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100年前の料理本を訳してみます7-基礎事項についての前置き

さて、では、本文に入っていきます。

基礎事項についての前置き

台所と貯蔵室

1.かまど(こんろ)

 家族が日々の義務を果たし、仕事を行う上で欠かせない精神の安楽や勇気、力を得るために必要な肉体の健康を守る主婦の城、それが台所。「人類のための実験室」と有名な経済学者フォイトが名付けた通りです。昨今の台所は私たちの祖母の時代とは天と地ほども異なり、実用的な機械や性能のいいこんろを備えた、料理に欠かせない道具が完璧に揃っています。

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  ごく単純な作りの暖炉から史上最初のかまどができるまで、そしてかまどから現在の調理設備にいたるまで、幾千年もの間、石の壁で囲っただけの焚き火は、最初は空の下で後に人の住む質素な屋根の下で燃え続け、ずっと後になってから煙の排出路が作られました。14世紀に入ってやっと煙突が登場しますが、かまどはその前世紀まで屋外にあり、大きな煙道がついているだけでした。徐々に焚き火からかまどに発展し、火は屋内でかまどを温め、煙は煙突から排出するようになりました。そのうち乾燥窯が、次に天火が登場しました。ただこれらは、燃料を多量に必要とするため不完全極まりないものであり、日々技術が進歩し、優秀な内部装置の他、外見もこぎれいな現在のこんろとは比べものになりません。
  よいこんろに欠かせないものは何か、主婦なら誰でも知っておくべきであり、正しいこんろの使い方を学び、燃料の価格を把握し、こんろの掃除も正しく行わなくてはなりません。どんなに立派なこんろも、扱い方を間違えば役には立たないのです。
  よいこんろとは、熱を均等に広げながら燃料を完全に燃やしきることのできるものでなくてはなりません。また、燃料を入れたり燃やしたりする際にすすや煙、ガス(灼熱の炭に見える青い炎)が出てくるものではいけません。このような不完全燃焼の兆候が現れたら、不具合がどこから生じるのか、そして修理ができるよう、専門家に確認してもらう必要があります。

こんろ、は漢字で焜炉と書くのですね。ここではひらがなにしてみました。この項は4ページもあります。今と違って炭を使って火をおこすなど、手間がかかるので、それだけページを割いて説明する必要があるのでしょうね。

ここから次に進もうとしたところ、分からない言葉が出て来ました。昔のコンロやオーブンの仕組みを説明している箇所で、ある部位の名前がネットで検索しても日本語の情報がなかなか見つかりません。ちょっと中断して図書館で調べてみます。ということで、この項を飛ばして次を見てみることにします。行ったり来たりするかもしれませんがご了承ください。

2.調理器具と洗浄について

主婦が調理に使う器具や道具は、大きく2つのグループに分けられます。金属製のものと陶製のものです。金属製のものは熱伝導がよく、ぴかぴかに磨き上げた状態で置いておけば台所の装飾にもなります。ただしすべての金属が料理に向いているわけではなく、かといって料理道具向けの貴金属は高価なため、購入対象になりえません。
 最も安価で台所でも一番使われる金属は鉄ですが、錆びやすいため調理用にはあまり使われません。錆は危険ではありませんが、常にきちんとこすり落としておかないと、植物性の食材が灰緑色に変色してしまい、料理の見た目を損なうため、手間がかかります。とても丈夫で安価な純鉄製の調理器具は、この理由から現代の台所で見かけることはほぼなくなっていました。しかし最近、鉄製調理器具のこうした厄介な点は、酸化処理によって解決できるようになりました。ダイヤモンドおよびニッケル‐ダイヤモンド調理器具という名前で、トリーア近郊マリーアヒュッテのカール・ゴットビル・エルベン社が秀逸な鉄製調理器具を製造・販売しています。この製品は、人体に無害の剥がれないホーローのコーティングが内外両面か、内側にのみ(外側はニッケルコーティング)施されていて、錆びから保護してくれます。またこの製品は洗浄が簡単で、お湯で内側を洗ったら外側に油を少し塗っておきます。このニッケル‐ダイヤモンド調理器具は外側の水分をよく拭き取っておきます。
 最も普及し、よいブランドも積極的に推薦できるのは、ホーロー製の調理器具です。耐熱性に優れた製品を作るメーカーがあります。例えばアンベルガー・ホーロー工場(1872~1914)のヴルカン(火山)調理器具、デュッセルドルフ・ビルク地区のヒビー社のプリムス・ホーロー食器、ヴェストファーレン地方のシュタンツヴェルケのフェルゼン(岩塊)ホーロー食器などで、私自身が自宅の台所で綿密にチェックし、品質の確かさを認めました。

登場する社名を調べてみました。どの会社も今は存在していませんが、情報が見つかったところもあります。カール・ゴットビル・エルベン(Carl Gottbill Erben)は17世紀にお隣ワロン地方からドイツの現ザールラントへ移住してきた家族。製鉄業で繁栄しました。地元には通りの名前にもなっています。ネットで検索したところ、同社のキャセロールをオークションで買ったという記事を発見。

いい風合いの鍋ですねえ。ちょっと欲しくなります。次にデュッセルドルフのヒビー社。これもオークションサイトにこんなものが売られていました。

広告ですね。数か所に工場を持ち、ドイツ国外へも輸出していたようです。アンベルクのホーロー工場はバウマンという一族が経営していて、ここも当時は繁盛していたという記事がありました。これまたオークションサイトにて見つけたものです。

「調理器具」の続きです。
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酸に対してもこれらの調理器具は耐性があり、健康面においては特に推奨できるといえます。決して値段の安さに惑わされ、底と胴体が鋲などで留めてあるような琺瑯器具は買うべきではありません。こうした製品は、一枚の金属板を打って作られたものとは違い、長持ちしません。またブリキが基礎素材に使われています。尖った角があるため洗いにくく、一枚金属板で作った丸いものよりも琺瑯が欠けやすいのです。つまり素材の違いにも、琺瑯器具の質の差、そして健康への安全性が現れるのです。
 かつては人気があり、台所の贅沢品であった銅製器具は、緑青中毒の恐れがあるため、原価の高さも手伝って減っていきました。正しく使えば緑青中毒を恐れる必要はなく、むしろ錫メッキを施した琺瑯加工のブリキ器具あるいはうわぐすりをかけた焼き物も、法律に則って鉛をほとんど使用せずに製造されていなければ、鉛中毒の危険性も同様に大きいといえます。
 酸や油により強いのはニッケルです。ただ、ニッケル製器具の中に食べ物を長時間入れっぱなしにするのは避けた方がいいでしょう。残念ながらこの素晴らしい金属は、あまり長持ちのしない形で流通していることが多いのです。安価なニッケル製器具は、結局コストがかかることになるので避け、そうした点に配慮した信頼できる工場で作られた、長期の使用が保証されているものを購入しましょう。調理用には、高価な純粋ニッケルはやめ、スチール板に十分な厚みのニッケルメッキが施されたものなら適切でしょう。逆にニッケルの電気メッキしたものはいけません。
 最近はアルミニウム製器具が話題です。私もたまに自宅の台所で使いますが、お勧めできると思います。欲を言えばアルミニウム製のものよりも、新しく出てきた特許取得スチールアルミニウム製の容器がよいです。レムシャイトのアレグザンダーヴェルク社が製造しています。価格もお手頃で大変丈夫です。火の通りもはやく、洗浄も簡単で、琺瑯容器の手ごわい競合になることでしょう。

