2023年第1クウォーターの読書リスト

あんまり読書の時間が取れないけど、数えてみると14作品読んでて、昨年よりはペースが良い件。

(小説)

『シュレーディンガーの少女』(松崎有理)
ディストピアもの?SFの短編集。
一番気に入ったのは自由研究でサンマの味を再現する未来のお話。

『ディアスポラ』(グレッグ・イーガン)
年始か何かにセールをしていたので、全然読んでいなかったイーガンを。
ディアスポラは多次元宇宙を旅するお話。なんか壮大だが、数学がわからないとだいたいわからない。

『順列都市』上・下(グレッグ・イーガン)
順列都市は、「コピー」技術により人がデジタル世界に分身的な存在を生み出すことができるようになった世界のお話。実際の処理においては時系列を入れ替えたりしても、コピー自身は世界を一続きのものとして認識できる的な検証がなされ、要するに宇宙の塵にパターンを認識できればそれは世界になるのだ的な「塵理論」により新たな世界のようなものが生み出される。
ディアスポラよりは読みやすい。

『ギフト』『ヴォイス』『パワー』(ル=グウィン)
2000年代に書かれたファンタジー作品「西のはての年代記」3部作。機会があれば個別に取り上げてみたい良作。

『ギフト』代々一族に受け継がれた魔法めいた力「ギフト」の担い手として期待される少年オレックは、その力を制御できないことに苦悩する。父からの期待、「ギフト」を受け継ぐ者としての責任、そしてオレックの才能とは。

『ヴォイス』外敵に侵略され、文字を禁忌とする都市国家。複雑な生い立ちの少女メマーは、ひそかに書物が隠された秘密の部屋に出入りするようになる。「言葉」の力が征服者と都市住民との関係を変えていく。

『パワー』(上・下)恵まれてはいるが、しかし奴隷である主人公ガヴィア。様々な事件、不幸をきっかけに彼の逃走の旅がはじまる。ガヴィア少年は転々と居場所を移すのだが、なかなか自由にはたどりつけない。

『スーパーノヴァ』(ニコール・パンティルイーキス)
息子の本棚から拝借してきた児童文学。
自閉症、発話障害のため重い知恵遅れとみなされてきた少女ノヴァは姉のブリジットと共に多くの里親をたらいまわしにされてきた。新しい里親と暮らし始めたノヴァ。今は一緒にいない姉とは次のスペースシャトルの打ち上げで再開する約束をしているが…

科学の進歩に伴い、知的障害のようなものについても、色々と理解が進んで来ている。理解されないことが当人にとってどのようなつらい体験となるのか、そこに想像力を働かせてみてもいいのかもしれない。

一方、世間では、もっともらしいことをペラペラ喋れる奴というのが知的と扱われがちであるが、注意深く観察してみると、浅っいことしか言っていないというのもよくあること。どちらにせよ、人は人としてしっかり理解をしながら付き合うことが大事なように思う。

(教養系)

『テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツのパラドックス』(カール・B・フレイ)
テクノロジーの革新が、人々の仕事にどのような影響を与えて来たか。主に産業革命以降に人々から仕事を奪うテクノロジーが社会や経済にどのような影響を与えてきたかという話がまとまっている。まあ、まとまっていると言いつつ結構長いのだが、それはだいたいがデータを色々載せているからであって、そこまで複雑な話をしているわけではない。

最近のAIの流行により、その脅威みたいなものが色んな所で話題になりがちであるが、作中で紹介されているエピソードをいくつか覚えておくと、この手の話をするときにハクがつくに違いない。

『なめらかな社会とその敵 ──PICSY・分人民主主義・構成的社会契約論』(鈴木健)
昨今流行の、資本主義とか民主主義とかはもうNOWではないのではないか説みたいなものに挑戦し、新たな社会システムのようなものを提案するもの。現代を理解する上で重要そうな理論をサラッと紹介してくれているので、役に立つ。うまく機能しない社会システムについて、どうすれば修復できるかという話が多いが、その方向性に手詰まり感のある昨今、こういう新たなシステムを考えてみようという発想のものがもっと出てきても良いのではないかと思う。

