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【六本木ホラーショーケース-ARTICLE-】 #019 善意と悪意が交錯する気まずさが引き起こす『胸騒ぎ』

【六本木ホラーショーケース】

六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。


今回ご紹介するのは、『胸騒ぎ』です。

(C)2021 Profile Pictures & OAK Motion Pictures

『胸騒ぎ』

2022 | 監督:クリスチャン・タフドルップ

オフィシャルサイト

クリスチャン・タフドルップ監督の長編映画3作目となります。
監督はスサンネ・ビア監督作品などに出演したこともある俳優としてのキャリアもあります。
デンマークの映画ということで、近年取り上げられる事が多くなってきた“北欧ホラー”という冠が付けられていますが、皆さんはこの括りにどのような印象を持たれているでしょうか?

やはり最近この括りを一般的に広めたのは、『ミッドサマー』ではないでしょうか。
スウェーデンのとある村で行われている夏至祭を舞台としていますが、監督はアメリカ人のアリ・アスターで制作も拠点がNYにあるA24です。
同じくA24が北米配給を手掛けたことで話題となった『LAMB/ラム』は、アイスランド出身のヴァルディミール・ヨハンソン監督の作品なので純度としてはより北欧度が高いと言えます。
他にも『ハッチング -孵化-』や『イノセンツ』など日本公開もされた話題作があります。
しかし、明確な共通点は中々見出しにくいというのが正直な感想です。
そもそも“北欧”という呼称が数カ国をまとめたものなので、どうしても内容的に語るとなるとぼやけてしまいます。

話を『胸騒ぎ』に戻しますと、敢えてここでは“北欧”ではなく“気まずさ”ホラーとして押し出しをしてます。
今作は、イタリアを旅行中のデンマーク人家族が旅先で出会ったオランダ人家族のお招きを受けたことから展開していく作品となっています。
サンダンス映画祭で評価された際にミヒャエル・ハネケ監督の『ファニーゲーム』が引き合いとして出されたりもしています。
不条理胸糞映画として名高い『ファニーゲーム』は、突然家に訪れた若者たちに日常が壊されていくという構図で、由来の分からない悪意に侵食される恐怖を描いていました。
一方『胸騒ぎ』では、主人公たちが招かれて相手の家に訪れるという形となり、そこに善意(のように見える)が介在することで引くに引けない気まずさという要素が際立っています。
そしてそれが最悪の展開へと駒を進めることとなるのです。

“おもてなし”が嫌な方向行き過ぎるという点では、アニャ・テイラー=ジョイ主演の『ザ・メニュー』があります。も、
孤島の高級レストランで提供される料理が度を越した奇抜さであっててなされているという意識が中々正常な判断をさせてはくれません。
『胸騒ぎ』における二つの家族のカルチャーギャップも、違和感を感じても指摘しづらい要素となります。

また、本当に善意であったとしても、それが相手にとってプラスに受け取るかはわかりません。
行為者が善意だと信じて疑わないがゆえの恐ろしさは、スティーブン・キング原作の『ミザリー』が嫌と言うほど教えてくれます。
アリ・アスター監督の『ボーはおそれている』の中盤にも近しいシチュエーションが登場しました。
この“善意”というモノは、何重にも折り重なった複雑な性質があることを感じます。

様々な気まずさを乗り越えて辿り着くラストは、衝撃と宣伝されています。
ぜひ、ご覧になってどう感じるかをお確かめ頂きたいです。
今作は既にアメリカの制作会社ブラムハウス・プロダクションズによってリメイクが決定しています。
ジェームズ・マカヴォイが出演しており、こちらも楽しみです。

【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】

『フレンチアルプスで起きたこと』
2014 | 監督: リューベン・オストルンド

気まずい映画を撮らせたら誰にも負けないリューベン・オストルンド監督作品です。
『ザ・スクエア 思いやりの聖域』と『逆転のトライアングル』で二作続けてカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞という快挙を成し遂げていますが、気まずさをコメディに転嫁する手腕は今作がピカイチです。
監督は奇しくもスウェーデン出身ということで、もしかすると北欧は気まずさをエンターテイメントにするのが得意なのでしょうか?
そして、今作もアメリカでリメイクされているという共通点を持ちます。


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