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【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#007 原点にて到達点の『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』

【六本木ホラーショーケース】

六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。


今回ご紹介するのは、2023/08/18㈮公開『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』です。

(C)2022 SPF (CRIMES) PRODUCTIONS INC. AND ARGONAUTS CRIMES PRODUCTIONS S.A.

『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』

2022 | 監督:デヴィッド・クローネンバーグ

オフィシャルサイト

御歳80歳、巨匠デヴィッド・クローネンバーグ監督の久々の新作です。
皆さんはデヴィッド・クローネンバーグと言えばどんな作品を思い浮かべるでしょうか?
一般的には、ボディホラーと呼ばれるジャンルの名手とされています。
人体の破壊や変容を描いた作品群を指す言葉で、『ザ・フライ』や『スキャナーズ』が代表される作品です。
初期から貫かれてきたホラー描写はそのままに、より作家性を押し進めた『ヴィデオドローム』や『裸のランチ』などでカルト的人気を博していきます。
そして、『クラッシュ』では賛否両論がありながらカンヌ国際映画祭で審査員特別賞しました。

しかし、21世紀に入ってからは一転、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』や『イースタン・プロミス』といった静かなる暴力が蠢くノワール的なサスペンスへと舵を切ります。
その後も身体への興味とは別に、精神性や人々の関係性、社会との向き合い方に目を向けた作品が続きました。

そのようなフィルモグラフィを追いかけていると、『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』を観た第一声は「帰ってきた」という感想が漏れます。
真正面のボディホラーであり、イリーガルな世界を舞台に描いているので過去の様々な作品を想起します。

しかし、ただ戻ってきただけではありません。
主演のヴィゴ・モーテンセンは、新たなクローネンバーグを世界に示した『ヒストリー・オブ・バイオレンス』『イースタン・プロミス』でタッグを組んだ黄金チームです。
彼の存在が、フィクショナルな世界観に実存感と深みを与えたことは間違いありません。
そこにレア・セドゥとクリステン・スチュワートという稀代の表現者が絡んでいくことで、荒唐無稽なギミックに負けることのない艶やかで緊張感のあるシーンが生まれています。

新世代の台頭も今回の原点回帰に影響を与えたかもしれません。
カンヌでパルム・ドールを受賞したジュリア・デュクルノー監督の『TITANE/チタン』は、色濃くクローネンバーグの影響を感じさせる作品でした。
さらに、実子であるブランドン・クローネンバーグは果敢にも父親と同じ映画監督という土俵での闘いを選び、評価を得てきています。
あらゆる意味で“クローネンバーグの子どもたち”の活躍が、一時期は引退も考えていたクローネンバーグを引き戻したのかもしれません。

【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】

『イグジステンズ』
1999 | 監督:デヴィッド・クローネンバーグ

今回、敢えてクローネンバーグの過去作から挙げるとすれば、『イグジステンズ』です。
SF的な世界観の中で、背徳的な娯楽を享受する観客たちとそこで尊敬を集めるカリスマ。
近い構図の物語だと感じました。
実は『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』の脚本は20年ほど前に既に書かれていたと聞きますので、同じ頃に構想された作品なのかもしれません。

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