北村 亘

東京都市大学環境学部准教授/株式会社バンデルオーラ代表/1979年千葉生まれ/水曜に8…

北村 亘

東京都市大学環境学部准教授/株式会社バンデルオーラ代表/1979年千葉生まれ/水曜に800字エッセイ投下中

最近の記事

#40 白河の清きに

京都大学の霊長類研究所が事実上の解体だという。僕が研究者を目指すきっかけとなった場所でもあるので、残念な気持ちが強い。 その原因の一つが研究費の不正利用にある。 様々な議論があろう。が、今回は現役の研究者として、僕がついつい研究費を不正利用したくなる瞬間を紹介したい。 その1、新しい研究を始めたいとき。 研究費を獲得するコツとしてよく聞かされるのは、あと一息で研究が終わる段階で申請するというものだ。お金を出す側の心理からしたら成果を出してもらう必要があるので、確実な所

    • #39 空の巣

      岸田政権が誕生してしばらく経った。政治は専門でないので、あまり採点をするようなことはしたくないが、現状維持路線で特に何かが変わることはなく、元を辿れば、それを国民が望んだというところだろうか。 実は、我が家では河野氏が総裁になることを願って、ハラハラしながら応援をしていた。 そのキーワードは「夫婦別姓」である。総裁選の段階では河野氏と野田氏は賛成に回り、岸田氏はどっちつかずといった感じだった。 そんな中、総裁選の始まる少し前に我が家(というより妻の実家)で紛争が勃発した

      • #38 乗客に日本人はいませんでした

        ノーベル賞の発表の時期である。今年も順番に発表されてきたが、物理学賞は眞鍋淑郎氏の地球温暖化予測の研究に送られた。日本人が受賞した!と号外が街に溢れ、TVでも連日、その成果や人柄が報道されている。 実におめでたい。 日本人の脳みそが、である。 眞鍋氏の経歴を少し調べてみれば解るのだが、27歳でアメリカに就職し、44歳でアメリカ国籍を取得している。一時期日本に戻ってもいたが、今回の受賞に対する研究はアメリカで為されている。現在もプリンストン大学を名乗っているところを見ると

        • #37 冷たい男

          2週間ほど、更新を滞らせてしまった。少しばかりコロナにやられていたのである。何とか持ち直したので今週から再開だ。 ところで、目の前に白杖を持った男性がおぼつかない足取りで歩いていたらどうするだろうか?今、まさに交差点に差し掛かろうとしている。少し前方には僕と同様に心配そうに振り返る若者もいるが、明らかに一番近くにいるのは僕だ。つい先日の体験だ。 結論として僕はその方の50cm手前を通り過ぎ、何事もなかったように行き過ぎることにした。僕は冷たい男なのだろうか? 逆の立場に

        #40 白河の清きに

          #36 メンタルヘルス

          天邪鬼なもので流行りものを扱うのに抵抗はあるのだが、結局のところ開幕をしてしまえば日本はオリンピック一色で他に書くネタを思いつく隙間が無いくらいそのニュースで溢れている。ぼったくり男爵にいいようにされる訳である。 オリンピックで気になった点をいくつか。 トランスジェンダーの女性が重量挙げに出場したことが話題となった。もともと男女で体が違うので性別ごとに競技が分かれていたはずだが、肉体と違う性によってカテゴリーを再分類するのは生物学者としては違和感がある。筋肉量や特に骨格は

          #36 メンタルヘルス

          #35 100日後

          100日後に死ぬワニというのが話題になったのは昨年のことであったが、100日後に食われる豚というのが最近の注目だ。その名の通り、100日後に食べる豚の成長過程をYouTubeで見せる企画だ。案の定、賛否両論となってしまったが、面白い企画だ。 僕も以前に学生と鶏を育てて食べたことがあって、noteでも触れさせてもらった。自分達の食べものから命をもらっている事を理解するために必要なことと思っている。 ちょっとだけ注意しなくてはいけないのは法律がらみの問題で、あまりに酷い飼育の

          #35 100日後

          #34 罪と罰

          いよいよオリンピックが始まる。が、やはり一筋縄でいかなくなってしまった。本来は収束に向かっている問題を、再燃させるのは趣味では無いが、ここ数日ずっとモヤモヤとしていたので、改めて整理しておきたい。小山田圭吾氏のいじめ告白問題である。 問題自体は多くの人が知っていると思うので、割愛する。デジタルタトゥーという言葉ができて久しいが、デジタルでない時代の失態まで残り続けるとは恐ろしい時代になった。 さて、僕が考えていたのは最終的に辞任に追い込まれた小山田氏だが、どこかで挽回する

          #34 罪と罰

          #33 操り糸

          子供の頃に怖かったものの一つに寄生虫によって目玉が大きくなったカタツムリの写真がある。見た目にもインパクトがあるが、さらに鳥に食べられやすいように行動を変化するというのに恐怖を覚えたものである。自分の行動も変えられてしまうのか、と。 この手の研究は現在も進められていて、ここ最近面白い発見が続いた。 まず、トキソプラズマに感染したハイエナは「大胆」になりライオンにより近づきやすくなるというものだ。トキソプラズマはネコ科の腸内で有性生殖をするらしく、ライオンに食べられるために

