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ブダペスト世界陸上7日目。北口榛花選手の金メダル。テレビ観戦・感想文。

世界陸上7日目。

女子槍投げ。北口榛花の金メダル観戦の感想。

その前にちょっと脇道

昨日の男子走り幅跳びも、東京五輪王者ギリシャのテントグルは
①8m50②ファウル③8m39④ ファウル⑤8m30⑥8m52

5本目時点で二位、ジャマイカのピノックと8m50で並んでいて、(セカンド記録で上回るためには)8m41以上が必要という6本目で8m52を跳んで、ファースト記録のほうでちゃんと逆転して優勝。

 安定して8m30以上を跳んだ上で、6本目でその日の最高、逆転に必要な大きさを跳んだ。絶対王者の強さを見せつけた。

 昨夜から今朝早朝、槍投げより先に競技終了していた女子三段跳びでは、世界陸上三連覇中の絶対王者ベネズエラのロハスは
①ファウル②14m33③14m26④ファウル⑤ファウル⑥15m08

不調の5本目から一転、6本目にその日最高の、逆転に必要な大きさを跳んだ。

 5本目終了時点まで絶不調でまさかの8位、トップは一本目に15m00を跳んだウクライナのロマンチェク。今回はロハスの日ではなかったなと誰もが思った。しかし6本目にロハスは15m08をとぶ。追い詰められても勝った。

 絶対的な王者というのは、6本目、不利で追い詰められたときに、集中しきって、しかも自分の中のリミッターを外して、しかもファウルしたりしないで、その日最高の、全選手最高のパフォーマンスを発揮するのである。それが自分にはできるという自信、確信がある、そういう表情で最後の試技に向かうのである。

今朝の北口榛花を振り返る。

北口の成績内容

①61m78②61m99③63m00④62m36⑤62m68⑥66m73

 調子は悪くなかった。5本目まで61m後半から63mを安定して投げていた。

 しかし。1本目に個人記録だけでなく南米記録まで更新したコロンビアのルイスフルタドが65m47で試合を終始リード。

 こういう突発的大記録(一本だけ)に、本命がやられるという試合はある。はるか昔、東京世界陸上1991走り幅跳びでカール・ルイスがマイクパウエル9m95の世界記録一発(この時は5本目だったが)にやられたように。あの試合カール・ルイスはほぼ全部の跳躍9m80くらいで揃えていて、「パウエルは一発だけじゃん。平均でいえば俺の圧勝」みたいな負け惜しみをインタビューで言ったのである。

話は脱線したが。

北口もカール・ルイスほどではないが、まあまあの記録を安定して全部だしたが、まあまあ水準だったので、ルイスフルタドだけでなく、4本目にラトビアのコシナが6m18、最終投擲6本目、北口の二人前オーストラリアのリトルが63m38で北口を抜き、6本目を投げるとき、北口は4位。メダル圏外に追いやられていた。

オレゴン銅メダルのときを思い出す

 前回オレゴン、銅メダルを取ったときの涙のインタビュー、「メダルがほしかったんですー」のときの展開を思い出すため、当時書いたnoteを引っ張り出して読んでみた。

 北口は1本目に62m07を投げで2位で後半に突入するも、どんどん抜かれて5本目終了時点で5位。
 最終6本目に63m27を投げて再び2位に浮上する。もうここでコーチのところにとんでいって泣く。泣きながら笑顔。
 なんだが、すぐにアメリカのワグナーに抜かれて再び3位に。今度は不安になって泣いてある。
 そのあと、北口を抜く力のあるオーストラリアのリトル、中国の劉が残っている、北口は不安そうな眉間に皺を寄せて不安そうにかのしょたちの投擲を見ている。リトル失敗、さらに中国の劉の投擲が失敗に終わり、北口銅メダル決定。顔バッテンで号泣。

 というのが前回だったのだな。そう、北口は前回も最終投擲でその日自分の最高記録を投げて逆転して2位まで上がって、その後また抜かれて3位に下がる、で銅メダルだったのだ。

今回も似た展開だ

 後半でライバルにどんどん抜かれて追い詰められ、メダル無しに終わりそうになったのは去年オレゴンと今年は似た展開。

 そこからの6本目で逆転したのも去年と一緒。中経アナや解説が連呼したように北口は6本目に強い。

 だが、去年は6本目「その日の自己最高」を投げるのが精一杯で(それでも本当にすごい快挙なのだが)、逆転したといっても5位→2位まで。しかもその後抜き返されて3位。さらに後続に抜き返されそうなくらいの不安な記録。かろうじて逃げきっての銅メダル。女子投擲世界大会で史上初のメダル、それがどれほど難しいものかを印象づけるものだった。