最後の方に出てくるアレグザンダーヴェルク社は今も存在します。1885年創業で、当時は挽肉器を作っていたようです。
サイトはこちら。
https://www.alexanderwerk.com/de/willkommen/

 金属製の調理器具の他、陶製品も価格が手頃で大変人気があります。陶製の製品の場合、質の悪いあるいは均質でない素材でできた製品が、やや破損の恐れがあり、また鉛を含んだ釉が使われている可能性があるため、高くても信頼できるメーカーの質の良いものを買うことをお勧めします。特に好まれているのはブンツラウの陶製品(1)です。最近、改良された商品が出回っています。ブンツラウの他にも、耐熱性のある陶磁器がたくさん出てきています。私は自宅でアルペントーン(2)のものや、バイエルン地方ヴァイデンの陶磁器メーカー(3)の耐熱性の特に高いルツィファーというシリーズが信頼のおける確かな品質の製品だと実感しました。長年知られ、私も推薦したことのある、リップシュタットの健康調理器具(4)はもっと安く、底に付いた鋼板が破損を防いでくれます。底と底板の間の空間が、鍋の急な加熱や冷却を避ける役目を果たすからです。
 デッサウアー・クンストテプフェライ社(5)製品もまた優れています。陶器や磁器の調理器具は、不均等な過度の高熱に耐えられませんが、煮物や蒸し物には向いています。
 料理の保存には陶器の容器は向いていません。磁器やガラス製、酸に強い琺瑯容器の方がよいです。(前出の)アンベルクのバウマン社の製品は安心できる唯一の琺瑯容器です。温かい料理や飲み物を提供するには磁器が適しています。金属製の容器に焼いた料理を、あるいは金属製のポットにコーヒーを入れるのは、一時的に流行しても、冷めやすいので理に適っていません。


(1)ブンツラウの陶製品

これはご存知の方も多いかも。現在も作られていますし、日本でも購入できますね。サイトを少し読むと、なんと14世紀から続いている伝統なのですね。それにしても商品を見ているといろいろ欲しくなります。小さな食器を2,3持っていますが、いつか大きい物も買ってみたいです。

(2)アルペントーン

Alpentonとつづります。アルプス地方の陶土という意味かと思いますが、ネットでかなり検索してみましたがなかなか情報がありません。いつか機会があれば調べてみることにします。
ほぼ唯一見つかったのはこれ。イラストです。

焼いたアルペントーンの調理器具、と書いてあります。金属製(?)のラックみたいなものがついていますが、これに入れたまま火にかけるのでしょうか。興味がありますね。もしかするとこの鍋を使ったレシピが出てくるかも?

(3)バイエルン地方ヴァイデンの陶磁器メーカー

ヴァイデン(Weiden)はバイエルン地方でも東の方のオーバープファルツという地方にある、今は小さい町です。昔一度行ったことがあります。
この陶磁器メーカーとは、バウシャー(Bauscher)という会社です。1881年創業で現在も続くメーカーです。ロンドンやスイスにも事業所を置き、アメリカにも輸出するほど、大きな会社だったようです。アール・ヌーボー調のカップの写真がサイトにありますが、ステキですね。
なんと、あのポール・ボキューズもリヨンのレストランにバウシャーの食器を使っていたとか。ミュンヘンオリンピックの時には朝食用食器が採用されたそうです。
で、文中に出てくるルツィファー、堕天使で有名なルシファーのことですが、このシリーズあります。
日本の代理店サイトはこちら:https://www.highmt3.com/

(4)リップシュタットの健康調理器具

どうもこのリンクの写真がそれのようです。
https://westfalen.museum-digital.de/index.php?t=objekt&oges=9317&navlang=ar
リップシュタットはドイツ西部ヴェストファーレン地方にある町です。
このリンクは地元の博物館のものなので、詳しい資料がないか、問い合わせてみたいなと思いました。
どこが特徴なのか知りたいですよね。

(5)デッサウアー・クンストテプフェライ社

この会社、Dessauer Kunsttöpferei GmbHは今はもうありません。
1909年に創業するも、1932年には世界恐慌の影響で倒産し、1934年に解体されました。職人が手作業で作るメーカーだったそうです。なので社名にKunst(美術、工芸、技能の意味)がついたのでしょうか。Töpfereiは製陶工場のことです。
この会社が作った商品のチラシデータがウィキペディアにありました。
https://www.veikkos-archiv.com/index.php?title=Dessauer_Kunstt%C3%B6pferei
火(熱)に強いという意味のFeuertrotzという鍋が売りだったそうですね。この鍋なら割れる心配がないと謳っています。


