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タイトルが好きな本 11選+α



タイトルが好きな本について、個人的に11冊に絞って選んでみました。さっそく紹介していこうと思います。


桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない』
子どもの頃に図書室で見つけて、生まれて初めてタイトルに衝撃を受けた本でした。詩的で空想なのに、情景が浮かぶようなタイトルで、難しい言葉は使っていないのに、すっと頭にはいってこないから余計に印象に残る。これから、何が始まるんだろうと想像を引き立てるようないいタイトルだと思います。

川上弘美『大きな鳥にさらわれないよう』
川上弘美さんのタイトルはどれも素晴らしいです。好きな作品は沢山ありますが、特にこのタイトルが好きで、たまにひととの別れ際に「大きな鳥にさらわれないよう」と声をかけることがあります。相手は不思議そうな顔と楽しそうな顔と半分ずつくらいで、改札の向こう側で手を振ってくれます。


太宰治『晩年』
太宰が27歳の時に出した短編集のタイトル。処女作にこのタイトルをつけるセンスが好きです。太宰が最後に書いていた小説のタイトルが「グッドバイ」というのも太宰らしくてよいです。作者と作品を切り離すべきだというひともいますが、太宰の作品を太宰と切り離して読むのが自分は難しい。作者の背景と結びつくようなタイトルも印象に残るなと感じました。


笹井宏之『えーえんとくちから』
若くして逝去した歌人。本のなかで「えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい」もいう短歌があり、子どもの泣き声のようなえーえんという音と永遠という音と、どちらとも取れる響きが好きです。
歌集や句集のタイトルは、ひとつの作品から言葉を抜きとってタイトルにすることが多いです。表題に関する作品は、特に記憶に残るものですね。


谷川俊太郎『魂のいちばんおいしいところ』
むかし付き合っていた恋人に勧めてもらった詩集。付き合う前に勧められて、この詩集について話をしようと居酒屋に誘ったことを覚えています。タイトルにも思い出にも、胸がきゅっとなってしまうから、いまではできるだけ本棚の端のほうに置くようにしています。脳のつかったところがない感覚を刺激されるようなタイトルでいいなと思います。


小池昌代『屋上への誘惑』
屋上というのは、希望と死を孕んでいる場所だなと感じます。屋上で空を眺めているとき、小さくなった街並みを見下ろしているとき、世界が輝いて見えます。しかし同時に屋上は、飛び降り自殺の現場でもありうるのです。希望と死を、同時に感じられるいいタイトルだと思いました。
三鷹の古本屋で見つけたとき、自然と手が伸びていました。岩波から出ているほうの表紙のイラストにも惚れてこの本を購入しました。タイトルについて書いていたら、この表紙が好きという本も沢山あることを思い出しました。

西島伝法『るん(笑)』
軽い調子のタイトルに反して、内容はスピリチュアルと科学が逆転した世界の話。タイトルが重い内容に軽さを生んでいて、タイトルの大事さを感じさせてくれます。また、逆に不気味さも引き立てているタイトルでもあります。タイトルは本を読む前のいちばん最初の情報です。当たり前のことですがタイトルをいい加減につけてはいけないのだと思いました。


安藤元雄『この街のほろびるとき』
小説は基本的に主人公や話し手は作者ではなく、詩や短歌は個人的なものであることが多いです。だから、作者の生まれた町、暮らしている町を色濃く感じるタイトルも多いように思います。似たようなタイトルに、佐藤弓生の『世界が海におおわれるまで』という歌集があり、故郷を捨てた自分にとって、街がほろびていくような感覚はすっと頭にはいってきます。


三好愛『ざらざらをさわる』
タイトルで内容の印象を狭めない必要のある本があります。エッセイなんか特にそうだと思うのです。しかし、全体を通してゆるい印象を持ってもらう必要もあるので難しいだろうなと思います。ざらざらをさわるは、掴みどころがなくてすぐに忘れてしまいそうな言葉です。だけど記憶の片隅にしばらく居座っていて、読んでいる間はそっと見守ってくれるようなタイトルだと思います。
同じような印象のエッセイのタイトルとして、中村うさぎの『さみしいまる、くるしいまる。』も抽象的だけど、読んでいる途中ふと思い出すようないいタイトルだと思います。


レイ・ブラッドベリ『華氏451度』
あらすじとしては、世界で本の所有が禁止されるという内容のSF小説で、本が見つかると燃やされてしまいます。タイトルの華氏451度というのは紙が燃えはじめる温度のことで、この知識を誰かに披露したくなる時があります。本が燃えるというのは、検閲についての社会風刺を描いているとは思うのですが、どこか詩性も感じるのでいいタイトルだと思いました。


文月悠光『適切な世界の適切ならざる私』
作者が17歳のときに書いた詩集。瑞々しくて若者らしい感性のタイトルです。なんとなく、好みは別れるようなタイトルだと思いました。好みが別れるというのは悪いことではなく、その本が個人的で特別な本になることにかなり寄与するのだと思います。抽象的でざらつきのないタイトルもいいけれど、む?と思ったり、お!と感じるような引っかかりは印象に残りやすくていいなと思います。
勝手な想像ですが、いまの文月悠光さんが詩集を出すとしてこのタイトルは付けないと思います。そういうひとりの人間の瞬間的な生を切りとった印象を持つタイトルだからこそ、尊くも感じるのかもしれません。


選ぶにあたって基準を「自分の個人的にいま好きなタイトル」としました。たしかに派手で目を引くタイトルや、しばらく脳にこびりつくようなタイトルもあります。参考のために「タイトルが素敵な本」で検索してみたら、確かにカッコいいタイトルの本が沢山ありました。
だけど自分は、どこかひっそりとしたじんわり来るようなタイトルがどちらかというと好みです。人の目を引くために、手にとりやすいように、覚えられるように、なんだかそういう策略みたいなものを(作者自身は意図していないかもしれませんが)タイトルから感じると、ちょっと冷めてしまう気持ちがあります。
今回まとめるにあたって好きなタイトルというのは個人的なものだと感じました。それぞれに好きなタイトルがあり、理由があるのだと思います。ひとがどんなタイトルが好きなのか興味があるので教えてくれると嬉しいです。

輪湖『想像の花束』
最後に僭越ながら、自分の著作の本のタイトルについて紹介したいと思います。これは短歌とエッセイとイラストの本です。
ひとそれぞれ色々な受けとりかたをすると思います。タイトルってそれでいいと思います。その上で少し話をさせてください。
むかし自殺未遂で病院に搬送された時、朦朧としている意識のなか、両手は拘束されて何もできず病室の壁や天井に色とりどりの花を頭のなかで描いていたということがありました。その時に死にたいという気持ちが心に深くあっても花鳥風月を愛せるのが人間なんだろうなと思いました。この話をイラストを担当してくれたうめはらももさんとファミレスで話していて、それが何となくそのままタイトルになりました。
作者の意図しないところでタイトルの印象や解釈は羽ばたくものですが、作者側のタイトルの意味を知るのも面白いだろうななんて思いました。



ここまで読んでくれてありがとうございました。

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