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免疫の仕組み その4 〜適応免疫編〜

<前回までの復習>

免疫とは生物の体を守っている仕組みであり、3段階の防御機構からなっています。そして第一の防御である物理的・化学的防御、第二の防御である食作用については紹介しました。今回は最後の砦である適応免疫(獲得免疫)について紹介します。

<適応免疫の主役>

適応免疫ではT細胞B細胞というリンパ球が主役になります。この2つのリンパ球は異物が共通してもつ特徴を認識する事ができる食細胞とは異なり、1種類の異物しか認識できません。その代わり、リンパ節には認識する相手の異なるリンパ球が少数ずつ多様に用意されています。これによって様々な異物の侵入に対応できます。また、適応免疫は自然免疫の作用よりも強力ですが発動するまでに時間がかかります。なので一度病気にかかると、その異物を認識するリンパ球の一部を記憶細胞として保存しておき、次に同じ異物が侵入したときに速やかに増殖して免疫反応を引き起こせるようにしているのです(免疫記憶)

T細胞もB細胞も造血幹細胞という細胞から分化しますが、B細胞は造血幹細胞が作られる骨髄でそのまま分化し、T細胞は胸部の中央に位置する胸腺に移動し分化・成熟します。そしてT細胞は胸腺で自己寛容と呼ばれる機能を獲得します。

※自己寛容・・・自分自身の細胞や成分に対して免疫が働かない免疫寛容という状態にすること。

<適応免疫が始まるまで>

リンパ球の攻撃対象となる異物を抗原といいます。そして樹状細胞などは異物を取り込んで分解し、異物の一部を細胞の表面に提示します。これを抗原提示といい、樹状細胞から抗原提示を受けたT細胞のうち、提示された抗原に適合したものだけが活性化されて増殖し、適応免疫が発動するのです。ちなみにT細胞にはキラーT細胞ヘルパーT細胞の2種類があります。

<キラーT細胞のはたらき>

抗原提示によって増殖したキラーT細胞はリンパ節を出て、感染した組織に移動します。そして病原体に感染した細胞は病原体の断片を細胞の表面に提示しているので、キラーT細胞は自分の型と比較して一致すると感染細胞を攻撃して死滅させるのです。攻撃されて死んだ感染細胞はマクロファージに食べられて(食作用で)処理されます。

<ヘルパーT細胞のはたらき>

キラーT細胞と同じく、抗原提示によって増殖したヘルパーT細胞はリンパ節を出て感染した組織に移動します。しかし次に行うことは感染細胞への攻撃ではなく、マクロファージの活性化です。ヘルパーT細胞はマクロファージから抗原提示を受け自分の型と一致するとマクロファージの能力(食作用)をブーストするのです。さらにヘルパーT細胞はマクロファージのみならず、B細胞も抗原提示で型が一致すると能力をブーストします。このようにヘルパーT細胞は免疫細胞たちにバフをかけてサポートするような働きをしてます。

<B細胞のはたらき>

B細胞は特定の異物を認識します。そして異物を認識すると、その異物を細胞内に取り込んで分解し、断片を細胞表面に提示します(抗原提示)。これを受けたヘルパーT細胞がB細胞を活性化させると、B細胞は増殖し、形質細胞と呼ばれる細胞に分化します。形質細胞は抗体産生細胞とも呼ばれていて、文字通り抗体(免疫グロブリンと呼ばれるタンパク質)を生産します。生産された抗体は体液中に放出されて、血液中を流れて全身に送り届けられます。そして抗体は特定の抗原と結合し、抗原を無毒化するのです。無毒化された異物はマクロファージの食作用によって処理されます。しかし、初めて遭遇する異物の場合は抗体が生成されて適応免疫の効果が現れるまで7~10日かかります(ちなみに自然免疫である食作用は0~24時間で発動)。したがって、弱毒化した病原体やその産物を接種し、免疫記憶の働きによって抗体をつくる能力を人工的に高め免疫を獲得する予防接種が大切なのです。ちなみに他の動物にあらかじめ抗体を作らせておき、その抗体を含む血清を注射する方法もあります。これは緊急度の高い場合、例えば毒ヘビに噛まれた場合などにこの治療が行われます。

※血清・・・血液が固まるときに分離する黄色味を帯び透明の液体のこと。血液凝固に関わる因子であるフェブリンの量が著しく少ない。

※免疫グロブリン・・・抗体は免疫グロブリンというタンパク質である。そして免疫グロブリンは可変部と呼ばれる部位があり、その形状に応じて特定の抗原と結合する。可変部の構造を決める遺伝子はいくつもあり、それらの遺伝子を組み合わせることによって可変部が作られている。ちなみに利根川進は抗体の多様性が生み出される仕組みを分子レベルで明らかにし、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。

参考文献:嶋田正和ほか14名,「生物基礎」,数研出版,(2016).

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