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白鳥和也の掌編&短編小説(一部有料)

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掌編と短編の小説集です。一部を除き、無料でお読みいただけますが、サポートしてくださると大変ありがたいです。
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記事一覧

松林のほとりで(掌編小説)

今日は土曜日で仕事も半日で終えた。一日じゅう家の中にいても、知人の訃報の件で気分が上らな…

龍の物語(掌編創作民話)

昔、天空を横切るような巨大な龍が空を舞っていた。 龍は、空を支配し、人々に、水や雨の恵み…

冬晴れの日(掌編小説)

私たちが枯葉を踏む音が、丘に残る木立ちに響いた。空は薄められた青で、見上げた梢の上ではい…

ワンオフ(短編小説)

 独立記念日の翌日、シアトルの伯父から、またフェデックスで荷物が送られてきた。これで都合…

T湖の変化(掌編小説)

 フライフィッシングの支度をしてしまうと、私は連れ合いに言った。 「一時間かそれくらい、…

春の憂鬱と電車トリップ(掌編小説)

春は憂鬱な季節だ。私はあまり得意ではない。特に桜が散り始めてからの時節。部屋の中もあたた…

小枝を燃やす(掌編小説)

 ある日彼は、庭の木の梢が二階の窓の高さにまで達しているのに気付いた。これはまずいなと思った。彼が妻と住んでいるのは実家だった。父は数年前に亡くなり、母は認知症を発症して県外に住む妹のところに引き取られていた。以来、彼は家の中を後片付けしようとしてきたが、数年経ってもいっこうに片付かない。自分たちの荷物が増えたわけではなく、両親の不要物を折にふれて処分していっても、なぜか部屋の中が元のようにならないのだ。かえって両親がいたときのほうが部屋が広かったくらいなのだ。  その状況は

ケトルはいずこへ(掌編小説)

 十数年ぶりにアウトドアで使う器具を買った。100均で売っている格安のメスティンの類を除き…

山里へ行く自転車(掌編小説)

 ずっと単車乗りだった友人の牧田が最近自転車に目覚めて、単車でもSR400とか、オリーブ…

かけらの森(短編小説)

 その頃僕が住んでいた国立(くにたち)の街には、あちこちに空地があった。空地といっても、…

堤防のクジラ(掌編小説)

 伯父に連れられて、船溜まりの中程にあるその堤防を訪れたのは、少年がまだ幼稚園にも行って…

運河の行く末(掌編小説)

 船着き場から伯父の家のほうに向かっては、黒い海水を湛えた水路が伸びていた。大人たちはそ…

サラとマコト(掌編小説)

 青年はドロップハンドルの旅行用自転車に跨って、北の方角からやってきた。近くに店ひとつな…

うちの食堂は食堂だった(掌編小説)

 うちの食堂は食堂だった。店、正確に言えば店の跡だった。実家はその昔、やきそばやおでんやおにぎりを出す食堂をやっていた。私がまだ子供だった頃だ。高校に上る少し前に、母親は店を閉めた。商店街からそう遠くないところにコンビニエンス・ストアができて、客足が遠のいたからだ。  店は閉めたものの、うちには玄関というものがなかった。かつて店だった場所を通らなければ家に上がることができないのだ。昔ながらの町屋の造りで、土間が裏通りに面した勝手口まで続いている。だから二階が普通の家でいうとこ