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眼差しの先に想いを馳せる/『CLOSE』

 感想っていうかもはや心の嗚咽なのでポエムにしかならない。逆立ちしたって理路整然となんて書けないし、映画観てるあいだずっと10秒おきぐらいに「永遠を壊したのは、僕」というキャッチコピーが頭の中をぐるぐるぐるぐる回り続けてた。

 一心同体、お互いの呼吸さえ分かち合う二人の、微に入り細を穿つように繊細に積み上げられた永遠だからこそ、ひび割れていく決定的なその瞬間も分かってしまうんだよ……。

 少しずつ揃わなくなっていく足並み、それでもひそかに「彼」を追いかける視線。

 ばらばらになり崩れていく様が儚くあっけなく苦しくて、じくじくとした痛みがずっと身体の奥底で訴えかけてくるような感じ。そうだよ、永遠を壊したのは僕……。

 まるで溶けあうようにぴたりと重なっていたはずの二人の心に生じたさざ波が、壁なんてなかったはずの二人の心の輪郭を浮かび上がらせていくかのような、分かち合っていたはずの世界を共有できなくなっていくような、そんなひりひりとした映画だった。

 でもきっとそれを、世間では「大人になる」と表現するんだろうね。だってレオは広い世界の存在を知り、二人だけの満たされた世界から自立していったんだから。

 アイスホッケーで怪我をしたレオが、腕のテーピングをしてもらいながらぼたっと涙をこぼすところで、つられて私も泣いた。あの一瞬、ものすごく感情移入してしまった。自分の中の記憶とリンクしたというか、トリガーが引かれたというか。レオの心のうちが分かるはずもないのに、分かる、分かるよレオ……ってなったんだよな。

 きっとレオは泣けなかったんじゃないかな、レミのことでは。スクールのカウンセリングの一環で、感情の言語化を促された時も、レオは「(話したいことは)ありません」と答える。表面上はいつも通り。

 レミが亡くなってからも変わらず学校に通い、いつもと同じ面々で絡み、アイスホッケーに打ち込んで、家に帰る。その繰り返し。だってレオの世界はレミがいなくても成り立つし、日常は続けられるから。レオの世界からレミを突き放したのはレオで、永遠を壊したのも僕だから……。

 レミのことではうまく泣けなくて、でもほんとはずっと泣きたくて、生理的な涙に引きずられるようにしてようやく発露した想いが、テーピングの時に初めて(だったはず)流れた涙だったのではと思う。

 でもいつも通りなんだよね。少なからず周囲からはそう見えていて、怪我をしたレオが痛くて泣いてると思ってるから、いつも通りなんだよ。

 ちょっと違うかもだけど、私の場合、泣きたいけど泣けない時にめちゃくちゃ悲しい物語を摂取して無理やり涙を流すことがあるので、なんとなくそれを思い出してしまったのかもしれない。

 最後、車中のレオとレミの母親のソフィのシーンで再びボロ泣きした。レオが「僕が突き放した、僕が原因なんだ」と告白する間、レミのお母さん、頑なに瞬きをしないんだよ。一度でも瞼を下ろしてしまうと、多分涙が決壊してどうにもならなくなってしまうから。限界まで張った涙の膜、まっすぐに前だけを見つめる視線。彼女が瞬きをするその瞬間まで、私も必死になって涙を堪えながら食い入るように見てた。

 どれほど永遠だと思っていても、時が止まるわけじゃない。レオの腕の怪我だって治るし、時はそれでも進んでいく。

 ましてやレオは巡る季節とともに花(花き農家らしい)の成長を実感しているだろうし、ソフィは産科医なので子供の成長の速さを一番実感する立ち位置なんじゃないかなと思う。

 ラスト、レミの両親は街を出たんだろうか。それともレミの部屋を片付けたんだろうか。いずれにしても、永遠のまま留まり続けることはできないし、前に進むしかないんだということを、アイスホッケーの「視線の先だけを見ろ、前に進め、振り返るな」という序盤のセリフを思い返しながら思った。

 CLOSE、とにかく視線の動きが良かったな。カメラが真っ正面にレオを捉える。レオの視線が揺れ動き、ぴたりと中央に向けられた時、その視線の強さが私にまで届いたように思う。

 レオが見つめる視線の先をカメラが直接撮ることはないんだけど、でも誰に向けられているのか、その想いも伝わってくるカメラワークだった。ひりひりして、切なくて、、

 映画を見終わってからポスターを見た時、レオの視線がこちらにまっすぐ向けられていて、ああ、となった。
 たまたま見かけたインタビューにも視線についての言及があったので、もっとあああああ…!ってなった。

 でもさ、永遠を壊したのは僕だけど、壊させたのは彼らを取り巻く社会であり私たちなんだよ……いやだ、やめてくれ、しんどい……

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