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男とペット5 | 井上敏樹

今朝のメルマガは平成仮面ライダーシリーズの脚本家・井上敏樹先生のエッセイ『男と×××』第23回です。今回は「男とペット」の最終回です。敏樹先生が初めて飼った愛犬トナは放し飼いにされていましたが、ある日、突然行方をくらまします。一週間後、家の床下でうずくまっているところを発見されたトナの右前足は血塗れで……?
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脚本家・井上敏樹エッセイ『男と×××』第23回
男 と ペ ッ ト  5 井上敏樹

さて、長々とペットについて書いて来たが今回で最後である。読者に申し訳ないのはペットの死ばかり書いた事だ。さぞ憂鬱になったに違いない。が、これは仕方のない事なのだ。ペットを飼うという事は『死』を身近に置く事だ。だから仕方ない。で、今回もペットの死について書く。我が家で最初に飼ったペット――愛犬のトナの最期についてだ。前にも書いたがトナは素晴らしい犬だった。柴犬系の雑種だったが頭が良くイケメンで時代的にも放し飼いが出来るおおらか時代をのびのびと生きた。今や散歩となれば犬をリードで繋ぎご主人様も付き合わなければならない。しかも犬が糞などした暁にはあろう事かそれを持ち帰るというルールがある。これではどちらがご主人様か分からない。それに比べれば昔はまさに天国だった。なにしろ鎖を解けば犬は勝手に散歩に行き勝手に帰って来たのだ。楽なもんである。わが家のトナも夜、散歩に出掛け、私が朝、目を覚ますと、遊び疲れて犬小屋で前足に顔を乗せてぐっすり眠っている、そんな風であった。ところが、である。放し飼いにもまずい点がある。当然と言えば当然だが、ご主人様の目が届かないのだ。そのせいでトナは危うく命を落とす所だった。事故にあったのである。それに気づくまでに数日かかった。散歩に出掛けたまま、帰って来なかったからだ。それまでも2、3日家をあける事はよくあったが、一週間近く経っても帰って来ない。さすがに心配になりあちこち探し回っても見つからない。最初にトナの声に気づいたのは母だった。家族で夕食を取っていると『トナの鳴き声がする』と言う。私も弟も父も箸を止めて耳を澄ませた。確かに微かに声がする。それも床下から『クゥ~ン、クゥ~ン』と言う悲しげな声だ。

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