綿貫ちか

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  • 映画鑑賞メモ2023

    2023年に見た映画(映画館・配信問わず)の感想メモ。舞台とかもあったりなかったり。

  • 映画鑑賞メモ2022

    2022年に見た映画(映画館・配信問わず)の感想メモ。舞台とかもあったりなかったり。

最近の記事

客観的でいることの功罪などについて/『善き人』

 ただでさえ上映回数が少ない(映画館で公開してくれるだけ本当にありがたい話だが)なか、どうにか見れないものかとスケジュールと睨めっこし、かなりの強行突破で見てきましたナショナルシアターライブの『善き人』。  タイトルの時点で私の琴線に触れまくりだったのだけれど、あらすじを読んでこれは軽い気持ちで見れる作品じゃないなと気を引き締めつつ、鑑賞後はやはりそれを上回るしんどさがあった。 ハルダーの書いた小説について  自分でも変なところに感情移してしまった気がするけれど、主人公が

    • 揺れる信仰、名誉、学問、愛について/『骨と十字架』

       みんなエゴイストで傲慢で、純粋で強固で一心で己の正義に盲目的だったというか。でも信仰とはそういうものなのかもしれない。  演劇作品である『骨と十字架』をありがたくも無料配信で視聴することができたので、映像系枠としてカウントしつつ覚え書きを残しておきます。  セリフ回しや照明、舞台セットがほんとうに良くて、すべてのセリフを紙に書き留めて残したいという欲求に駆られたけど時間がなかったので断念した。  こんなに丁寧で、慇懃無礼で、まるで飾り立てたかのような会話の応酬なのに、こ

      • 安楽死と尊厳、遺されるものについて/『すべてうまくいきますように』

         相手を想うが故の相反する感情、まさしくタイトルのような祈りと願いの概念に弱いので、ラストで目頭が熱くなった。  心の奥底(どうしても態度には出てしまうが)では父が安楽死を考え直すことを願いながら、 それでも死を望むのならすべてうまくいきますようにと父のために動く家族の心情がどこまでも丁寧に描かれていたように思う。  ラスト、姉が「(父の最期は)万事順調にいった」と電話を受けるシーンで、タイトルの意味に泣いてしまった。  複雑な家庭事情、周囲との関係性が断片的に描かれ

        • 三世代に渡る興隆と衰退、その最期について/『リーマン・トリロジー』

           初のNTLive作品でした。良すぎて泣きそう。  心の底から惚れ惚れしてしまう、という感覚を得たのは人生で本作が初めてかもしれない。  『リーマン・トリロジー』は、タイトルの通り、リーマン・ブラザーズの興隆と衰退を描いた話である。  アメリカン・ドリームを夢見て海を渡ってきたヘンリーたちの、たとえ自らの名前は変えることがあっても守り続けてきた祖国のルーツ、価値観や慣習が深く根付いた店は、けれども事業の拡大、押し寄せる年波により、彼らの手の届かない先へ先へと突き進み、どん

        客観的でいることの功罪などについて/『善き人』

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        • 映画鑑賞メモ2023
          8本
        • 映画鑑賞メモ2022
          5本

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          みんな、自分が見たいものを見て、信じたいものを信じて生きている/『怪物』

           めちゃくちゃ泣いた。開始10分ぐらいで既に泣いてたけど、物語の全体像が見えてくるにつれ、涙が引っ込んだり引っ込まなかったりと忙しかった。  色んな人の感想や考察を見ていたらラストの解釈が全然違くてびっくりしたし、せめてもう一回は観ないと色々取りこぼしがあるだろうけど、ひとまずの私の初見の感想というか覚え書き。  ほぼ事前情報を入れずに、予告からホラーやサスペンスものかもと覚悟して見ていた分、ラストはいい意味で希望のある終わり方だった。私はラストシーン、二人は生きていると信

          みんな、自分が見たいものを見て、信じたいものを信じて生きている/『怪物』

          時間は有限、駆け抜けるぐらいではきっと足りないから/『tick,tick…BOOM!』

           スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホームのアンドリュー・ガーフィールドの演技を見て好きだなあと思ったので、追いかけるようにして視聴。こちらもたいへん良かった!  作曲家を目指すジョナサンはもうすぐ三十歳。  夢を諦めた友人、すれ違い続ける彼女、家計はいつも火の車。ままならない現実、作曲家になれない焦りが規則正しく時を刻み、彼を追いかけてくる。  それがtick,tick…BOOM!なのだ。  作曲家志望のジョナサンが主人公である本作もまた、たくさんの楽曲に彩られている。  

          時間は有限、駆け抜けるぐらいではきっと足りないから/『tick,tick…BOOM!』

          たどり着いた境地、舞い散る栄光/MUSICAL『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』

           スクリーン上映されたものを鑑賞したので、映画枠としてカウント。  序盤でボロ泣きして、カールのくだりの色んな意味のヤバさにぞわぞわして、クライマックスの『歓喜』の構図の美しさにただただ呆然としてしまったな。めちゃくちゃよかったです!  少年期、青年期、晩年期でそれぞれ役者が異なるからこそできる表現、セルフケア的な部分が私は大好きなので序盤からテンションが上がってしまった。  すがりつく少年期のルードヴィヒ、受け止め抱きしめる青年期の彼。ピアノを弾く喜び、純粋な衝動に胸

