新しい地図note

地図を描くルール | 吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』

本日は、吉田尚記さんと宇野常寛の対談『新しい地図の見つけ方』の最終回をお届けします。究極の娯楽は人を助けることであり、アイドルオタクにはその感覚があるのではないかと話す吉田さん。インターネットの発達により情報の供給が過剰になったことで「推す」という回路が壊れかけている現在に、「新しい地図」を描くための方法を語り合いました。(初出:「ダ・ヴィンチ」2016年5月号(KADOKAWA/メディアファクトリー)
◎取材・文:臺代裕夢
この連載が書籍になりました。「リツイートはやめよう」「村上春樹よりドラえもんを読め」「ノンポリのオタクであれ」気鋭の論客が語り合う新しい世界へ踏み出す13のガイドラインをつめ込んだ1冊。

吉田尚記×宇野常寛『新しい地図の見つけ方』
最終回 地図を描くルール

吉田 予防医学研究者の石川善樹さんとお話をさせていただいたとき、「世界でいちばん楽しいのは誰だ」っていう話題が出たんです。脳内の、楽しいときに活性化する部分が、どのぐらい活発になっているのかをMRIで測定できるんですが、最高値を叩きだしたのがチベットの禅僧だそうです。そのとき彼が想像していたのは、「すごく報われない人がいて、それを助けている自分」なんですって。人間が気持ちよくなるエンターテインメントの究極が、人を助けることだっていうのは、夢がありますよね。人間は根源的に、群れ生物だと思うんです。そう考えると、群れをポジティブな方向に導く行動に、いちばん気持ちいい部分が埋め込まれていても不思議はないなと。僕と宇野さんに共通するものでいうと、アイドルオタクにはちょっとその感覚がある気がします。

宇野 よっぴー(吉田さん)が昔言ってたよね。「うちの娘とアイドルではアイドルのほうが面白い」って(笑)。あれはけっこう本質を突いていると思っていて、自分の家族とか友人を大切にするというのはある意味当たり前のことで、すごく正しいんだけど面白くはない。自分とまったく関係ない人間の人生を応援するからこそ、そこに面白さが発生する。古い話になってしまうけど、2012年に小林よしのりさんたちと『AKB48白熱論争』(幻冬舎刊)という本を出して、その帯に「人はみな、誰かを推すために生きている」と書かれたのね。これは対談中に僕が口にした言葉なんだけど、キャッチコピー的に良いことを言おうとしたわけではなくて、もともと社会は誰かを推すことによって成り立ってきたと思っているの。例えば宗教的な権威であるこの人を推そうとかね。士族社会とか部族社会のようなものからステップアップするためには、推すことの快楽が不可欠なんだよ。だけど残念ながら最近は、その「推す」という回路が壊れかけている。インターネットの発達によって情報の供給が過剰になりすぎて、逆に自分のことしか考えられなくなっている人が多くなっている気がする。

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