 そこからの一年の時間で、北口がさらにどれだけ成長したか。その成長の結果、試合展開と北口の様子は、去年とはいろいろ違ったのである。

 6本目に臨む表情は、不安よりも集中と自分の力への信頼が勝っていた。勝利に必要な66m以上を投げるにはどう自分の技術と心をコントロールしたらいいか、分かっている。それが自分にはできるという自信のある表情だった。なんというか、心とカラダのリミッターを外しつつ確実に投げる方法、感覚というのを掴んでいるようなのである。

 集中しきった表情、淀みない助走、ステップ、力感溢れる投擲動作。投げ終わり前にカラダを投げだしつつ、ファールラインの手前、余裕をもって手を着く。すぐカラダを立てて槍の行方に向かって大きく吠える。

 槍がフィールドに突き刺さる画面に切り替わる前に、僕も、多くのテレビの前の人たちも、これはいったんじゃないか、やったんじゃないかと感じたと思う。

そして画面は切り替わる。

 僕はTBSのほうのいつもの解説、髙田延彦似の熱血おじさん小山さんの解説がちょっとうざいこともあり、Paraviの上品で静かな解説と実況で観ていたのだが、その上品な解説の方が、槍が金メダルラインを大きく超えた地点に突き刺さった瞬間、すごく上品に押さえた声量で、しかし思わず「ウォオオオオア」と呻いたと叫んだの間くらいの声を出したのを聞いて、僕は明け方なのに妻は寝ているのに「ウォオオオオア」と思い切り大声を上げて叫んでしまった。

会心の投擲で、記録が出る前にトップに立ったことは確信しており、さらに、後に残るコシナとルイスフルタドには逆転されないだろうことも、北口はほぼ確実と思っていたように見えた。自己ベスト67mに近い記録が出たこと、今年のライバルたちと戦ってきた感触からそう感じていたように、僕には見えた。

 観客席のコーチのもとに走っていった後も、笑顔だけ、今年は涙無し。

 競争相手との順位上下よりも、前半63mくらいを出しながら細かな調整修正をし、5本目6本目にリミッターを外して優勝と記録を狙うというゲームプランを完璧に遂行したよ、できてホッとした、そうコーチに報告しにいったようにも見えた。

 もちろん初めての金メダルで喜んでもいたし興奮もしていた。(本人として初めて、だけではない。日本の女子陸上史上、マラソンと競歩というスタジアムの外で競う競技では金メダルはあったが、トラックとフィールド、スタジアム内の競技では初の金メダルである。)

 が、興奮の中に「ちゃんとできて良かった」というホッとした感じがあった。裏返すと
「ちゃんとやれば勝てる」という気持ちがあった。

 この一年、ダイヤモンドリーグで何度も優勝し、日本記録も塗り替え、世界ランク1位、優勝候補筆頭で本大会に望んだのである。

 大会直前インタビューで「あくまでチャレンジャーとして」とわざわざ言葉にしたのは、普通に考えると、「王者として」になっちゃうから、気持ちが守りに入らないよう自戒の言葉として発言したのだと思う。

 ここから来年のパリ五輪、その次の東京世界陸上に向けて、北口が絶対王者として君臨し続けるのを観たいなあ。

 その可能性はあると思う。

 なぜかというと、昨日今日見た、男子走り幅跳びのテントグルや女子三段跳びロハスという絶対たちと同質の「最後の1本できっちり合わせられてホッとした。合えば必ず勝つ」というような、そういう戦い方を、今朝、北口はして見せてくれたから。

 こんな「強者としての日本選手を世界陸上で応援」というのは、全盛期室伏以来だと思うよな。
 
 北口榛花選手のことをそのデビューから全盛期ずっと応援するできること、陸上競技ファンとして幸せなことである。おめでとうというより、ありがとうという気持ちが強いな。

前大会のときのnoteはこちら

世界陸上8日目いやもう泣いて、驚いて、見ていてよかったー。女子やり投げ北口榛花選手。男子400m、マイケル・ノーマン選手。女子400mハードル、マクローフリン選手。|原 正樹 #notex

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