【PTA回想録(14)】子どもたちを応援する活動を創る―「わたしの好きなこと・興味のあること展」の思い出(その2・準備編)―

(前回【PTA回想録(13)】子どもたちを応援する活動を創る―「わたしの好きなこと・興味のあること展」の思い出(その1・企画編)― より続く..)

そんなこんなで私たちは,作品展(文化祭)でのPTA展示ブースにおいて,「子どもたちが生きていること」そのものにスポットライトを当てた内容で,企画展示を立ち上げることにしました.ここからは,私も「子どもたちが生きていること」そのものを題材に,子どもたちを応援できるような建付けになるよう,真剣に考えてみました.

私がまず考えたのは,こんなことでした.

(1) 子どもたち自身がテーマを決め,作品を画用紙一枚にまとめる.
(2) 作品の作り方は一人ひとり自由.決めるのは画用紙の大きさのみ.お父さん・お母さんやきょうだいに手伝ってもらって作成しても差し支えない.
(3) 作品を出してくれた子どもたちには,全員に学位記を授与する.作品の出来栄えや内容には優劣をつけない.
(4) 他人と自分を比べない.「他人の作品と比較しても意味をなさない・比べようがない」ことが実現出来たらよい.

私が一番気がかりだったのが,「子どもの行動を,大人の心を満たす道具として使ってはいないか?」ということでした.この企画展示が作品展の一部として実施されるため,企画や準備する大人は,どうしても「子どもたちの作品を見に行く」ことを主に考えてしまいます.すなわち,「大人が見て楽しい」展示を実現させようとしてしまうのです.でも,それでは作品を見た親の心は満たされますが,子どもたちにとって全くメリットがありません.そこで,自分が作った作品をたくさんの人に見てもらうことを子どもたちにとっての目的とするのではなく,作品を準備し出展した子どもたちが「展示の結果として(表彰状や学位記のような)具体的なものを得て,そのことに満足できたり,自信を持てたりする」ことを第一の目的にしたい,大人が作品を見るのは「おまけ」くらいでよい,と思いました.そのために,表彰状のようなものを子どもが手にする,という仕掛けを取り入れることにしたのです.

作品を画用紙にまとめるのは,私が研究発表するときのポスターのイメージです.男の子も女の子も,車や鉄道,アイドルから畳の縁の柄まで,好きなことを好きなようにまとめてもらうことを考えました.好きなことや興味のあることを作品にまとめてくれたら,本物の「博士」である私から,出展者全員に「こども博士」の学位記を授与しよう,と思いました.そうすれば,大学の近くに立地する小学校の特色を最大限に生かせます.ただ,大人が抱く「博士」という最高学位のイメージが独り歩きして,子どもたちが気軽に出展しにくくならないかが気がかりな点でした.また,仕事で博士号授与の指導や審査ができる資格を持つ大学教員の立場から見ると,「こども博士」という称号の陳腐さや,博士の学位名称を名乗っているように見えることも,もう少しどうにかしたいと思っていました.ただ,「過去にできたこと」を称える表彰状とは異なり,「これまでできたことを判断材料として,これから先も『○○ができる』能力を有していることを認める」ものである学位記は,子どもたちに自信をもってもらうには最良だとも思っていました.

私がもう一つ考えたのは,家庭の中での子どもたちの日々の役割(家の手伝いなど)や,毎日努力していることや心がけていることを紹介してもらい,それを表彰することでした.ただ,「褒める」という行為は,「褒められたことで心を満たす」ことがどうしても前提となります.そのため,せっかく自分自身や家族のために毎日努力しているのに,表彰して「褒めてしまう」ことで,努力の目的が「褒められること」になってしまうことは避けねばならない,と思いました.そのため,ひとまず「表彰状」ではなく,「学位記」授与の一本で企画をまとめようと思いました.

