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中東ファンクと夏の風(Habibi Funk)

少し前に、サークルのメンバーと神楽坂の中東料理屋に行った。

何を食べても美味くてみんな驚嘆の声を口々にしていた。

米にパスタとマカロニを混ぜるのがポピュラーらしい
丸いのはファラフェル(豆のコロッケ)
フムス(ひよこ豆のペーストにニンニクとレモンを足したやつ)

エスニック料理としての美味さというよりも、シンプルに食べ物として美味い。

どれもニンニクが効いていて、砂漠で食ったら美味いだろうなーという味だ。

店内は意外と日本人の客で賑わっている。中東の感性にはどこか日本のそれと通底する部分があるのかもしれない。

(神楽坂のアブ・イサームという店。早稲田からも歩ける)



最近、70年代くらいの中東の音楽をよく聴く。アラブ圏では、ファンクやソウルが独自にアレンジされたような音楽が盛んだったようだ。

それらの多くはベルリンに拠点を構える"Habibi Funk Records"というレーベルから2000年代にリイシューされている。

Habibiというのはアラビア語で「愛する人」という意味らしい。

主にエジプトやモロッコ、レバノンやアルジェリアなどの地中海周辺の音楽が多い。

今回はそんな中東音楽からいくつかをピックアップして紹介しようと思う。

1.Al Zman Saib/Fadoul

ミニマルな構成のファンクといった感じのサウンドだが、アラビア語の抑揚ある歌声によって異国のエッセンスが混ぜ込まれている。

1曲目の"Sid Redad"という曲は"Papa's Got A Brand New Bag/James Brown"のカバーなのだが、Habibi Funkのレーベルは創始者がこの曲に感銘を受けたことで始まったらしく、そういった意味で記念碑的な曲だ。

レーベル発足の経緯についてはviceの記事に詳しくまとめられているのでこちらも参考に。

2. The SLAM! Years (1983 – 1988)/Hamid Al Shaeri

リビア出身でエジプト在住の作曲家で、アラビア圏のポップミュージックの中心的人物と言われている。アラビア圏でシンセサウンドやダンスミュージックの要素を楽曲に取り入れた走りの人らしい。中東のYMO的な存在なのかもしれない。

80年代のカイロの街の様子を収めた映像がMVになっている。砂埃が目に染みそうだが、日本の夏よりも乾燥していて案外過ごしやすいかったりするかもしれない。


3.Badala Zamana/Zohra

何よりもまずジャケがヤバい。シンプルな構成ながらアラビア語のレタリングが強烈なパワーを放っている。

昔からアラビア文字は装飾に多く用いられているが、ここまでポップに全振りしたレタリングは初めて見た。

曲もジャケに負けずキャッチーで、耳にこびりつくようなメロディがディスコサウンドと共に繰り返される。

ジャケの中心に写るアルジェリア出身の女性がこの曲を歌っているのだが、なんと驚くべきことにこの写真は精神分析の大家であるジャック・ラカンによって撮影されたものらしい。

この映像がおそらくジャケット写真の元になったレコーディング映像であるが、映像の最後に"Images:Jacques LACAN"と確かにクレジットされている。

同姓同名の他人の可能性もあるが、ロマンは捨てきれない。


4.Ghariba/Hanan

Vaporwaveと昭和歌謡を足して2で割ったような音色。行ったことの無いはずのエジプトの音楽が何故か懐かしさを感じさせる。

アラブ音楽は「声の音楽」であると言われているらしいが、透き通る声で歌われる独特な抑揚は確かにこの曲の屋台骨になっている。

5.Marzipan/Charif Magarbane

今年の7月にリリースされたレバノンの音楽家による新譜。異国の夏の香りを詰め込んだような音色で、アルバムを通して聴くと情景が次々と想起されていって、まるで一本の映画を観たような気分になる。

YouTubeにUPされているMVはレバノンの人々の生活を飾らない感じで切り取っていて、また違った趣がある。

特に気に入って聴いていたのが5曲目の"Chez Mounir"という曲なのだが、知り合いに聴かせたら「盆踊りみたいだね」と言われてハッとした。

確かに、そう言われて聴くとこの曲の前半は日本の夏祭りそのものなのだ。エスニックな空気の中に突如吹き出す日本の夏の風は不思議なほど自然に調和されている。

Habibi Funkを聴きながら37度の昼間の街を歩いていると、中東料理のニンニクの香りが恋しくなる。

今年の東京の這いつくばるような暑さが、中東音楽の中で想像の地中海の風景と共鳴しているようだ。

(文:意味の論理学 Twitter:@iminoronriagaku)

追記:紹介しきれなかった曲をプレイリストにまとめました。

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