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じいちゃんの左手 その21

学校から帰ってくると 
縁側には いつも 群青色の市場帽子を斜にかぶった じいちゃんがいた 
右手にワンカップ 左手には “わかば” 
田んぼの案山子のように 僕の問いに 何でも答えてくれた じいちゃん
今思えば ほとんど 的外れだったけど 心は いつもポッカポカ
そんなじいちゃんと あの縁側が 今もあったら・・・ 
きっとこんな 会話になっただろう・・・

『雨水』

「じいちゃん 今日は何の日か知ってる?」
「もちろん! 知っとるよー」

そう・・・
今日は24節季でいうと 雨水になるらしい
学校で先生が教えてくれました
空から降るのが 
雪から雨に変わって 雪が溶け始める日
米作農家では 本格的に農作業の準備に入る日と言われてるんだって
百姓のじいちゃんが 知らないわけはない・・・と思うけど
最近 ちょっとピンボケだから 
いたずら心で 質問する僕・・・

「やっぱり 海パンは 丹田まで しっかり上げとかんとな!」

なに なに・・・ 雨水に海パンって・・・ たんでんって・・・
なんか じいちゃん 今日も想像を超えてきた・・・

「そんでもって ソニー じゃなくて・・・ 
 ナショナルじゃなくて・・・ そう そう! シャープ!
 シャープ兄弟が また強いんだ」

「シャープ?」 
疑問符に覆われる僕にむかって

Pufaaaaaaaaaaaaa
と煙を吐く じいちゃん となりで ごほっ・・・ と咳き込む僕

「なんじゃお前から言い始めたんじゃろ
 2月19日と言ったら プロレスの日!
 力道山と鬼の木村が シャープ兄弟と戦った 記念すべき日じゃ!」

そうなの・・・
それは それで ものすごい蘊蓄なんだけど・・・
「それも・・・ あるのかもしれないけど 雨水だよ じいちゃん」
正解を伝えた僕に
 
「雨水(うすい)・・・ そんなもん・・・ 
 自然はカレンダー通りには いかんのよ!
 いいかお主! 自然を相手にする百姓は 
 ここで 未来を感じるもんじゃ! そうじゃなきゃ 手痛い目にあうぞ」

じいちゃんが 目と耳 そして鼻を指した そのとき・・・
背後から ばあちゃん!
じいちゃんの頭に 張りてチョップを一撃!

イタタタ・・・

「うちは野菜の収穫があるんだから!
 米が無くても やることがいっぱいあるでしょ! 
 酒飲んでないで 早く 畑に戻りんさい!」

わかば をくわえたまま 渋々 畑に向かう じいちゃん・・・ 

ばあちゃんの攻撃が 力道山並みなのか・・・
それとも じいちゃんの 感知センサーが おんぼろなのかな・・・ 

また一つ 僕に大きな謎が生まれた

♪シスクス『雨水 - usui -』♪


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