これらのことを実施するために,私が最重要と考えていたのが,「子どもたちが他人と自分を比較し,競うような場にはしない」ということでした.わが国では,学業成績やスポーツなどの競技成績を尺度に,自分と他人を比較して生きていくことが当たり前のようになっています.小学校でも,子どもも親も,学年進行とともに徐々に「成績をもとに他人と比較して,自分に優劣をつける」ようになってきます.でも,他人と比較などしたところで,自分の能力が高まるわけでもないし,できなかったことができるようになるわけでもないのです.能力の向上や課題の解決は,「継続して努力や工夫に取り組んだ」ことの成果です.継続するためには,努力や工夫を惜しまないほどに「すきなこと」や「興味のあること」,「社会で貢献したいこと」,「達成したいこと」であることが必要です.結局のところは,他人がどうこう以前に,有限なリソースしか持たない自分自身と向き合い,受け入れるほかないのです.私は,個々の心の中に作られていく「芯」や「軸」の部分を育てることが,子どもたちにとって本当に大切だと考えていたので,今回の企画ではその点に着目することにしました.

この第一案をまとめて,担当チームの副会長・幹事の皆さんと企画について話し合いました.私は,上記のような提案をしたところ,メンバーからは,「子どもたちには,やはり表彰状を授与した方がわかりやすい」
「『こども博士』の学位だと,テレビ番組で取り上げるようなレベルを想起してしまい,敷居が高くなる」
という意見が出てきました.

そこで,「すきなこと」へのすぐれた感性を称えた「表彰状」を授与する部門と,「すきなことや興味のあること」への情熱や好奇心を称えて「博士のたまご」の学位記を授与する部門に分けて,企画展示「わたしの好きなこと・興味のあること」展を実施することにしました.

(1) 「わたしの好きなこと・好きなもの」部門
子ども・大人を問わず,あなたの好きなことや好きなものを,四つ切サイズの画用紙1枚(縦長)に自由に表現してください.好きなものや好きなことであれば,何でも構いません.出展してくれた皆さんのすぐれた感性をたたえ表彰状を授与します.
(2) 「わたしの興味のあること・知りたいこと」部門
 子ども・大人を問わず,「あなたの好きなこと」のすばらしさ,すばらしさを表現した作品,あなたの興味の対象で知っていること,これからもっと詳しく知りたいこと,将来学びたいことや調べたいことなどを,四つ切サイズの画用紙1枚(縦長)に自由にまとめてください.テーマは問いません.あなたの情熱や知識の量,好奇心の強さは,ほかの人と比べるものではありませんので,胸を張って応募してください.出展してくれた皆さんには,その情熱や好奇心をたたえ,「博士のたまご(専門分野)」の学位記を授けます.

上の説明文をよく見ると,「子ども・大人問わず」と記されています.実はこの企画,当初は小学校の子どもたちのみを対象として実施することで,担当チームで素案をまとめ,PTA執行部(副会長・幹事)の皆さんに提案していました.その際,幹事を務めてくれていたお母さんから
「この企画には,保護者は参加できないのですか?」
と,ひとこと質問があったのです.その質問を聞いて私は,
「そうか.大事なことを忘れていた! 考えてみれば,好きなことや興味のあることの世界では,年齢なんて全く関係ないし,『好きなことや興味のあること』は,子どもも大人もおなじように尊重されるべき「個性」の一部だったなぁ...」
と思い,すぐにこう返しました.
「子どもにばかり気をとられていて,大事なことを忘れていました.大人も子どもも一緒にやった方が楽しいですね.お母さん・お父さんや先生方に「博士のたまご」学位記をあげるのも,おもしろいですね.大人も対象にしましょう.」
「ぜひ作品出してくださいね.学位を授けますから(笑).」
とお伝えしたら,
「会長も必ず出してくださいね.」
と言ってくれました.もちろん私も作品を準備しました.

この時のことは,今でも忘れられません.このお母さんからの一言は,私たちがやりたかったことの完成度を飛躍的に高めてくれました.子どもも大人も参加可能とすることで,小学校に関わっている人たちすべてが参加し,楽しめる場に高めることができたのです.今でも本当に感謝しています.そのお母さんと後日話をしたときに,「楽しんでPTA活動に参加している姿を子どもたちに見せたい」ともおっしゃってことが,今でも私の心に残っています.ちなみにこのお母さんは,大好きな宝塚歌劇団のことを取り上げた,すばらしい作品を出展してくれました.

