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【書籍紹介】近藤史恵『ダークルーム』 ─ 粒揃いの短編集

シェフの内山が勤める高級フレンチレストランに毎晩ひとりで訪れる謎の美女。

一万円以上のコース料理を頼み続ける女性に、内山は惹かれながらも、不信感を募らせる(「マリアージュ」)。

人の心の闇や直面する窮地を描いたノンシリーズ短編集。

収録作は下記8編。

「マリアージュ

「コワス」

「SWEET BOYS」

「過去の絵」

水仙の季節」

「窓の下には」

「ダークルーム」

「北緯六十度の恋」

近藤さんの引き出しの多さに驚かされる一冊です。特に印象に残った2編のあらすじを紹介します。

過去の絵

芸大に通うわたしが美術学科の牧くんから見せられた絵は、理屈っぽくつまらないものだった。しかし後日、その絵と瓜二つの絵が、芸術家の未発表作として発見され、盗作疑惑が浮上する。


芸大で持ち上がった盗作疑惑を巡る一作。

ミステリとしての面白さは勿論ですが、夢を追いかける若者の苦悩や葛藤がリアルに描かれており、心が揺さぶられます。

主人公の独白からも痛切な想いがひしひしと伝わってきます。

いっしょうけんめいやった、ということが、ただそれだけで評価されていたのは小学生のころだけだ。わたしたちがいくらいっしょうけんめいやったところで、いっしょうけんめいやった、と褒めてくれる人はだれもいない。もし、それだけで褒める人があったら、それは偽善者だ。

本文p.148より

どれだけ必死にやっても乗り越えられない相手。夢と現実の差に苦しんだり、他人に嫉妬したり…。才能の壁に直面したとき、どのような行動をとるのか。それが本作の一つのテーマのような気がします。

苦しみながらもどこか希望を感じさせるラストは必見です。


窓の下には

小さなマンションの四階に住む小学生の久美は、ベランダから眼下の景色を眺めるのがお気に入り。ある日、真下の一階の庭に同年代の女の子がいるところを目撃する。内気な久美はベランダから着せ替え人形を落とし、友だちになろうと考えるが…。

想定外の結末に驚きました。子どもの頃にこんな経験をすれば、記憶に残り続けるでしょうね。

解説に書かれていましたが、もともとは『あのころの宝もの』と題されたアンソロジーに収録されていたようです。「宝もの」かどうかは、是非実際に読んで確かめてみてください。

ダークな作品を集めた短編集ですが、後味が悪い作品ばかりではなく、絶妙なバランスがとれた一冊だと思います。登場人物たちの他人に言えない秘密を覗いてみませんか?


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