「調理器具」の段落の最後です。
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調理器具はどれもそれぞれに適正な方法で洗浄することが、長持ちさせるのに重要です。素材の金属が異なれば、洗浄方法も異なります。銅製器具は内側を炭酸水でしっかりブラッシングし、乾いた布できちんと拭き取ります。外側は乳製(ホエー)か、粘土を溶かした水を含ませた皮に銅の削り屑をのせたもので磨きます。あるいは熱いジャガイモの茹で汁にくぐらせ、砂につっ込んだレモンで擦り、その後すべて柔らかい布でよく拭き取ります。ニッケル製器具は、内側を炭酸水で、外側を泡立てた含核(粒状)せっけん液で洗い、よく水で流し、柔らかい布できちんと拭き取ります。鋳鉄の器具は使い初め前に炭酸水で煮沸し、洗浄も炭酸水で行います。アルミニウム製器具の洗浄には専用の洗剤を使用します。新品の琺瑯器具は使用前に、酢と塩を入れたお湯で1時間煮沸し、洗う時は外側の底をきれいにすることも忘れてはなりません。毎日磨くことでくっついた煤を簡単に除去できます。その際、底に軟せっけんを塗り、砂とお湯に漬けたBastwischで磨き上げます。琺瑯調理器具の底に煤が付着すると、料理の火の通りが悪くなります。琺瑯器具の内側はお湯だけで丁寧に洗います。黒いすじが付いたら、熱した炭酸水でしっかり擦ります。時間が経ってしまったものは、漂白粉と炭酸カリウムを入れたお湯で煮ます。乾いた表面を粗塩で擦るのも効果があります。よくすすぎ、しっかり拭き取ることも怠ってはいけません。料理が焦げ付いた部分は決して鋭い道具で削ったりしないでください。炭酸水を入れて熱し、ゆっくり焦げを柔らかくしてから鍋ブラシで落としましょう。長い間使わずにおいた鍋は、かび臭くなっていることがよくあります。この臭いは過マンガン酸カリウムを加えた濃い赤の水を入れ1時間置いておくことで除去できます。その後鍋を炭酸水で磨き、すすいでよく拭き取ります。琺瑯容器の外側は熱した含核石鹸水で洗浄します。真鍮製の容器は酢とふすまを混ぜた物を塗って擦り、精製白亜(炭酸カルシウム)でさらにきれいにします。陶製容器は内外両側を熱い炭酸水で洗い、よく拭いて覆いをせずにしまっておきます。磁器や耐熱性の容器は白い含核石鹸水で洗い、よくすすいで乾かし、ピカピカに拭き上げます。

洗浄にどんなものが使われていたのかが分かる部分ですね。化学に疎いので全部はわかりませんが、含核石鹸はドイツ語でKernseife、英語でgrained soapと言い、塩を加えて石鹸の純粋な部分(核)のみを取り出したものです。
Bastwischは辞書やネットでもなかなか見つからない言葉でした。元々ドイツ語ではなく、ネット検索するとカラマーゾフの兄弟の引用が出てくるのでロシア語の言葉みたいです。前後のコンテキストからすると石鹸を付けて洗う物(布、スポンジ)のようです。そう考えるとこの文中でも意味が合いますね。

では次の項目に行きます。貯蔵室(納戸)についてです。長くなるかもですが、終わりまで行きますね。
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3.貯蔵室

 貯蔵室は、北向きの涼しい位置にあるのが、真に実用的で目的に適っていると言えます。壁は油性塗料を塗り、石鹸で洗ってきれいにし、暑い日には冷水をかけて内部を涼しく保てるようにします。貯蔵室にはある程度大き目の換気装置がついた窓も付け、常に新鮮な空気が入るようにしましょう。汚れたカビ菌が浮遊する空気は、食材をすぐに腐敗させてしまいます。夏は、窓の半分に細かい目の金網をぴっちりはめ込み、換気装置は切ります。こうすれば簡単に蠅の侵入を防げます。日当たりのよい貯蔵室には、窓をきっちり覆うロールカーテンをつけます。グレーの丈夫な麻布で作るとよいでしょう。暑い日にはこのカーテンに冷水をかけて湿らせておけば、水が蒸発して貯蔵室の温度をぐんと下げてくれます。床材にはタイルやテラゾーがよいです。床が木の場合、上にリノリウムを敷いておけば、湿気を吸収させられます。
 貯蔵室の脇の壁に、油性塗料を塗った棚板を数枚取り付けましょう。そのうち一枚は真ん中で分け、金網のついた軽い扉を付けます。小さな戸棚として主婦が特に管理したいものをしまっておけます。貯蔵室は十分な広さを取り、食糧棚、肉のケース、保存食品を入れる棚、冷蔵庫を置けるようにします。貯蔵室内には、天板が洗える小さなテーブルもあると便利です。下にもう一枚、物を置ける板がついたものがおすすめです。天井にはフックをいくつか取付け、燻製した食品を清潔な麻袋に入れて下げておきましょう。

 肉のケースは、通気を良くするため、側面が細目の金網でできたものがよいです。クヴェトリンブルクのゲブリューダー・アルント社は大変実用的な肉のケースを製造しています。貯蔵室の通気のよい、できるだけ暗いところに吊り下げておきましょう。保存食品(ピクルスやジャムなど)の棚は、あらゆる家事に対し新たな殺菌方法が登場して以来、その意義が大いに増しています。主婦の皆さんは各自個人的な用途に応じて棚を設置する必要があるでしょう。


クヴェトリンブルクのゲブリューダー・アルント社は、今は存在しません。創業1870年、1900年のパリ万博にて金メダルを受賞したこともあるそうです。ニッケルや真鍮製の食器類が有名なようですね。アールデコ調のコーヒーセットなどがアンティークとして売られています。
 肉のケース、ドイツ語でFleischkastenといいますが、現在こう呼ばれるものはこちらです。

本文中に書かれているようなものはネット検索ではなかなか見つかりませんが、アルント社のチラシにこんなものがありました。

下の3段の小さな棚です。Fleischkastenとは書いてありませんが、金網製で畳めるもののようです。湿気やカビから守り、ネズミに齧られる心配もないので、木製のものより安心です、と書かれています。
ちなみに上はコーヒーメーカーで、取り出し可能なフィルターを備えているようです。


