりが明確に分かれるからです。

現在のジョバンニの仕様はしっかり膨らませての、適度な発酵を決め事としていますが、以前の仕様はあるところを膨らみの限度と定め、なるべく発酵をギリギリ控えようとしてました。
ジョバンニ=少年という事が根強く決定的にあったので。

ただある時、私のパンの師匠に初めてわきみち堂のパン(以前の仕様のジョバンニ)を食べてもらって

「これはこれで美味しいけれど、多分このパンの本来の在り方じゃない」

そんな言葉を貰いました。

散々に試行錯誤を繰り返してきたこのパンの
本質的な答えは、巡り巡って信じる人からもたらされる事になりました。
それからジョバンニはぶれないパンになりましたとさ…

そうしてじっくり発酵し、ぷんぷくに膨らんだ生地はとても軟らかく扱いづらいものでもあります。
台の上にしっかり粉をふり、慎重に発酵箱から取り出します。

ジョバンニの生地の分割は、特に割りきりが肝心。
スパッとフワッとサラッと、切って手でさらってまとめて、計る。
そこから、手早く優しく、それぞれを丸めます。

気泡を内包させる意識で、可能な限り潰さないよう、表面の張りを大事に丸めを行う。
綴じ目を下にして10分ほど休ませます。

ジョバンニの成型は各パンの中で最も手数が少なく、番重から生地を逆さまに両手で取り出し、表面にしっかり粉をまぶし、発酵籠に収めるという極めて最短シンプルなものです。
しかし、そこに至ったのは散々な事を試した上での結果。
分割丸めから→休ませ→成型。この流れに意識を配り手を加えない事が、無駄なく形として現れます。

ジョバンニというパンは、なぜだか手を加えれば加えるほど思い通りにならないパンです。
気泡を潰さない為に最低限の圧で丸め、無駄な手数を加えない為に休みで自然に生地の蓋をさせ、最後手早くあるところに収まって貰います。

ジョバンニという少年は、とても面倒くさく扱いづらく、とてもしぶとく、それ故に愛おしい人なんです。

ホイロ(発酵室)にて
33~34℃・90~100分

ふくふくに膨らんだ生地をスリップピールに並べ、クープを入れて行きます。

クープって実はあまり遊びの余地がないのですが
※6(実用的効果重視のため)
ジョバンニは唯一、遊びというかクープもデザインしました。
最初期は単純に十字にクープを切っていましたが、
川型、J型、風型、星型、と様々な型を試したあげく
現在の《流動》型に落ち着きました。
形の美しさも出せるし、何より
揺れ動き進んでいくジョバンニを現すような気がして。

《流動》型クープ
曲線をえがく傷を生地の中心部を取り巻くように、一定間隔のもと3本入れる。

クープを入れ終えたらオーブンへ

オーブン温度
上火255℃(235℃)
下火235℃
スチーム・・・窯入れ前と窯入れ後、普通量

焼き
余熱は上火255℃、下火235℃、窯入れ後は上下ともに235℃で30~33分

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《6番、A食とみ食》

【A食】
A食の膨らみ見極めは、捏ね終えた生地の2倍から2倍強。

見極めの内実は、最大の膨らみで山食パンとしての食感の軽さを得ること。そして、しっかり酵母を熟成させる事により小麦酵母(A酵母)の醸された風味を最適度に引き出すこと。
この二つの反応がちゃんと為される事でA食の特徴が成立します。

発酵を終えた生地は柔らかいですが、適度な弾力を含むとても扱いやすい生地です。
食パンは分割個数が多いので、なるべく手早く分割します。

総数24個の生地を丸めて行きます。

私は触感として、A食の丸めを行うのが最も好きです。とても手触り気持ち良く、丸めた後の生地はところどころに気泡が浮かび上がっていて、見る様はバランス感満点の豆大福のようです。

番重で15~20分休ませてから、もう一度丸め直して
油(材料として使っている)を塗っておいた型に生地玉を二つずつ詰めていきます。

【み食】
み食の膨らみの見極めは、捏ね終えた生地のちょうど2倍くらいです。A食よりは少しおさえめといった感じです。

み食は角食仕様であり、A食とは対極の濃く旨み詰まったような味と食感を持ち味とします。

しっかり熟成をして、適度にガスを孕んだ生地は何とも云われぬ乳性の薫りを醸して、その手触りはA食のそれとまた違う一種独特の気持ち良さを持っています。
ただ、み食の生地(み酵母仕込み)はA食の生地(A酵母仕込み)より柔軟性が劣るので、思うままに丸めていると生地が崩れてしまいます。手の感触で確かめながら、緩めほぐしながら、適度な圧力で丸めていきます。

み食も総数24の生地玉です。

こちらも番重で15~20分休ませてから
再度丸め直し、油を塗った型に生地玉を二つずつ詰めます。

ホイロ(発酵室)にて
【A食】
34~35℃・90~100分
【み食】
34~35℃・70~80分

A食は型から2、3センチ頭を出したくらいが発酵終わりの目安。
み食は型のトップに生地の頭がかかるくらいが目安。

A食はそのままオーブンに投入。
み食は型の蓋をかぶせ、そこから更に10分くらい待ってからオーブンに投入。

オーブン温度
【A食】
上火220℃(200℃)
下火235℃
スチーム・・・窯入れ前普通量、窯入れ後少量

【み食】
上火、下火ともに230℃
スチーム・・・無し

焼き
【A食】
余熱は上火220℃、下火235℃、窯入れ後は
上火200℃、下火235℃で30~33分

【み食】
余熱は上下ともに230℃、スチーム無しで窯入れ後もともに230℃で30~33分

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こうして約10時間、ようやく全5種類のパンが焼き上がります。

賢治、ジョバンニ、カムパネルラの3種は固定。
食パン2種とムカイ、ヨシノ、ミネタの3種は日替わり

ここから包装作業に入りますが、袋に入れるには粗熱を冷ます必要があるので2時間~2時間半ほど待たないといけません。

20時~23時
↓↓↓↓↓

この時間は
仕上げ道具全般の掃除、片付けをします。
・パンマット、発酵籠、生地滑り台の粉落とし
・ホイロ器の拭き上げ掃除
・残りの洗い物片付け
・作業台の清掃、パンのカットと包装の準備
・運搬用の箱の準備
などをやります。

23時~3時
↓↓↓↓↓

この時間は
・パンのカット(半分サイズ)
・パンの包装
・パンの箱への仕分け
・焼き上げ網&天板の洗い
・工房全体の掃き掃除
などをやります。

ここでようやく全製造作業は終了です。
ここから販売に備えて、風呂、食事、仮眠をとったりします。
週末の場合はここから、
常備酵母3種(レーズン、酒種、玄米)の種次ぎ作業を行います。所要1時間半。

それから準備が整い次第、出張販売やイベント販売、もしくは配達販売に出かけます。

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そう、ずっとこれを続けていれば身体が壊れるだろう事を、近頃ひしひし感じていたりしていて
そろそろ誰か一緒にわきみち堂をやってくれる人を探そうかな
などと弱気ながら前向きに考えたりしとる訳です。
わきみち堂のパン屋を楽しくやり続ける為にも。

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皆さま、長々とお付き合いありがとうございました。
これからもわきみち堂をよろしくお願いいたします。



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