『声の文化と文字の文化』(W.J.オング)
前に個別に内容を取り上げたような気がするが、書き文字が人々の思考や文化に大きな影響を与えたという話。

『プルーストとイカ~読書は脳をどのように変えるのか?』(メアリアン・ウルフ)
オングの本とセットで紹介した、文字を読む際に脳がどのように使われているのかといったことを、読字障害の研究などを参照しつつ紹介した本。

『あなたの知らない脳 意識は傍観者である』(デイヴィッド・イーグルマン)
これも前に個別に触れたことがあるが、脳科学の紹介本。脳をうまく活用することは、知的生産においてすごく重要だというのがひそかな持論。

ちなみに、こないだ、休みの日とか寝る前に仕事のメールを見るかどうかみたいな話をしているときに、自分は必ず土曜の朝一とかに見る派なのだが、それは解決すべき問題を認識しておけば、別のことをしてる間に脳が勝手に考えてくれるから、みたいな説明をしたら見事に変人扱いされた。でも、眉間にしわをよせてれば物事を考えているのであるみたいなのは完全に間違いだと思っているし、問題解決はバックグラウンドで脳に処理させておけばいいじゃんっていうのは、マジで思ってる。

(哲学、思考訓練)

『穴と境界: 存在論的探究』(加地大助)
身近なものであるが、深く考えるには格好の題材である「穴」を存在論的に探求する名著。長らく入手困難であったが、2023年1月17日にめでたく復刊された。電子はまだない。追加コンテンツもあるので現時点でのマイベストバイな本。
ものを考えるとはどういうことかが学べる。

『思考訓練の場としての文章読解』シリーズ(宮城啓文)
誰もが一度は「現代文」なるテスト科目について疑問を持ったことがあるだろう。現代文をロジカルに読解し、出題意図に沿った回答を作る作業を今風に言えば解像度高く解説する本。読書力を向上させたい人なら読んで良い。キンドルアンリミテッド対応。
かつて「医大受検」という受検雑誌に連載されたものらしい。

ちなみに「思考訓練シリーズ」としては、『思考訓練の場としての英文解釈』シリーズが、とんでもなく難しい英文の読み方を訓練できるマニアックな本として伝説的に有名である。こちらはまだ紙でしかないようだがおすすめ。

(読みかけ)
本は必ずしも通読しなくても良い。しかし、読んでいたことを忘れてしまって最後までたどりつかないのももったいないので、最後まで読むかどうかわからないが、読みかけのものリスト。半分自分用。よってキンドルのものは省かれがち。

『ストーナー』(ジョン・ウィリアムズ)
これは当たりの感触がある小説。農場出身のストーナーは、大学に進み、英文学を修める。平凡と言えば平凡な人生の中に個人的な葛藤みたいなものがある。

『監視資本主義ー人類の未来を賭けた闘い』(ショシャナ・ズボフ)
要するに、目を覚ませビッグテック的なものによりあなたのデータが侵略されてるぞ、みたいな本。やたら分厚いが、なんかこう…知ってた感は否めない。エピソードトーク用のネタ本として読んでいる。

『人みな眠りて』(カート・ヴォネガット)
つぶぞろいでいい感じの短編集。

『ポストトゥルース』(リー・マッキンタイア)
科学の否定、歴史の否定、あふれかえる陰謀論。ソーシャルメディア時代に真実はどこへ行くのか…という事をずっと考えているのだが、とりあえずおさらいに良さそうな本として読んでる。個人的には、こうしたポスト・トゥルース時代をとらえたメディアとかIR戦略ってどういうものなのか、という問題意識なのだが、そういう本では無いような気がする。

『日本語の作文技術』(本多勝一)
すぐにアメリカの悪口を言うのが面倒だが、読みやすく誤読されない文章とはどういうものかというものを学ぶ上で、わりといい本だと思う。もういつまで人間が作文をするのかよくわからなってきているが、取り敢えず、作文スキルはマジで社会で有用だからみんな訓練したほうがいい。

こうして並べてみると、読みかけにも恥ずかしくて書けないほど全然読んでない本が沢山あって悲しい。夏に向かってだんだん仕事が落ち着きそうな気はするが、今年はゲームも沢山出るので、無限に時間が足りない。

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