アンナ - 泥 #0
そうか、と私は思った。
納得と、ずんとくる落胆が半々に混ざり合っていた。
目の前に、ぎこちない笑みを浮かべてノゾミが立っている。彼はついさっき、私に向かって「好きです」と言った。放課後の教室、私は自分の席に座ったまま、少し震える彼の肩あたりに目を向けてその姿をぼんやりと眺めている。
人間だなあ、と思った。どうしようもない。彼は同級生の、普通のオトコノコってやつだった。私は恥ずかしかった。彼を仲間のように思っていた私は、全然見る目がない。同じものをシェアしている気がしていた。違った。彼は、私の方を見てただけだった。
私のかすかな日々の希望は壊れた。その上すべてを恋愛にくるんでしまおうというする彼の勝手な行いが、私には許せなかった。彼自身の性質を好きか嫌いかなんて、そういうことはもうどうでも良かった。
「そっか。じゃあ、私は帰る」
私はそうとだけ言って、机の横にかかったカバンを手に取り、教室を出た。スタスタと間の抜けた足音が鳴った。カバンを肩にかけた。重い。めんどくさい。後ろから「え」とか「あ」とかいう意味のない音が聞こえていた気がするけど、私は振り向かなかった。
あそこはもう徹底的に、私の居場所ではなくなった。
つづき
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