          #33 操り糸

          #32 速度感

          コロナに対するワクチンの接種が始まっている。僕のところにも市からの案内と職域接種の案内が来ている。それぞれファイザーとモデルナなので、どうするか迷っている。 ワクチンの供給に関しては職域接種の募集を急遽止めたことへの批判や、市町村向けに数が足りないなどの問題も出てきてはいる。 しかし、これらは全体の速度を上げる為に避けては通れないことだろう。100%の対策を練り上げてからではコロナの蔓延を防げない。やってみないと課題が出てこない問題を積極的に取り組んだ姿勢は評価すべきであ

          #32 速度感

          #31 ハゼの君

          上皇陛下がハゼに関する34本目の論文を出版なされたとのニュースを拝見した。この忙しい世の中になんと頭の下がることだろうか。 論文自体は新種のハゼを2種記載したというシンプルなものである。僕自身はこの手の研究には詳しくないので、どのくらい凄い事なのかの解説は他の人におまかせして、ちょっと知っておくと面白い論文の見方でも紹介しようと思う。この一本の論文から上皇陛下の人となりが透けて見えてくる。 一つ目。タイトルの下のReceivedは論文を投稿した日だ。昨年の2月に論文を投稿

          #31 ハゼの君

          #30 虚数の使い道

          大学で教員なんかをやっているとそれ以前の小中高の教育に物申したくなる時がある。もちろん苦労は重々承知しているし、どちらかと言うと教員の問題というより日本の教育の構造の問題じゃないかとは思っているが。 何に対してかというと、勉強ができるできないはさておき、勉強が嫌いな子が出てきてしまう問題である。特に英語が顕著で、僕の大学なんかでは苦手意識を持ったままやってきて、英語と聞くだけで拒否反応を示してしまう子がいる。お陰で研究を進める上で論文を読んでもらうのに一苦労だ。 もう一つ

          #30 虚数の使い道

          #29 エセエコ

          レジ袋有料化が始まって1年経つが、やはりといった問題が指摘されてきた。エコバッグの作成コストを考えると、ビニール袋を何回か使った方が環境に優しい、というものだ。 エコバッグが流行り始めたときに、いたるところでエコバッグが配られていて、持て余してしまうことがあった。逆に無駄なものを作っているのではないかと、仲間内でエコバッグ入れという皮肉な商品を開発して販売しようと冗談を言っていたくらいだ。 この手の問題は今に始まったことではない。環境に優しい商品が出るたびに、以前のものと

          #29 エセエコ

          #28 愛好家

          2年ほど前に結婚して何が大きく変わったかというと、やはり食生活だろうか。もともと料理は好きだったが、一人暮らしではなかなか気力が沸かず、外食で済ませてしまうことが多くあった。 結婚にあたり、自分で決めたルールとして朝食を必ず二人で取ろう、というものがある。そうでもしないと二人の時間が取れなくなってしまうかと危惧したのだ。まぁ、結婚後のコロナ禍で期せずして3食共にする日々があんなに続くとは思わなかったが。 我が家では料理を僕が作ることが多い。妻にきちんとした物を食べて欲しい

          #28 愛好家

          #27 絶滅危惧種の悪魔

          「Devil Ark」の活動が注目を集めている。少し不思議な語感で「ark」はキリスト教において「聖櫃」や「箱舟」を示す、何と言うか聖なる言葉だ。その言葉と悪魔は似つかわしくないな、と思っていたところ悪魔は悪魔でもタスマニアデビルのことであった。 こいつはオーストラリアのタスマニア島にしか生息しない肉食の有袋類で、最近は「デビル顔面腫瘍性疾患」という感染性の癌(!?)によって大きく数を減らしている。感染による影響を軽減するために、本土に保護区(これがark=箱舟だ)が作られ

          #27 絶滅危惧種の悪魔

          #26 アブノーマルとマイノリティ

          自民党の簗和生氏がLGBTQに対して侮辱ともとれる発言をしたことが物議をかもしている。どんな発言だったか調べてみたところ「生物学上、種の保存に背く。生物学の根幹にあらがう」とのことであった。 これを聞いて少し怖くなってしまったのが、実は僕も似たような発言を授業で良くしているのだ。そして毎回、授業のたびに自分の意図はうまく伝わったのかと不安になる。 僕は授業で生態学を教えているのだが、その中で動物の配偶者選択に関する話をする際に、生物一般の雌雄がどんなものかを説明しなくては

          #26 アブノーマルとマイノリティ

          #25 勝ちパターン

          東京オリンピックまであと2ヶ月だ。実施の可否の議論はともかくとして、どちらかに早く決めて欲しいものだ。一つ確かなことは、オリンピックで新型コロナウィルスが世界に広がることは間違いないだろう。 どこかで見た話だ、と思いだしてみたところ、plague inc.というゲームだった。 少し前に流行っていたのでやったことのある人もいるだろう。自分が病原菌となって世界中に伝染病(plague)を広めていくというゲームだ。人類を滅ぼしたら勝ちとなる。 意外と良くできたゲームで、伝染病

          #25 勝ちパターン