【PTA回想録(11)】「必要なこと」を見つけて形にする―通学路雪かきの協力呼びかけ―

(前回 【PTA回想録(10)】学校の側で社会的役割を果たす―「放課後の過ごし方」アンケートの思い出― より続く...)

PTA会長の在任1年目は,実務を仕切る副会長を中心に,PTA執行部の皆さんで計画したことを実施してもらうことを基本的スタンスとしていました.一方,会長の私は,執行部の役員の皆さんに大きな負担とならず,数年後の会長退任の際に「PTAは本来,このようなことに取り組むべき」と形にして説明できることに絞って,あまり無理せずできることに取り組んでいました.それが前々回にご紹介した「活動方針の見直し」であり,前回の「放課後の過ごし方アンケート」だったわけです.コロナ禍の脅威も身近なものとなる中で,対面形式での会議開催の見通しが立たず,学校とも協議しながら,議決が必要な案件を書面表決でなんとか処理していた頃でした.

私が会長を務めていたPTAでは,過去の会長ほか執行部役員の皆さんの尽力もあり,保護者の負担が大きいバザーも行われておらず,役職者が集まる会議も年5回程度,各部において役員の皆さんにお願いする活動も一年間で1~2回まで削減されていました.PTAが登校班に関与することもなく,交通安全のための毎朝の登校時見守り当番もありません.そのため,会全体を眺めたときの第一印象は「保護者に負担をお願いする活動を極限まで絞っていて,合理的に活動が設計されており,これ以上大きく動かすと会の運営に支障をきたす」というものだったと記憶しています.

私は,会費を徴収して非営利団体として運営しているPTAでは,会費徴収の合理性の担保,会の活動目的と効果,保護者の負担への配慮,の3点を念頭に置いて活動を計画すべき,と考えています.その「活動の場」を考えたときに初めて,参加する意義を見出だしやすい、子どもたちが生活する「学校」や「子どもたちの教育」が浮上してくる,と考えています.この順番が逆転してしまうと,「学校や学校教育を運営・維持するためにPTAが活動する」ということになってしまい,昨今の全国で批判されているPTAのあり方に帰着してしまいます.私は,PTAでは,会員向けの活動は基本的に「会員の相互信頼づくりのための親睦・交流」を軸に考えればよいと思っていますが,保護者も教職員も皆さん多忙であることに配慮せねばなりません.そこで,学校や子どもたちの教育に関する,有形・無形の「必要性を感じられること」を「会員の相互信頼づくり」のための「会の活動」として実施する,活動参加は個人の判断で決めることができ,活動を支える役員の皆さんの負担はできるだけ少ないこと,個々の負担を小さくするために広く公平に役員としての活動をお願いすること,を目指そうと考えていました.ただ,その実現には,当然それなりの時間を必要としますが,もともと活動がスリム化していて,大掛かりに手を入れる必要がなかったことは本当に幸運でした.

そんな「会の運営の方向性」が見定まりつつあるころに,会の執行部役員の集まる打ち合わせの席で出てきたのが,「大雪の際に子どもが通学路を安全に歩けない」という話でした.ちょうどこの年の2月に,一晩で数十センチも雪が積もり,道路除雪が追い付かない,という出来事がありました.その時,会長以下PTA執行部役員に対し,子どもたちの通学路の歩行空間の確保のために,近所の道路の歩行スペースの雪かきへの協力の要請があったのです.この話題を取り上げたのは,PTA執行部で幹事を務めていたお母さんでした.その方曰く,「要請があって,子どもが道路の脇を歩けるように近所の道路で雪かきをやったが,大きい道路で車が通り抜けるすぐ脇を子どもがヨタヨタと歩いていて,危険なのでなんとかならないものか」というものだったと記憶しています.実はこの発言,会長の私が皆さんに「何かやりたいことはありませんか?」と質問した直後だったのですが,雪かきの話題提供の話をひとしきり聞いて「よし,これは形にせねば」と思いました.その後いろいろと考えて,最終的に,保護者の皆さんに対し「大雪時における通学路の歩行空間の確保(雪かき)への協力」を呼びかけることにしました.

先にも述べたように,私は「多くの皆さんが必要と思えること」を会として取り組むことが重要だと考えています.それは単に私個人の必要性だけでなく,ボトムアップされてくる「必要性」であることが非常に重要です.ただ,いくら必要であったとしても,保護者の皆さんに過大な負担を強いるものであってはならないですし,事故等の危険にさらすわけにもいきません.

