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【IPG】宇宙強国へ駆け上がるインド。日本の宇宙スタートアップの取るべき選択とは!?

 6月6-7日に、インドのデリーにて、インドと太平洋地域における地球観測データをはじめとした地理空間情報の利用等に関するカンファレンスである「INDO-PACIFIC GEOINTELLIGENCE:IPG」が開催されました。主催は、地理空間情報に関するカンファレンスを多く手掛けるGeospatial World社です。来場者は対面で500-600名ほどが集まる規模で、米・国家地理空間情報局(National Geospatial-Intelligence Agency:NGA)の元長官やインド工科大学(Indian Institute of Technology:IIT)の宇宙政策部門の学部長などの錚々たる面々が、安全保障や防災をはじめとした地理空間情報の利用について議論を交わしました。また、IPGのサブイベントとして、日印間の宇宙ビジネスに関するサミットである「2nd India Japan Space And Geospatial Business Summit」も開催されています。
 ワープスペースからはCSOの森が現地にて参加しました。本記事ではその様子をご紹介します。


宇宙強国・インドのポテンシャル

 IPGの初日は有識者によるパネルディスカッションが行われ、森は5つあるパネルディスカッションのうちの2つ目の「Indo-Pacific and Evolving World Order(急発展する世界体制の中で、インドー太平洋地域はどうあるべきか)」に、モデレーター兼パネリストとして登壇し、日印の宇宙スタートアップの現状や課題について議論しました。一方、2日目には、防災や防衛、対テロリズム、環境などのトピックごとに、地理空間情報のユーザー層がプレゼンテーションを行っています。2日目の内容で特に森が注目した点は、インドの地理空間情報のユーザー層が安全保障に関連する内容を積極的に述べている点と、彼らの技術力の高さです。
 安全保障に関連する内容は、政治とも切り離せない上に機密の観点からも非常にナイーブですが、IPGではその点についても積極的に意見交換が行われていました。例として、インドは現在パキスタンと紛争の只中にありますが、そのインドにとって国防上重要なカシミール地方を人工衛星を用いて監視するシステムの紹介や、アルカイダを率いていたウサマ・ビン・ラディン容疑者の居場所を特定するために利用された、地理空間情報に関するシステムの紹介などが特に印象的であったと森は語ります。こうした事例は、インドが地理空間情報を有効利用できること、すなわちインドに、地理空間情報に関する成熟したマーケットが存在することを示しています。
 一方で、そうした地理空間情報の中でも、地球観測データの処理をはじめとした技術のレベルの高さにも驚かされたと森は述べます。現に、インドを拠点とする宇宙スタートアップの数はすでに100社に達しており、その数は日本を超えています。また、インド宇宙研究機関(The Indian Space Research Organisation:ISRO)が開発した小型衛星打ち上げロケット「The Small Satellite Launch Vehicle (SSLV)」は500kgのペイロードをLEOに輸送することにも成功しており(*1)、その発展には目を見張るものがあります。
 人口の増加に伴った経済成長とリーズナブルな人件費、そして圧倒的な技術力を持つインドは、今後の宇宙業界において無視できない存在です。

(*1【参考:UchuBiz】インド新型ロケット「SSLV」、初の打ち上げ成功–最大500kgをLEOに投入可能)

日本の宇宙スタートアップはどのように関わるべきか

 このような背景を踏まえると、やはりインドは日本の宇宙スタートアップからみても非常に魅力的な市場です。しかし、インドでは人件費や物価が非常に安く、数多くあるインドの宇宙スタートアップに多くの資金が集まっている訳ではありません。そのため、いざ日本のスタートアップがインドと協業する場合、その相手は必然的にインド政府に限られます。しかし、それにはいくつもの壁があると森は語ります。森はパネルディスカッションにて、以下のように述べています。

 宇宙業界においては、民間同士、政府宇宙機関同士での協業はたびたび見られるが、民間企業と外国政府が組む例は少ない。というのも、特に日本とインドの間では、文化や言語、自国の事業者の囲い込みを理由として、両国の政府、事業者の双方が課題意識を持っているからだ。
 もしその課題が解決されれば、例えば欧州宇宙機関(ESA)のように、ある国が主催するプロジェクトから、他国の技術に投資して利用できるようになり、これまでに無いシナジーが得られるだろう。

ワープスペースCSOの森が登壇した、パネルディスカッションの様子。

 このようなスキームによって、インド政府の資金が日本の宇宙スタートアップに流れ、日本国内の宇宙スタートアップが更に活性化する可能性があります。また、インドの宇宙スタートアップが日本に参入しインドの優秀な人材が日本で研究開発を行い、それをまたインドに還元するなど、日印の民間企業が各国政府とやり取りすることで、新たな技術や価値が創出されうるでしょう。一方で、IGPに参加した日本のスタートアップはアクセルスペース社、シンスペクティブ社のみと、まだまだ少ないのが現状です。しかしその中でも、このIGPではこうしたグローバルPPP(Public Private Partnership)によって、日本とインドが互いに発展していく兆しが見えました。
 今まさに、宇宙強国への階段を駆け上がるインド。ワープスペースは、そのインドをめぐる宇宙スタートアップの新たな潮流を、中心となって作り出していきます。

IGPにて森は、地理空間情報の利用に関する重要な役割を果たした人物として、表彰を受けています。

(執筆:中澤淳一郎)


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