          たどり着いた境地、舞い散る栄光/MUSICAL『ルードヴィヒ~Beethoven The Piano~』

          心の宿る先、映し出されるもの/『さらば、わが愛 覇王別姫』

           公開30周年、レスリー・チャンの没後20年という節目に再上映があったこと、今このタイミングで立ち会えたことに心の底から感謝した。  でなければ映画館で初めて「さらば、わが愛 覇王別姫」を鑑賞するという機会、なかなか巡り会えなかったと思うので…!  3時間という長尺もあり他の予定との折り合いがなかなか付かず、このまま諦めてしまおうかとも考えていたので、スクリーンで観ることができて本当に良かった。  もし観るのを諦めていたらと思うとゾッとするし、配信がないことも知ってさらに背

          心の宿る先、映し出されるもの/『さらば、わが愛 覇王別姫』

          雨、心、くゆる煙/『ブレードランナー ファイナル・カット』

           午前十時の映画祭で鑑賞。すごかった。近未来のイメージはこの作品が大きく影響を及ぼしているんだろうな。くゆる煙、雨、暗くてごちゃこちゃしていて、その中で電光掲示板の文字や装飾だけが瞬いている。路地は汚くて人混みばかりで、一歩奥に踏み入れば無法地帯。雨、煙、廃棄物。雨雨雨。  女神転生を思い出したんだけど、制作年的にはブレードランナーの方が原点になるのかな。  ラストがとても印象的だった。  知能も身体能力も人間より上なのだから、人間よりも深い感受性、心を獲得していても何ら

          雨、心、くゆる煙/『ブレードランナー ファイナル・カット』

          眼差しの先に想いを馳せる/『CLOSE』

           感想っていうかもはや心の嗚咽なのでポエムにしかならない。逆立ちしたって理路整然となんて書けないし、映画観てるあいだずっと10秒おきぐらいに「永遠を壊したのは、僕」というキャッチコピーが頭の中をぐるぐるぐるぐる回り続けてた。  一心同体、お互いの呼吸さえ分かち合う二人の、微に入り細を穿つように繊細に積み上げられた永遠だからこそ、ひび割れていく決定的なその瞬間も分かってしまうんだよ……。  少しずつ揃わなくなっていく足並み、それでもひそかに「彼」を追いかける視線。  ばら

          眼差しの先に想いを馳せる/『CLOSE』

          王子とプリンセスだからではなく、この二人の恋路だからこそ応援したい/『リトル・マーメイド』

           みんなご存知『リトル・マーメイド』。  人魚姫は絵本を読んだぐらいでアニメ版を見たことがなく(記憶にないだけかもしれないが)、足の代わりに声を奪われるけど最終的に王子と結ばれるんだっけ泡になるんだっけ?とほぼ覚えていなかったのもあり、はよキスせい!!って物理で盛り上げていく話だとは思わなくてずっと笑ってた。楽しい映画でした。  でも、何より良かったのが、エリックとアリエルの関係性が丁寧に描かれていたこと。  運命の相手と出会い、一目惚れし、結ばれる。  でもそれ以上に、

          王子とプリンセスだからではなく、この二人の恋路だからこそ応援したい/『リトル・マーメイド』

          残された記録が物語ること/『ブラックボックス 音声分析捜査』

           2022年に映画館で鑑賞。劇場映えする映画だった。  最後には機械ではなく人の直感がモノを言う中で、ではその直感に当人の主観は混じっていないのか。語り手すら疑うべき存在になり、始終ハラハラしっぱなし。  ラストは衝撃的だったけれど、ブラックボックス(残された記録)という作品テーマを考えれば、綺麗な終わり方だったと思う。

          残された記録が物語ること/『ブラックボックス 音声分析捜査』

          誰もが歳を重ねていく中で/『PLAN75』

           高齢化が進み、その解決策として、75歳になったら死を選べるようになった社会。  PLAN75という制度は、生まれ方は選べずとも死に方は選べる、そんな謳い文句とともにテレビやポスターなどでしきりに宣伝されるようになった。  でも私は、果たしてそこに死の自由はあるのだろうかと強く思う。  主人公である角谷さんは、会社側の都合(同じく高齢者の同僚による転倒事故)で働き口を失い、働きたいけれど高齢が原因で再就職先も家も見つからず、ようやく仕事にありつけたかと思えば夜間の立ち仕事の

          誰もが歳を重ねていく中で/『PLAN75』

          私が映画沼に転がり落ちるまで

           三年ほど前から映画をよく観るようになった。元々映画を観るタイプではなく、有名なものもスルー(もったいなすぎる!)し続けてきたのだけれど、ちょうどその頃舞台観劇にハマっていたこともあり、ライブビューイングやらなんやらで映画館に足を運ぶようになったのだ。  自然と予告やフライヤー、壁に貼られたポスター等が目につくようになり、映画情報を集めるためのアンテナが私の中で新設され、気が付けばどんどんと映画館で過ごす時間が増えていった。  本格的に映画沼に足を掴まれるきっかけになったの

          私が映画沼に転がり落ちるまで

          「羽衣なんか灰にして、愛してるって言ってほしいの」1話完結

          -----------あらすじ-----------  新社会人になったばかりの榎本有紗が嵐の夜に拾ったのは、光り輝く赤子ーー翼のない天使だった。  赤子なんて拾うわけない、しかるべきところに届けよう。そう意気込んだのも束の間のこと、書き換わった世界ではなんと、天使が正真正銘の家族になっていた。  天使を人の子として育てる有紗だが、本当のことは何一つ打ち明けられないまま、月日だけが流れていく。  そんなある日、天使の誘拐事件が起こる。奇しくもそれは、天使の十四回目の誕生日だ

          「羽衣なんか灰にして、愛してるって言ってほしいの」1話完結