 欠かせないのは冷蔵庫です。貯蔵室や地下室のスペースに限りがある大きな都市の家庭では特に必要となります。冷蔵庫の購入には気を付けるべき点がいくつかあります。氷入れの位置が特に重要です。氷入れが冷蔵庫の上にあり、冷蔵庫の下に溶けた水を受ける引き出しがあるのが、物理的な裏付けもあり、実用性の点からも正しいと認められています。こうした冷蔵庫なら、冷たく重い空気が下へ流れていくため、冷蔵庫内を均等に冷やすことができます。氷の消費を節約するため、溶けた水を利用することも重要です。氷が冷蔵庫にある限り、そしてその溶け水が下の容器に落ちていく間は、水も氷と同じ温度だからです。通気孔のついた冷蔵庫は買うべきではありません、外部から入ってくる空気が熱を冷蔵庫内に持ち込み、冷却効果を損ねてしまうためです。タイルやガラス張りの冷蔵庫は、亜鉛や琺瑯張りのものより好ましいでしょう。値段も相当高いですが、楽に清潔さを保つことができるため、高額出費をする価値はあります。バターが他の臭いの影響を受けやすいのはよく知られていますが、バターを入れる棚を別個用意するのは便利でよいでしょう。
 冷蔵庫の使用について注意しなくてはならないのは、決して熱いものを入れてはならず、温かい程度になってから入れるという点です。でないと氷を莫大に消費することになり、また冷蔵庫に入っている他の食べ物の腐敗を招きかねません。熱い食べ物から生じる蒸気が冷蔵庫内の冷気を湿らせ、水となって空気中の雑菌を含ませ、食べ物の上に落ちるからです。また、強い匂いのある食べ物は、他の食べ物の味を悪くするため、冷蔵庫に入れてはいけません。
  いやな掃除も、食べ物の保存には絶対に欠かせません。毎週冷蔵庫の掃除を行い、氷の解け水を出し切って、冷蔵庫全体を隅々まで弱め(薄め)のFormanlösungで洗い、きれいな水で流して拭き取ります。氷庫と水の容器はそれぞれきれいにします。氷庫は強めの炭酸水で磨き、過マンガン酸カリウムを少々溶かしたぬるま湯ですすいで乾かします。溶け水を受ける容器も同様にきれいにし、仕上げに両方とも内側全体に石灰乳を塗って腐敗の元となる雑菌を消毒しましょう。
 冷蔵庫を置く場所がない、あるいは高くて買う余裕がない場合は、代用として冷蔵箱をお勧めします。大型の日用品店でほどほどの価格で購入できます。もっと安価なのはコースヴィヒ(アンハルト)のE. Feuerheerd senior社の氷鍋が実用的でお勧めです。


これで貯蔵室の項は終わりです。
 冷蔵庫といっても読んで分かる通り、ここでは氷式冷蔵庫を指します。ドイツ語だとEisschrank(氷棚)と言い、電気式冷蔵庫はKühlschrank(Kühl=涼しい、冷たい)となります。
 他にも気になる言葉がいくつか出て来ました。
 まずFormanlösungですが、これは辞書にもネット検索でも見つかりませんでしたが、コンテクストから洗剤のようなものだと思われます。調べる方法があればまた調べてみます。
 過マンガン酸カリウムは殺菌などの用途に使われるそうで、バナナを長期保存するのにも使用されているそうです。
石灰乳は水酸化カルシウムを溶いたもので、強アルカリ剤、消毒液として使われるそうです。
 冷蔵箱は本文中にはEiskastenやEiskisteとあります。KastenもKisteも箱を指しますが、Kisteは今では蓋のない箱、いわゆるビールケースのようなものを言いますが、ここではそうした違いはなさそうです。
 ウィキペディアにはEiskastenはEisschrank、つまり冷蔵庫の同義語とされているので、明確な定義はないのかもしれません。
 ウィキペディアに著作権フリーのEiskasten(=Eisschrank)の写真があったのでそのうち一枚を紹介します。

 1900年ごろシュトゥットガルトにあったものです。蓋の開いているところから氷を入れ、正面の扉から食材を入れるようですね。
 氷鍋はドイツ語でEistopfをそのまま訳しました。壺など、鍋より適切な言葉があるかもしれません。ウィキペディアにイラストがあったので紹介します。

 2つありますが、向かって左は下から溶け水を受ける鍋、ボトルを冷やすのにも使います。その上真ん中は、氷を入れるところ、一番上は食べ物を保存する鍋です。
 右のイラストは4段に見えますが、一番上は蓋です。一番下は溶け水を受ける容器、その上に氷、その上の一番大きいスペースに食材を入れ、一番上の蓋にも氷を入れます。筆者が勧めている、上下に氷を入れる仕組みですね。ウィキペディアによると、蓋の底には穴が開いていて、下に冷気が流れやすくしているので、氷が解けて穴から下へ落ちるため、異物混入しているかもしれない自然氷は避けるということです。真ん中の食材を入れる鍋の底にも穴が開いています。その下の氷入れは二重構造で、外側には珪藻土が入っていて、真ん中に氷を入れる仕組みです。
 実物の写真は、こちらにマイセンのものがあります。外からみると2段くらいにしか見えませんが、中がどうなっているのかきになります。
こちらのリンクをクリックしてどうぞ。
https://veryimportantlot.com/en/lot/view/meissen-eistopf-kakiemondekor-386088
 さすがマイセン、上品な氷鍋ですねえ。鍋という言葉は似合わないかも。

 氷鍋のメーカーE. Feuerheerd senior社は現存しない会社のようで見つかりませんでしたが、ドイツのウィキペディアには氷鍋の項目に同社の名前はありました。同社の製品がどこかに残っていたら見てみたいですね。

4.備蓄品の購入と保存

  備蓄する食料を大量に購入するのは、価格が安い時にしましょう。そういう時でないと大量の買い物をしても得になりません。また、備蓄が豊富にあるからといって、堅実なやり繰りをないがしろにしてはいけませんし、正しく目的に適った保存を心がけましょう。
  備蓄品の大部分を占めるのは、粉や粉製品、米、マカロニ、砂糖、油脂、卵、果物に野菜です。粉は異なる穀物のものがあり、色や匂いで区別できます。一番滑らかなのは小麦の粉です。粒子が細かく色が白いほど栄養分に欠けます。最もタンパク質を含むやや黄色味を帯びたふすまの部分が除去されているためです。きめ細やかな黄色味を帯びた粉は十分にふすまを含んでいるため、白い粉よりお勧めですが、灰色がかった粉は不純です。乾いた感触がし、指にくっつき手の中で握ると固まり、その塊を固い物に投げつけても崩れないのが良質な粉の印です。大麦粉を混ぜた、つまり偽の小麦粉はまとまりが悪く、混ぜると常にダマができますし、ジャガイモのでんぷんを混ぜた粉は、弱火にかけると鼻をつくような酸っぱい匂いがします。白墨が混ざっていると疑われる場合は、粉を水と混ぜ、塩酸を数滴たらして確認します。高く泡が立ってくるでしょう。粉は、湿っぽくならないよう、またゴミムシダマシの幼虫が発生しないよう、週に一度スコップでかき混ぜましょう。暗く風通しの良い場所で高い位置に置いた木箱に保存しましょう。
  でんぷんは様々な穀類から採れます。混じりけのない状態は白く、粒子は細かく、熱湯をかけるとゲル状に膨張する特徴があります。台所ではコーンスターチが特に活躍しますが、ドイツ産のものも外国産のもの同様に良質です。ハレ市のエッガート社(*1) 製エゲリア・マイスメール(コーンスターチ)のようなブランドや、ザルツウフレンのホフマン社(*2)のでんぷん、そしてビーレフェルトのDr.エテカー社のグスティーンはどれも引けを取らないほどよい商品です。ですからドイツの家庭の主婦は、モンダミンやマイツェーナ(*3) といったアメリカの有名ブランドより、こうした国産のものを選びましょう。残念ながら現在ドイツの家庭で最も使用されているのは、この最後の2つのブランドなのですが。

