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千葉篤胤の転生記_18~治承・寿永の乱

富士川の戦いより1年が経った。

それから変わったこと… 平清盛が亡くなったことぐらいだった。

篤胤としては富士川の戦い迄の日々変わりゆく頃とくらべかなりゆったりとした時の流れを感じていた。

学校で学んだ歴史やネットでみたまとめサイトは戦いを順繰りにババっと記してるので、さくさく事が進んでいくものと勝手に思っていたが、実際はこの1年ほぼなにもない。

教科書や年号を事細かにみていたら、そこには空いている時間帯というのはあったかもしれないが、実際はそこまで見てるのはそうとうの歴史好きでないとしないだろう。

富士川の戦いの直後で源信義は甲斐・駿河・遠江と3国を制し、源頼朝が千葉一族などと共にちまちま東国を平らげ、源義仲はひっそりと越中にいて、奥州は丸々藤原氏が君臨し、近畿より西の多くは平家が束ねている。これがすべてだ。

篤胤は最近ほぼ胤通の中にいる。ほかの兄弟達へ憑依はするも何日もいられないことが分かった。ずっといれるのは胤通だけだった。そして1年以上いるともうこの暮らしにかなり溶け込んでしまってもいた。

いま篤胤は下総の千葉一族の館にいる。当主の常胤を筆頭に今日は一族の面々が久方ぶりに勢ぞろいしていた。長子の胤正を筆頭に6人の兄弟が揃っていた。そして奥の大広間に一同集い、最近の出来事など各々で語っていたが、常胤が「皆の者」と大きな声を張ると皆静まった。

「篤胤が下総に来て一年半程経った。はじめは摩訶不思議な話で面食らってしまったが、篤胤の言う通り頼朝様は挙兵し、我ら下総の地も平氏にはばかることなく平穏な地となった」

「しかし篤胤が申していた未来はこれで終わりではない。篤胤が言うには、これより源義仲様が京へ攻め入り、その義仲様を頼朝様の弟である義経様が討ち、平家は西へ西へと追われ滅び、遂には頼朝様が義経様も奥州の藤原氏も倒して世を一つになさるという」

「そしてわれらは常に頼朝様へ付き従い、永らく繁栄していくようだ。そうだな。篤胤」

篤胤はそうですと答えた。この話は今広間にいる面々には何度は話した。ただ話が話だけあってだれも他言にはせずに今に至る。

その話であるがと三子である胤盛が話し始めた。

「篤胤から何度か聞くも、富士川での戦より特に勢力が変わったという事はありません。この間に粛々と東国を頼朝様配下に盤石な勢力を築きはしたが。義仲様は以仁王の遺児である北陸宮が御傍にいるも、京へ攻め入るなどそんな兵力はないですよ」

「そもそも源信義様が東国と近畿の間にある東海道を抑えてます。義経様は信義様を素通りして進まれるのでしょうか。そもそも篤胤の話には一度も信義様は出てきません。いったい信義様はどうなってしまわれるのか」

篤胤としてはそのように胤盛に言われても、本当に主な流れしかしらず、先程に常胤が言った事しか知らない。信義はこっちの世界に来て初めて知ったくらいなので何も知りようもない。篤胤が返す。

「胤盛が聞かれたことに僕がきっちりとした答えはしらないんだ。ただ僕はそういう歴史を未来で学んだ。たくさんある長い歴史の中でせいぜい教科書で数ページしか書いてないことだったし、そんな細かくも覚えてないよ」

師常が割ってはいり、胤正に「我らも500年程前の壬申の乱の話を事細かに話せるものでない、同じものさ」となだめた。

篤胤自身も知っている時の流れはあるも、それがいつにどうなるかは知らず、時折本当にそうなるのか、もしかしたらこのまま割拠した違う時の流れになるのではと思うことがある。

更に篤胤が気になっている事としては篤胤と同じように未来から来ているのが他にいるという事だ。以仁王の挙兵の夜にあった平教経にいる「スミレ」だ。1度しか会ってないが、未来からきたという事は篤胤と同じくこれから起こる事を知っているということだ。しかも自分より全然マニアックにスミレは歴史をしってそうだったし、憑依しているのが敵方である平家というのが厄介だ。他にも未来から来ている人がいるかもしれない。

どうなるどうなると気が焦りはするも、もうずっと変わらない日常が続いてしまっていることが、より篤胤の焦りを膨らませていた。




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