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エンジンルームクッキング

大晦日にいつもの飲み仲間とスキーに行く。
年中行事のシメとして毎年企画している。

白いカッティングシートを買ってきて、VWのマークをデザインカッターで切り抜き、左右のクォーターパネルにデカデカと貼り付ける。
紺色のボディに映える。
スキーキャリアを取り付ければ、否が応でもテンションは高まる。
もちろんユーミンの「Surf&Snow」はカセットにダビングしてある。
ハッチバックは狭いトランクだが、ゴムチェーンも忘れない。
1回練習で装着したのでちょっと汚れた。

年末の休みに入ってすぐに準備を進めたので、29日にはすべて完了した。
あとはひとり31日まで仕事をしている蕎麦屋のタカさんを迎えに行くだけ。
今日の昼にも顔見せがてら、十割蕎麦の重ねせいろを食べてきた。
自慢のこだわり十割蕎麦はいつ食べてもうまい。

こんな飲食のプロが来るにもかかわらず、今年は餃子を作って持って行く。
100個包んで焼いたものをアルミホイルで包む。
五香粉の香り(特に八角とシナモン)が好きなので増量してあんに混ぜ込む。
毎年懲りずに何かしらの差し入れをナイショで持って行くのだ。

タカさんの店に集まったメンバーが、店の片付けが終わるのを待ちきれずしこたま飲んでしまう。もちろんドライバーの俺と彰はそば湯か玄米茶。
夜中に出発して長野県大町の白馬を目指す。片道260km余り。
相模湖ICから中央高速に乗って、長野自動車道の豊科ICで降りて下道で向かう。先週の打ち合わせでは「途中で運転変わるよ!」とカッコいいことを言っていた森田さんはすでにベロベロ。まぁ予想通り。
買ったばかりのエスティマを出したことで面目躍如。さすがは年長者。

高速を降りたところでちょっと休憩。雪がちらちらしている。
ここでボンネットを開けてエンジンの上に、アルミホイルの包みを金網で固定する。
「何?故障?」と心配そうに由香里がのぞき込んでくる。
「餃子は熱々の方がいいでしょ?」
「えー、正月から餃子ぁ?」まぁ予想通り。
「ヒデの餃子はうまいんだよ、知らなかった?」と森田さん。
こういうことを言ってくれるから憎めない。
「えー、知らなーい!ティラミス食べたーい!」
「ティラミスってなんだ?」果敢に若者の話に挑む森田さん。
この人は見習う所が本当に多い。

休憩後も俺と彰がドライバー担当なのは変わらない。
「彰に任せておけば大丈夫」と森田さんはなぜか俺の車に乗っている。
その代わりにタカさんがエスティマに移動した。のびのび寝ている。

「ドイツ車は堅いな」森田さんは若い頃トライアンフに乗っていた。
「いかにもヒデが乗りそうな車だな」
いつもは寡黙なおじさまだけど、先ほどタカさんの店で宿泊先であるペンションオーナーに渡す日本酒を半分近く飲んで、饒舌になっているようだ。
「ケンさんのトライアンフに、いつも乗せてもらっていたんだよぉ」
エミさんもエスティマからこっちに移ってきた。もちろん森田さんの隣に座っている。この二人は付いたり離れたりよく判らない。エミさんの方がお酒は強いようで、いつも酔っているフリをしている。

粒の大きな雪が降ってきた。
まだ走れるが閉店しているスーパーの駐車場でゴムチェーンを付けることとする。
初めてエスティマを運転する彰も気が楽だろう。
先客のスカイラインはFRなのに、前輪にゴムチェーンを付けている。

ゴルフはFFなので前輪にゴムチェーンを付ける。
練習の甲斐があってすんなり取り付けられた。
森田さん、エミさん、由香里は寝ていて出てこない。
エスティマもFF。森田さんは「俺はFRしか乗らない」と言っていた。
営業に騙されたのかな?

「チェーンを探したが入っていない」となげく彰。
あちらはマユミちゃんしか降りてこない。降りてきただけでも偉い。
しばらく考えあぐねていると、
「俺のタイヤはクルミちゃんだから、チェーンはいらないよ」と森田さんがパワーウィンドウを下げて一言。あっという間に閉じた。
金属のピンの代わりに、クルミの殻を粉にしてタイヤに混ぜてあるとか。
問題なさそうなので、様子を見ながら走ることにする。

「ヒデ、彰とマユミちゃんにも持って行ってやれ」いつの間にか缶コーヒーを買ってきた森田さん。
「酔い覚ましに買ったついでだよ」さすがです。

ルームミラーでエスティマをチェックする。ちゃんとついてきている。
夜中の下道が一番厳しい。除雪車が走っていない新雪の上を進む。
ゴルフで雪道は初めてだが、カローラ4WD(4輪スパイク!)で石打まで行ったことがある。
「雪道は今回初めてなんですよ」と今日森田さんにドライバー指名された彰は気弱言った。
「先人曰はく、何事にも初めてはある」一言で言いくるめる森田さん。
二人でそんなやり取りをしていた。

4灯化キットがある

強く吹雪いてきた。この日のために2灯から4灯にしたが、
ほとんど役に立っていない。(Hella……)
あと4kmで白馬の駐車場だ。しかしこの4kmが実は一番厳しい。
基本的には上り勾配、ガードレールのない細い道あり、ハザード焚いて路肩に固まっている車が増えてくる。
最大の難関が道路から駐車場へ入る道。舗装されていれば良いけれど、砂利道が多く轍が出来ている。
ここを過ぎれば誘導員さんに従って車を停めるのみ。
リフト乗り場に近いところに停めることが出来た。
そこで朝まで仮眠を取る。ボンネットを開けてアルミホイルの包みを出すと、熱々の餃子が100個。エスティマの彰に半分渡すと、
「やったー!ひとりで全部食べる!」
マユミちゃんはみかんの皮も剥いてくれなかったらしい。
「由香里も同じようなもんだよ」となぐさめる。

こちらの車内もみんな寝ている。
ひとり餃子を食べていると後ろから
「10個くれ」と森田さん。
10個ずつパッキングしてあるので、はしとポン酢を渡す。

「ヒデの餃子はうまいな」
この一言で1年間何とかやっていける気がする。

#餃子がすき

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