*1) この会社は検索したところ見当たりませんでした。
*2) この会社はドイツ版ウィキペディアにかなり詳細な記事がありました。正式社名はHoffmann’s Stärkefabrikenといい、1850年現ノルトライン=ヴェストファーレン州バート・ザルツウフレンに創業した、でんぷん類の製造会社です。1990年まで存続しました。商品画像がいくつかありました。その一枚です。

(ウィキペディアより)

*3) グスティーンやモンダミンについてはこちらの記事で書いていますが、マイツェナは元々、1905年にアメリカのCorn Products Refining Corporationのドイツの営業所としてハンブルクに置かれたのが始まりだそうです。こんな商品です。

  でんぷんには、新鮮な状態でないと純粋なよい味がしませんがジャガイモのものもあり、他にもクズウコンの根茎から採れるアロールートや、サゴヤシの木髓部の中にある白または茶色っぽい粒から採れる本物のサゴ、キャッサバの芋から作られるタピオカがあります。私たちの台所で使うタピオカパールは国産のジャガイモのでんぷんで造られています。良質の純粋なでんぷんは白く、鈍く輝いています。他の物が混雑していると、加熱時に石鹸のような泡が立ち、消えません。
  私たちの料理に使える粉の調合品は、未熟の脱穀した小麦粒で作られる圧搾したフレークや、挽いた粉、その他脱穀し精製した熟成小麦を粗挽きにしたグラウペン(*4)、それを潰したグリュッツェ(*5)とそれをさらに粗挽きにしたグリース(*6)があります。小麦のグリース、小麦の粉からは様々な麺やマカロニが作られます。これらはかつてのようにイタリアだけの特権ではなくなり、同じような製品がドイツでも作られています。ただ、世界的に有名なクノールのマカロニや麺は、味と栄養面において外国産のものには及ばないと思います。

*4) ドイツ語でGraupenと書きます。もみ殻を除去し削った穀物で、形や大きさがいろいろあります。
*5) ドイツ語でGrützeと書きます。粒の大きさに特に定義はありません。
*6) ドイツ語でGrießと書きます。穀類を0.3~1mm (300~1000 µm)に挽いたもので、さらに細・中・粗と三段階に分けられます。
これら3つを比べると、グリース、グリュッツェ、グラウペンの順に粒が大きくなります。

  小麦の調整品と同様、大麦にもグラウペン、グリュッツェ、グリースがあります。人間の健康に特に価値が高いのはオート麦(燕麦)で、オートフレーク、燕麦粉、グリュッツェがあります。オート麦の調整品は、豊富な炭水化物(75%)の他にも消化の良いタンパク質(10%)を含んでいます。もう一つ忘れてはいけないのは蕎麦の製品で、圧搾した蕎麦のグリュッツェや蕎麦粉があります。
  時代とともに私たちの食卓で存在感が増しているのは米です。米は利用法がいろいろあり、血を作るのに重要で消化されやすいことが分かっています。最上の米には粒が丸くまばゆいばかりに白いカロリナ米(*7)が挙げられます。続いて長粒でほぼ透き通ってみえるジャワ米とパトナ米(*8)がありますが、青みがかった乳色の粒をしたベンガル米はあまりよくないとされています。イタリアの米では、ミラノ産とオスティリア産が最良の品種です。米粒が透き通っているほど良質な米といえます。試しに米をザルにあけ振ってみて、埃やその他の遺物が分離されて出てこなければ大丈夫です。

(*7) 詳しい情報が見つかっていませんが、このサイトに画像があります。ギリシャ産のようです。
(*8) インドのパトナ産の長粒米です。

  砂糖は果物を煮る時に詳しくお話します。
  動物性そして植物性の油脂のうち、バターは最も消化がよく味のよい油脂です。ただ値段も最も高いため、代用の油脂を一部使用して節約するのは致し方ありません。バターは大きく2種類に分けられます。スイートクリームバターとサワークリームバター(*9)です。前者はまろやかで美味ですが、日持ちがあまりしません。後者は塩を多めに加え保存性を高めています。食塩を加えることで、強く捏ねるとバターミルクを完全に取り除くことができます。バターの中で放出された酪酸が分解されるとバターミルクは古い油の臭いがします。バターはどれも薄黄色をしていますが、冬にはほぼ白くなります。この場合、害のない色素で黄色味を出すべきだと思われることがほとんどです。良質のバターは色が均質で、縞模様や斑点のようになっていてはいけません。そのようなバターはマッシュポテトやジャガイモのでんぷんを混ぜた疑いがもたれるからです。強く押した時に水滴が出てくるのは十分にバターを洗っていない証拠です。バターがぽろぽろ砕けるようなら、水を加えたことで重くなっています。べとべとするようなら低質の油脂が混ぜてある可能性が疑えます。バターの純度を確かめる最良の方法は火にかざして溶かしてみることです。木綿糸で作ったロウソクの芯を溶かしたバターに浸し、そのまま冷まして固めると、下に混入物や苦情の対象となる物質、油脂添加剤が溜まっているのがわかります。芯に火をつけて吹き消し、匂いを嗅ぐと、油脂添加剤が入っている場合は間違いなく獣脂の匂いがします。バターの保存には清潔な陶器や炻器の器を用い、きっちりバターを押し込むように入れます。バターを器から取る時は、水で濡らした木製のバターナイフ(*10)で上から垂直に差し込んで取り出します。こうすれば空気や空気と共に雑菌が触れる面積を少なく抑えられます。バターは通期の良い冷暗所に保存しておきます。決してパーチメント紙で包んではいけません。湿気がこもってバターの風味が損なわれます。バターから乳の粒子を完全に取り除くためサリチル酸溶液で今一度よく捏ね、小さい炻器の容器にきちんと押し込みながら入れ、表面を食塩の層で埋め、酢酸に浸したパーチメント紙で容器を覆って縛っておけば、気温の低い季節ならバターは新鮮に保つことができます。最も保存が効くのは、8月から畜舎での給餌が始まるまでの間にとれる牛乳から作られるバター(*11)です。料理には、上澄みだけをとった溶かしバターが一番保存できます。こちらについては規則を紹介しています。

