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#31 ハゼの君

上皇陛下がハゼに関する34本目の論文を出版なされたとのニュースを拝見した。この忙しい世の中になんと頭の下がることだろうか。

論文自体は新種のハゼを2種記載したというシンプルなものである。僕自身はこの手の研究には詳しくないので、どのくらい凄い事なのかの解説は他の人におまかせして、ちょっと知っておくと面白い論文の見方でも紹介しようと思う。この一本の論文から上皇陛下の人となりが透けて見えてくる。

一つ目。タイトルの下のReceivedは論文を投稿した日だ。昨年の2月に論文を投稿しているのだが、方法を見るとハゼが採取されたのは2006年のことである。おそらくずっと気にかけていた論文を、退位を機に書き上げることができたというタイミングだろう。

二つ目。じっくりと読んで欲しいのは謝辞の(acknowledgement)の部分だ。この研究に協力してくれた人の名前が列挙されているが、この数が非常に多い。特に海外の研究者から近縁種の標本を借りたり、再計測をお願いしたりしている。どこまで陛下が直接的なやり取りをしていたかは不明だが、それでもこれだけのネットワークを作るのは大変な苦労だ。

三つ目。引用文献にも目を向けてみよう。過去の陛下の論文も引用されているが、当初はAkihito Prince名義だったのが、徐々にAkihito名義での論文になってきている。皇太子の頃からコツコツと研究を進めてきたのが見て取れるちなみに陛下の業績は宮内庁のHPに詳しい。

最後に、投稿した先の雑誌が日本魚類学会の英文誌だということも注目だ。この内容であれば他の国の雑誌にだって投稿は可能だと思われるが、やはり日本の雑誌に執筆することを大事にされているのだろう。

と言った具合で研究者ならではの注目ポイントを紹介してきたが、個人的には職業研究者としてはお忙しい陛下に論文の数で負けてならないと気を引き締めた次第である。

(2021/6/30)

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