大雪は,そもそも年に1回あるかないか,くらいの稀な出来事です.少しくらいの降雪ならば,国や地方自治体が道路維持作業として除雪を行ないますし,寒暖の繰り返しで徐々に雪は消えていきます.私の暮らす街では,普段は雪が少ないため,めったに起こらない大雪のために,過大な備えをすることができません.そのため,大雪になると道路除雪が追い付かず,交通に支障が出てくることになります.

私が「大雪時の雪かきへの協力呼びかけ」を実施したことには,2つ理由がありました.まず,「大雪」はまれな事象で,雪かきが必要な状況になっても,それは一時的なものです.保護者の皆さんの日常的な負担にはなりません.また,このような時には,各家庭でも生活維持のために雪かきを実施するだろう,とも思いました.すなわち,PTAからの呼びかけの有無によらず,個々の判断で近所の歩行空間の除雪を実施するだろう,と.私は,雪かき作業の呼びかけをする上で,一番懸念していたのは,雪かき時の事故のことでした.このことは,呼びかけチラシに「できる時に,できる範囲で,作業は安全に」とわざわざ記すほどでした.そのため,特別な依頼や要請を会の責任の下で発出し,PTAによる雪かき作業の実効性を追求するよりも,平時からの「ムーブメント」として呼びかけ,雪かき自体を個人の判断で実施してもらった方が,事故・トラブル防止の観点からも各家庭・PTAの双方にとって望ましく,その働きかけを保護者の皆さんにさほど意識させないことも,大切な要素の一つだったのです.

第二の理由は,「社会や行政,地域自治,保護者からのPTAの見え方」を意識したことでした.先にも述べたように,道路除雪の第一義的な責任は,道路管理者である行政にあります.ただし,道路除雪には多額の経費を必要とする上,大都市では狭隘な街路も多く,もともと道路の機械除雪が困難な公道や私道がたくさんあります.そのような道路では,道路沿線の住民が協力して雪かきをせざるを得ないのです.また,道路の歩行空間は,小学生だけでなく,幼児やお年寄り,自家用車を持たない方などの交通弱者も使います.私たち小学校児童の保護者がわずかでも道端の歩行空間を雪かきすることは,交通弱者に対する配慮を社会貢献という形にした,ともいえるでしょう.今どきの言葉を使えば,家の敷地内の除雪は「自助」,行政による機械除雪は「公助」,枝道の雪かきは「共助」とでも言えるでしょうか.私は,通学路の歩行空間の雪かきを,PTAを中心とした「共助」の一つとして位置付けることで,PTAが行政と個人・家庭との橋渡しとなる団体として社会的役割を果たしていることを示したい,と考えていました.

雪かきへの協力呼びかけの準備は,この話題を提案してくれた幹事さんにお願いすることにしました.電子形式で,イラストを入れた完成度の高いチラシを自作くださり,それに趣旨説明の文書を添えて,全家庭に配付しました.チラシには,以下のメッセージを添えることにしました.

子どもたちを雪から守ろう!
通学路の除雪にご協力お願いします.

これから本格的な雪の季節です.
大雪が降ると通学路が雪で埋まってしまいます.
子どもたちは歩道が通れず,雪が融けるまでの長期間
車が行き交う車道を歩くことになります.
そこでみなさまにお願いです.
ご近所の歩道や歩行スペースだけでも構いません.
できる時に,できる範囲で,作業は安全に.
子どもたちを危険から守る活動に
ご協力お願いします.

積雪時における通学路の歩行空間の確保(歩道等の除雪)へのご協力のお願い,より抜粋

子どもの通学路の安全確保は,必要性は多くの保護者からご理解いただけると思います.でも,必要性が高いからといって,雪かきの作業を「保護者が為すべきこと」として,実施を強いることは望ましいことではありません.通学路の雪かきへの協力の呼びかけ活動は,社会的意義が大きく必要性が理解できる活動だからこそ,雪かき呼びかけの「実効性」はあえて二の次として,義務感を感じさせない「ムーブメント」とすることに注力したことを思い出します.

(次回 【PTA回想録(12)】PTA会長として考えたことを整理して校外活動に臨む に続く...)


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