*9) ドイツ語の言葉の意味をそのままカナにしましたが、前者はドイツ語でSüßrahmbutter、後者はSauerrahmbutterと言います。サワークリームに対し、ケーキ用の生クリームをスイートクリームと呼ぶことがあります。バターの場合、発酵バターは発酵により酸味が出るのでサワークリームバターという言い方をします。
ドイツのバターの詳しい説明についてはこちらをご覧ください。
10*) 木製バターナイフとは、普段使っているパンにバターを塗るためのものではありません。ドイツ語ではButterstecherといい、バターを刺すものという意味なのですが、つまりバターを大きな容器から取り出す時に使う、バターに差し込んで切り取るためのナイフです。こちらのサイトに画像があります。
11*) このバターをドイツ語でStoppelbutterといいます。Stoppelとは作物を刈り取った後の切り株をさします。8月に収穫を終えた後、これを食べた牛の牛乳から作られるバターは夏に作ったバターよりも日持ちがよいそうです。現在ではこの言葉は使われていないようです。

  代替油脂としてお勧めできるのは、良質な種類が多数あるマーガリンそして純粋な植物油です。最も知られるブランドではパルモナとパルミン(*12)を挙げます。これらは常にどこでも同じ品質で入手することができ、この2つがなくとも同じように良質の植物性バターがたくさんあります。他にも主婦なら誰でも腎臓脂やラード、ガチョウの季節にはガチョウのラードは省き、良質の乳脂肪を用意するでしょう。これらの油脂については下ごしらえの一般知識のところで規則をご紹介します。
  油脂には食用油も含まれます。これら食用油ではオリーブ油がもっとも高価で、純粋なものは手に入りにくく、ほとんどは他の安価な油を混ぜてあります。ケシ油は、多くの人が特徴ある独特な味だと感じます。菜種油は例外的な場合のみ使われますが、使うのもコールドプレス(冷間搾汁)されたもののみです。オリーブ油の代用として最良なものは植民地由来の優秀なドイツ製落花生油です。皇帝の宮廷の厨房でも使われています。ブレーメンの輸入食品店オーロフ(*13)や、ベルリンのライプツィヒ通りにあるリントシュテット&ゾイバーリッヒ(*14)で購入できます。食用油は手の平で擦った時に匂いがしないもの、またはあってもかすかに香る程度のものでなくてはいけません。厳密に油の特徴を知るにはただ匂いを嗅ぐだけでは分かりません。

*12) パルモナの情報はあまり見つけられませんでしたが、ウィキペディアにこんな画像を見つけました。

パルモナの広告でしょうか。女性が友人に電話しています。「もしもし!モリー?ローナよ!この間パルモナの話してたわよね?料理上手な女性も褒めていたから、私も使ってみたのよ。
ーこれすっごくいいわね!
ー完璧にバターの代用になるわ!
彼?ー気に入ったわ!ーもちろんよ!ーキス!
え、何?ーじゃあ今晩ね!ーありがと!ーじゃあね!」
下に、植物性バター=マーガリンのパルモナはH・シュリンク株式会社だけの商品です、と書いてあります。H・シュリンクとは、ハインリヒ・シュリンクのことで、19世紀後半にココナツから油脂を取り出し、食用油に加工する方法を編み出しました。1887年にマンハイマー・ココナツバターという名称で市場に登場しましたが、1894年にパルミンに変更されました。
どうもパルモナとパルミンは類似の油脂でも用途が分かれていたようです。こちらのサイトの下の方に男の子と女の子の絵があります。そこにはパルミンは料理(焼く、煮る)、パルモナはバター代わりにパンに塗る、とあります。
*13) 輸入食品店と書きましたが、ドイツ語ではKolonialwarenhandelといい、直訳すると植民地製品店となります。植民地やその他の地域の商品、舶来品を扱う商社、店舗のことです。
こちらの会社はもう存在していないようですが、このサイトに同社のコーヒー缶の写真があります。
*14) この会社はプロイセン王国御用達だったようです。鶏やジビエを扱っていたようです。

  調理技術の上でより重要なのは卵で、購入の際、鮮度と大きさは特に気を付けましょう。鮮度を確かめる方法はいくつかありますが、最も確実なのは塩水を使う方法です。食塩30gを250mlの水に溶かし、卵を入れます。新鮮な卵は下まで沈み、3日目の卵は真ん中辺り、もっと古い卵は上に浮きます。卵は新鮮なほど、中身が蒸発し失われていないため重量があります。他には光を当てる方法もあります。暗いところで卵を手に持ち、光に当てると、新鮮な卵は中身がバラ色に光りますが、古い卵は濁ったり曇ったりして見えます。卵の中身が殻の内側に当たるのは古い証拠だ、と卵を振って確かめるという方法がしばしば見られますが、これは新鮮な卵で行うと、カラザが裂けて黄身が殻の下に沈んでしまい、黄身を包む薄皮が破れて白身に流れてしまうのでお勧めできません。卵の大きさは異なり、平均的にロシア産やガリチア産の卵は45g程度で、ドイツ産は、最低60gはありますが、75~80gのものも珍しくありません。そのため卵は個数でなく重さで販売するのが正当だと思います。
  卵の鮮度を保つのは大変重要で、農業分野の研究所は多岐にわたる鮮度保存方法の比較テストをしています。結果、泥炭腐植土で包み、水ガラス(*15)か冷水につけておくのが間違いなく信頼できることが分かりました。泥炭腐植土で卵を保存する場合は、酢水で卵を洗って乾かし、通気のよいヤナギのカゴに入れ、卵同士が触れないように泥炭腐植土を入れていきます。カゴは覆いをせず、乾燥した涼しい、風通しのよい、ただし霜の降りない場所に置きます。卵を水ガラスに漬ける時は、水10リットルに対し水ガラス1リットルの割合で溶かし、きれいに洗った卵を大きな炻器の器に入れ、この水を注ぎ入れます。この卵は、茹でる時の殻の破損を防ぐため、前もって殻に細い針でごく小さい穴をいくつか開けておきます。卵が高価な時は、近年膠州湾租借地(*16)から輸入されている乾燥卵のコロヴォ(*17)(購入先:ザイフェルト兄弟商会、ハンブルク15)が大変安価で、新鮮な卵の代用品として大変優れているので、料理によってはお勧めできますし、また、卵黄だけを使う料理にむいている保存性のある食用卵黄(購入先:マグデブルクのU・フェルヒラント)もお勧めです。この卵黄は長期保存が可能な混じりけのない味の商品で、1個あたりおよそ3プフェニヒです。

