わくらば文庫

好きな作家さんのこと、書籍紹介など、思うままに綴っていきます。週一更新が目標です。

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文豪たちと『桃太郎』 ─桃太郎は悪人だったのか

桃から生まれた心優しき桃太郎が、鬼ヶ島に行き、悪い鬼を退治する─。 現代の『桃太郎』は、勧善懲悪の物語として誰もが知るところです。 しかし、こう思われたことのある方も多いのではないでしょうか。 「桃太郎は、ただの盗人なのでは」と。 『桃太郎』は、物語の大筋は揺るがないものの、時代や地域によって形を変えながら伝えられてきました。時代とともに変化してきた桃太郎像ですが、中にはやはり、桃太郎=正義のヒーローという見方に、疑問を呈する人もいたようです。 1.桃太郎は盗人ともい

    • 私が好きな「日常の謎」シリーズ4選

      推理小説のジャンルの一つに「日常の謎」というものがあります。その名の通り、日常生活のちょっとした謎を題材としたミステリです。 今回は、私が好きな「日常の謎」のおすすめシリーズを紹介します。 1. 米澤穂信 〈古典部〉シリーズ ─ あらすじ ─ 省エネ主義を掲げる高校生・折木奉太郎は、姉のすすめで古典部に入部する。そこで出会った少女・千反田えるの好奇心を発端に、奉太郎は日常の中に潜む様々な謎を解き明かしていく。 シリーズ一作目の『氷菓』は、直木賞作家・米澤穂信さんのデビュ

      • 【作家解説】モーリス・ルヴェル ─ 鬼才が描く極上の恐怖

        モーリス・ルヴェルというフランスの作家をご存知でしょうか。ルヴェルの作品は、江戸川乱歩を始めとする日本の小説家をも魅了したと言われています。 この記事では、ルヴェルとその作品の魅力を簡単にご紹介します。 モーリス・ルヴェルとは モーリス・ルヴェル(1875-1926)は、「フランスのポー」と称され、20世紀初頭に活躍した小説家です。ルヴェルの短編小説は、戦前の日本でも翻訳紹介され、当時の日本文壇にも多大な影響を与えたと言われています。 ルヴェルが得意としたのは、恐怖と残酷

        • 私が好きな太宰の短編小説4選

          太宰治といえば、代表作『人間失格』のように、陰鬱とした悲劇的な作品の印象が強いかもしれません。そういった作品も勿論太宰の魅力ですが、優しい眼差しで人々を描いた温かい短編も数多く残しています。 今回は私が好きな太宰治の短編を四編紹介したいと思います。 なお、物語の内容に一部触れている箇所がありますので、未読の方はご注意くださいませ。 1.黄金風景 主人公である「私」の再出発を描いた希望に溢れる作品です。十分程度で読める短い作品ですが、太宰が込めた想いがひしひしと伝わってき

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          負けた。これは、いいことだ。 ─ 太宰治が見た『黄金風景』

          太宰治の『黄金風景』を初めて読んだのは、学生時代でした。 太宰=陰鬱という先入観を持っていた私は、この物語を読み衝撃を受けました。 『黄金風景』は、原稿用紙八枚の短い物語です。『きりぎりす』(新潮文庫)に収録されているほか、青空文庫でも読むことができます。 「私」の回想 物語は主人公である「私」による幼少期の回想から始まります。 裕福な家に生まれた「私」は、横柄な性格で、お慶という名の女中をいじめていました。のろくさく不器用なお慶が癇にさわった、「無知で魯鈍の者」は、と

          負けた。これは、いいことだ。 ─ 太宰治が見た『黄金風景』

          神様 あなたに会いたくなった ─ 八木重吉のことば

          皆さんは八木重吉をご存知でしょうか。 八木重吉(1898-1927)は、敬虔なキリスト教信者であり、自然や家族を題材に美しいことばを紡いだ夭折の詩人です。 はじめに 彼の詩を一つ紹介しましょう。 この詩を読んで心が震えました。短い文章の中にも魂が宿るのだと確かに感じました。 わずか三行の短い詩ですが、花びらが舞い落ちる情景が、まざまざと浮かんできます。 一文目の「思う」が、二文目では「おもう」となり、最後はすべてがひらがな表記になっています。こうした漢字→ひらがな

          神様 あなたに会いたくなった ─ 八木重吉のことば

          【書籍紹介】近藤史恵『ダークルーム』 ─ 粒揃いの短編集

          シェフの内山が勤める高級フレンチレストランに毎晩ひとりで訪れる謎の美女。 一万円以上のコース料理を頼み続ける女性に、内山は惹かれながらも、不信感を募らせる(「マリアージュ」)。 人の心の闇や直面する窮地を描いたノンシリーズ短編集。 収録作は下記8編。 「マリアージュ」 「コワス」 「SWEET BOYS」 「過去の絵」 「水仙の季節」 「窓の下には」 「ダークルーム」 「北緯六十度の恋」 近藤さんの引き出しの多さに驚かされる一冊です。特に印象に残った2

          【書籍紹介】近藤史恵『ダークルーム』 ─ 粒揃いの短編集

          【書籍紹介】渡辺優『ラメルノエリキサ』 ─ 自分を愛するということ

          第28回小説すばる新人賞受賞作にして、渡辺優さんのデビュー作。 夜道で通り魔に切りつけられた女子高生・小峰りな。 りなは犯人が残した「ラメルノエリキサ」という謎の言葉を手がかりに、復讐のため犯人探しを始めるが…。 ストーリーを一言で表すと 「通り魔にあった女子高生の華麗なる復讐劇」 タイトルでもある「ラメルノエリキサ」の意味も気になるところですが、本作最大の魅力は、主人公・小峰りなのキャラクターではないでしょうか。 誰かのための復讐ではなく、自分がすっきりするため

          【書籍紹介】渡辺優『ラメルノエリキサ』 ─ 自分を愛するということ