もう一つ,博士号をもっている私が授与する学位は,最終的に「博士のたまご(専門分野)」としました.この学位名称は,考えに考え抜いて決めました.出展対象が子どもだけでなく,大人も対象になったので,「こども博士」が使えなくなりました.そこで,出展してくれる子どもたちも大人たちも,好きなことや興味のあることを大切にして,これからの人生が楽しく実りあるものになってくれることを願って,年齢関係なく未来への希望を込めて「博士のたまご(専門分野)」としました.かっこの中の専門分野は,私たちが作品の内容を見て,例えば「マインクラフト」「恐竜」「ラーメン」などと記すことにしました.現在のわが国の学位授与と同じように作り,本物っぽくして楽しもう,と思いました.

こんな感じで,作品の募集をスタートさせることにしました.募集の際には,保護者や先生方に,企画の趣旨を文書で丁寧に伝えた上で,子どもたちが作品を準備するためのサンプルを準備しました.このとき大活躍だったのが,副会長をお願いしていたお母さんでした.彼女は担当チームでPTA展示ブース全般の準備を担当してくれていましたが,作品イメージを児童・保護者に伝えるために作成くださった募集作品サンプルは出色の出来で,作品サンプルを見て「応募しよう」と感じた児童・保護者も少なくなかったと思います.本番ではサンプルとは違うテーマで出展してくれていましたが,そちらもすばらしい出来栄えだったことを思い出します.

もう一人,たくさんの作品を集める上で,力になってくださったのが,当時4年生で学級担任だった先生でした.「これ,おもしろそうなので,さっそく申し込んで,作ってみました」と見せてくれて,担任をしていたクラスの子どもたちに声をかけてくださっていました.企画展示が終わった後も,クラスの教室で,子どもたちの作品とともにご自身の作品を飾ってくれていました.初めての企画で,成功するかどうかもわからない中で,私たちを信頼して協力してくださったことに,本当に感謝しています.

最終的には,一年目の企画展示には,表彰状授与の部門に34件,学位記授与の部門に27件の計61件応募がありました.子どもたち,保護者,先生方の作品はどれもすばらしいもので,企画から関わってきたPTA執行部の皆さんは,成功の確信を持ったと思います.展示会場には,すべての作品とあわせて,観覧のために足を運んでくださった皆さんに企画の趣旨を伝えることを目的として,趣旨説明のポスターを掲示することにしました.

企画展示「わたしの好きなこと・興味のあること」展の開催に寄せて

 私たちは,一人ひとりをかけがえのない存在として大切にする社会の中で生きていきたいと願っています。このことは,子どもたちも同様です。また,大人にも子どもにも「心の自由」があります。たとえ幼い子どもであっても,好きなものは誰に何を言われても好きであり,興味のあることや知りたいことへの知的欲求は,誰にも妨げられるものではありません。ほかの人と比べるものでもないし,優劣をつけるものでもなく,一人ひとりの個性そのものです。
 今回の企画展示では,一人ひとりの「好きなものや好きなこと」,「興味のあること,知っていること,もっと知りたいこと」をのびのびと表現した作品を多数出展いただきました。私たちは,企画展示を通して「個性」をお互い認めあい,子どもたちが自信あふれる人に成長していくことを,皆さんとともに応援したいと考えています。
 一つ一つの作品をご覧の際には,一人ひとりの情熱や思いを感じ,「好きなもの」や「興味のあること」に向き合う姿,この作品を仕上げる姿を想像してみてください。一つひとつの作品が輝きを増し,一人ひとりが「かけがえのない存在」であることが感じられると思います。
 学校創立150周年を記念する企画展示です。ごゆっくりご鑑賞ください。

○○小学校PTA総務部

「企画展示『わたしの好きなこと・興味のあること』展の開催に寄せて」より

(次回 【PTA回想録(15)】子どもたちを応援する活動を創る―「わたしの好きなこと・興味のあること展」の思い出(その3・実施・思い出編)― へ続く..)


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