*15) 水ガラスについてはウィキペディアに説明があります。
*16) 1898年から1914年までドイツ帝国の租借地でした。行政の中心は青島で、青島ビールはこの時ドイツ人が創業したことは有名ですね。
*17) 検索すると古い食品化学の本や卵の研究書のような本にこの名前が登場しますが、どういうものなのか詳細が分かりません。パウダー状にしたもののようでもあります。このサイトに商品チラシの画像がありますが、残念ながら画素が粗く文字が読めません。

5.野菜と果物の貯蔵室

  冬の備蓄品を保存しておく地下貯蔵室は、可能な限り地下水の中間層より上になくてはなりません。中は少なくとも人の身長ほどの高さで、通気をよくする窓があり、壁はきれいに磨いてあり、床はきちんとセメントで塗り固められているのがよいです。貯蔵室に湿気があったら乾かしましょう。一番よい方法は、貯蔵室内にコークスストーブを置き、2~3日燃やしておくことです。ただ一日のうち数時間はストーブをしっかり閉めておきます。この間にすぐ窓を開け、燃焼したガスを吸い込まないようにし、湿気を含んだ空気を窓から外へ逃がします。コークスストーブを使い終わって貯蔵室から出したら、空気を入れ替え、室内をきれいに掃除します。壁と天井はにかわを煮出したものに石灰を加え、これで白く拭きます。この方法で不十分な場合は、塩化カリウムを平たい器に入れて置いておき、液体になったら余分な湿気を吸い取らせ、乾燥させて、新たに使用します。ー貯蔵室でかび臭いところがあれば、硫黄で燻して消毒します。硫黄を使う前に棚や壁を軽く湿らせ、硫黄の燃焼物である亜硫酸の効果を高めます。硫黄を使う間、貯蔵室の窓や扉は、隙間もきっちり空気が漏れないよう閉めておきます。0.5㎏の棒状硫黄を古い鋳物の鍋に入れ、注意深く弱火にかけたらまたすぐに火からおろして使い古しの雑巾を何枚か浸し、貯蔵室内にまんべんなく置いたら24時間密閉します。貯蔵室に入る際、酢を含ませた布で口と鼻を覆い、入ったらすぐに窓を開けてまたすぐに出ます。再度入る時は、数時間待ってからにします。貯蔵室内にホルマリンランプ(*1)を置いておけば、常に空気をよい状態に保つことができます。

 日本より乾燥しているドイツでも、地下室の湿気対策は必要だったのですね。ここに書いてある硫黄を使う方法は、決して試したりしないでください。
*1) ホルマリンランプ:ランプとはいえ、灯りをつけるというより、除菌や脱臭、虫よけの目的で使われていました。
こちらのサイトでランプの写真が見れます。詳しい説明も書かれていますが、ここでは省きます。

  野菜と果物の保存には別々の貯蔵室が必要です。果物は、野菜やジャガイモと一緒に置いてくと腐りやすいからです。野菜室には様々な冬野菜やとりわけジャガイモを保存するスペースが必要です。野菜の保存には、砂床を用意するのが一番よいです。大きさは長さが貯蔵室の壁ほど、幅は125㎝、高さは30㎝。中に入れるのは軽い土、砂、石炭灰を混ぜたものが、野菜をよく保存するのに適しています。砂床は板やレンガで囲みます。砂床に入れるのに適した野菜は、まず冬リーキで、根を切り落とし、きっちり溝に差し込みます。次にセロリですが、外側の葉と根茎の繊維を取り除き、残った心葉は外(上)へ向けて砂床に置きます。パセリの根も同様にします。ホースラディッシュはそのまま、隙間を空けずに砂床に差し込みます。ニンジンは葉を取り、根元を薄く切り取り、育つのを防ぎます。砂床に、頭を外側、先端を内側に向け、円形に並べ重ねます。パースニップとゴボウも同じようにしますが、ただ冬を越すには切ったりせずにそのまま保存します。赤いカブ(ビーツ)は小ぶりのものだけ取っておき、根茎を傷つけないため、葉の茎も短く切り過ぎないようにします。コールラビは遅蒔きの品種しか日持ちしません。葉は心葉まですべて切り落とします。スウェーデンカブ(ルタバガ)は、砂床に寝かせる前に葉も細い根も取り除きます。大根も同じようにします。

 砂床ですが、こちらのサイトの画像がイメージしやすいと思います。本中に挙げられた根菜類は、今でもドイツに行くと市場やスーパーで普通に売られています。意外なようですが、ゴボウもあるんです。日本のものより中身が白く、アクが結構出ます。味は日本のものよりマイルドで、温野菜サラダ、スープ、グラタンなどにします。
 セロリはドイツでは根セロリ(セロリアック)を指すことがほとんどです。
 パースニップはドイツ語でPastinak(pl.-e)ですが、本にはどう見てもPastanikeと書いてあり、昔はこっちのいい方だったのだろうか・・・と思い検索してみましたが、おそらくミスタイプです。

  キャベツ類は砂床には置かず、単独で保存します。適しているのはサボイキャベツ(ちりめんキャベツ)、白キャベツ、紫キャベツ、カリフラワーで、最初の3つは霜が降りるまで床に置いておき、その間にしぼんでしまった外側の葉を取り除いたら、地下貯蔵室へ運んですのこの上に、くっつかないように置きます。あるいは広いスペースがあれば、キャベツの芯のところに丈夫な紐を付けて吊るして保存してもよいです。カリフラワーは大きな葉を切り落とし、内側の葉をカリフラワーの実を囲むように真ん中に寄せてまとめてから、紐で縛り吊るして保存します。あまり大きすぎないもの、遅く出てきたものを選びます。毎週備蓄野菜をチェックし、腐った葉を取り除き、しぼみかけた野菜は料理に使い、砂床は軽く湿らせておきます。
  家庭でとても重要な食材がジャガイモです。ホクホクして崩れやすいジャガイモが最も栄養があるというのは間違いで、化学者バラントによるレントゲン検査の結果、ジャガイモは窒素含有成分が多いほど栄養値が高いということが分かっていますので、購入の際はその点を留意しましょう。この成分は、タンパク質を多く含むジャガイモでは加熱しても分解されません。煮崩れしないジャガイモを好まない人は、ー好みも重要な要素ですーホクホクしたジャガイモを買いましょう。でんぷん質は豊富ですが栄養分には欠けます。レスラー教授のテストによれば、どのジャガイモでも、床から15~20㎝の高さのところにすのこを付けた木箱に入れておくのが一番保存が効く方法だそうです。刻み藁、柴、または類似のもので包んだ握り拳大の生石灰の塊を、箱の真ん中のジャガイモの間に置きます。生石灰が湿気と腐敗、ジャガイモの病気の広がり、そして早すぎる萌芽を防ぎます。ジャガイモは決して高く積み上げてはいけませんし、何か月もそのままにしておいてもいけません。使う分を取り出す時に、全体を転がせるとよいです。今では小売店で、実用的で保存性を高める条件をすべて満たしたジャガイモ保存箱(*2)が販売されていますが、これはとにかくお勧めです。

