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水処理とシフトレフト

プロジェクトとは不確かなものです。求められる成果を、ヒトとカネをかけてスケジュール内に仕上げていく中、この「予測できない不確かなもの」に向き合っていかなくてはなりません。これをリスクと呼び、プロジェクトにおいてはこれをコントロールしていく必要があります。

リスクはプロジェクトの進行に伴って減少していきます。プロジェクトの前期は、図面だけでの想像上のものでしかなかったモノが、後期には、すでにモノが出来上がっていて直接チェックできるので、予測できない不確かなものが少なくなっているはずですから。

この時、それぞれのプロジェクト進行度合いで、もし何かしらのリスクが現実化して修正が必要になった場合はどうなるでしょうか。水処理と工事でも一部説明した通り、例えばバルブ1つを加えるとしても、プロジェクト初期では図面のお絵かき修正で済むのに対し、プロジェクトの中期である工事の見積もり依頼後ですと、バブル一つで作業段取りが変わって見積もりに大きく影響がでる可能性があったり、後期でもし発注まで進んで工事が行われている時ならば、改造が必要になってきたりしてしまいます。プロジェクトが進行するにつれ、修正に必要なヒトとカネが初期と比べて段違いに必要になってしまうのです。それを表しているのが、表題の図になります。

リスク:プロジェクトが進行するに従い減少してく
ヒト・カネ:プロジェクトの進行に伴い設計が始まり徐々に増加して、設計終了間際と工事開始初期の時にピークを迎え、プロジェクト終了に向かって減少していく。
出戻り修正のヒト・カネ:プロジェクト立上げ当初は変更があってもほとんどかからないが、プロジェクト後期に変更が生じた場合は多くのマンパワーとコストがかかる。

プロジェクトのマネジメントとは、求められる成果に向かって、スケジュール内に、この三つの項目で示される面積をなるべく小さくなるようコントロールしていくことです。このコントロール手法の一つに、シフトレフト/フロントローディングと呼ばれる考え方があります。これは、図で説明すると、コスト・カネのピークをリスクが高い初期に移動することで、全体のトータル面積を小さくすることができる、という考え方です(前に移動する=フロントローディング、左に移動する=シフトレフト。表題で→をつけた部分です)。

1.シフトレフトの事例

水処理において、私は設計担当・試運転担当になった経験があります。そういった経験を活かし、技術営業としてお客様へ技術提案している際、なるべく設計時の判断によってコストが大きく変わるポイントを、初期の段階受注雨の段階でお客様へヒアリングし、提案に反映するようにしていました。例えば、ある水槽の大きさを決めるための情報について、通常であればお客様の情報のみで概算するところを、「コストに大きく響く事項であるので」と説明の上、反映させるようにしていました。こうすると、説明の手間などはかかりますが、大事な要素が先に決まるので、全体のリスクを下げ、さらにはプロジェクト中期に水槽の容量で議論しなくて済むため、マンパワーも削減できるのです。

2.シフトレフトの留意点

シフトレフトは、誰でもいつでもすぐに上手くいくとは限りません。私が考察するに、留意点が3つあります。

まず第一に、工程の上流~下流にわたる幅広い知識が求められます。上記の事例では、再上流の技術営業をしている一方で、より下流側の設計の知識が求められます。

第二に、本来ならば後でやることを先にやるので、その時点では一見コスト的に不利に見えることです。上記の事例では、受注前の段階で水槽の容量を決める場合、他社も同じ条件にしないと、自社だけ真面目に検討したがために見積もり上不利になってしまいます。そのため、「最終的にこの提案がトータルコストを下げることになること」を、社内外へしっかりと説明しなくては賛同が得られにくいです。

第三に、単にヒトとカネがピークになる時期の仕事を早めにやる、ということではないことを十分に理解することです。それをやってしまうと、リスクが高い初期の段階で詳細設計をするようなことになってしまい、ヒトとカネが無駄に終わる可能性が高いです。そして、その対応のために初期段階で細心の注意を要求するようになってしまい、マンパワーの部分で疲弊していくことになってしまうでしょう。繰り返しですが、プロジェクトとは不確かなものです。ヒトとカネを初期にかけ過ぎると、マンパワーマネジメントのリスクが増大します。シフトレフトは、それを実施することでヒトとカネのピークを初期へずらすと同時に、包括的なリスクを減らせる内容であることが必須です。

3.シフトレフトのこれから

工程の上流~下流にわたる幅広い知識がシフトレフトの設定に必要と記述しました。言い換えれば、「幅広い知識」をなんらかの形で補助していけば、シフトレフトの成功に大きく近づいていくということです。こういった方法には、新しいツールの導入、新しいデータ利用方法の導入、などが挙げられます。前者は例えば一昔前ならば3D-CADだったり、後者はデジタルトランスフォーメーション(DX)などが挙げられるのではないでしょうか。時代と共にツールが変わり、常識が変わる。その常識の変化により、もっと初期の段階において詳細検討を短時間でできるようになる。私が事例に挙げたような例とは別に、このような時代の流れに乗ることで起こる業務フローの変革の結果も、シフトレフトを実現させる一つの方法であると思います。

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