 ジャガイモがドイツ人の食卓に欠かせない食材であることは知られていますが、現在ドイツのジャガイモの栽培面積は年々減っており、2018年の統計によると世界第7位でした。2021年現在ドイツで登録されているジャガイモの品種は4,205種です。
2*) ジャガイモ保存箱はこんなものです。

 ドイツのホームセンターチェーンOBIのサイトから拝借しました。画像をクリックすると商品サイトにとびます。
 この本が書かれた当時も同じ形だったのかは分かりませんが、おそらくそれほど変わっていないと思います。

  冬野菜には最後にネギも挙げなくてはなりません。ネギは葉をまとめて縛り、風通しのよいところに吊るしておくのが最も保存状態がよいです。

  果物貯蔵室には、果物用すのこ棚を設置して、美味しい冬の果物を保存しましょう。これが保存するのに最適です。食用果物はどれも、麦わら、干し草、木毛の上で保存してはいけません。果物を長期間保存したければ、すのこの上に紙を敷き、その上に泥炭腐植土を薄く敷き詰めます。ー泥炭腐植土は素晴らしい保存料です!ー果物は互いに触れないように並べましょう。並べる時、洋ナシは茎を上に向け、リンゴは茎を下にします。品種や熟成の時期を書いてそれぞれのすのこ板に付けておくと便利です。

果物もジャガイモ保存箱に似たものを使っていました。

Lacewingというメーカーのサイトから拝借しました。画像をクリックするとサイトにとびます。地下室に置いたものではこんなものも。ワインなどと一緒に保存していますね。すのこ状に細い板を置いて通気をよくしているのがわかります。

  冬の果物はすべて、早い時期に出回るものは購入しないようにしましょう。果物は、すでに貯蔵してあり余分な水分が蒸発している物を買う方が、保存性は確実に3倍以上高まります。また、腐敗したり痛んだりしている物が覗かれている場合も同様です。自分で果物を収穫する場合は、あまり早い時期には行わず、雨の降らない日に手で摘み、摘んだ果物は広げて数週間水分を飛ばしてから、貯蔵室へ入れましょう。野菜同様、果物貯蔵室でも週に一度腐りかけのものがないかチェックし、そういうものはすぐに使い切るか廃棄しましょう。
  非常に重要なのは果物の品質を選ぶことで、毎月その都度食べごろに熟したものを選びます。この場合のみ、洋ナシやリンゴの備蓄がたくさんあると役に立ちます。
  主婦になりたての若い皆さんに、よく知られ、豊富に栽培されている洋ナシとリンゴの品種を月ごとにいくつかご紹介します。(訳注:各品種に画像リンクを付けましたので、気になるものはクリックしてご覧ください)

  9月と10月はリンゴが熟してきます。Ernst von Bosch (Ernst Bosch?)、roter HerbstkalvillGravensteinergoldgelbe Sonnerreinette: 洋ナシ:Gute LuiseGellerts Butterbirnebeurre grisbeurre blanc (Weiße Herbstbutterbirne)
  11月、12月のリンゴ:Danziger Kantapfelroter WinterkalvillLandsberger ReinetteAnanas-ReinetteCox OrangenreinetteEdelborsdorfer: 洋ナシは、Diels ButterbirneForellenbirneDechantbirne
  1月、2月のリンゴ:Orleansreinettegraue französische ReinetteWintergoldparmäneweißer WinterkalvillRibstonpeppingGoldreinette (Goldparmäne)Berlepsch Reinette。洋ナシは、RegentinbirneHardenponts-ButterbirneEsperens-BergamotteJosephine von MechelnEdel-Crassane
  3月、4月のリンゴ:Roter OsterkalvillWintertaubenapfel (Nathusius’ Taubenapfel?)Baumanns ReinetteChampagner-ReinettePariser RambourKasseler ReinetteBoikenapfelpupurroter Cousinotroter EiserapfelRheinischer Kurzstiel (Rheinische Krummstiel?)Muskat-Reinette。洋ナシは、WinterdechantsbirneBollweilers ButterbirneSt. Germain-Birne

 カナ表記にせず、原語のまま書きました。詳しく一つ一つの品種については調べ尽くしていませんが、現在も残っている品種ばかりに見えた中、マイナー品種になっているものもありました。名前の由来は様々ですが、人の名前(画家、品種改良に関わった人、貴族など土地の領主など)、土地の名前などがありました。
 洋ナシでButterbirneというのがいくつかありますが、直訳するとバターナシという意味で、バターのようなまろやかな味がするのだろうか、と気になりました。
 本中にある名前では見つからなかったものは、ごく似た名前の品種があったので、それを挙げています。

  新鮮なプラム(セイヨウスモモ)は、晴れた日に手袋をして、一度も水を入れていない新品の石の器に入れると保存状態がとてもよくなります。器は袋に入れて口を閉め、長時間日光に当て、乾いた土をかぶせた石板を貯蔵室に置き、その上に器を乗せます。プラムはそのままクリスマス頃も新鮮さを保ちますが、一度器を開けるとその後は長くもたないので、いくつかの小さい器に分けて保存するのが安心です。保存するのは完全に無傷のしっかり固いプラムを選ぶことは言うまでもありません。
  切り取った葡萄は、切り口にラックニスを塗り、間隔を置いて涼しく風通しのよいところに吊るしておくと、保存状態が特によくなります。フランスでは最近、純粋なアルコールを入れた皿を置いた箱の中に、傷んでいない葡萄を吊るして保存しています。アルコールの蒸発が、中の葡萄を冬の終わりまで新鮮に保ってくれます。
  葡萄は小さければ、枝についたまま広口の薬瓶に入れて瓶を枝に固定します。瓶に葡萄が触れずに成長できるように気を付けましょう。こうすると甘みが増し、冬の寒さからも守られます。霜が降りる前に、麻くずや綿でガラス瓶を覆いましょう。

 葡萄の保存箱はネットでは見つかっていません。箱と訳しましたが、どの程度の大きさだったのでしょうね。
  これでこの項は終わりです。夏の果物についてはここでは触れられていませんが、レシピには出てくるようです。

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