サニー・パドル


四月某日。

今夜も相変らず
カチカチと音を立てながら
飽きることも、休むこともなく
秒針は僕を明日へと追い詰めていく。

とても聞いていられなくて
耳を塞ぎ、潜り込んだ布団の中で
一つの考えが浮かぶ。


「いっそ、ずっと起きていれば朝にはならないのではないか」


なんて、ある訳がない。

いつから僕はこうもおかしくなってしまったのだろうか。



心と体が追いつかない日々に
ポタッと降ってきた痛い言葉をうまく流しきれないまま
雨脚は強くなっていき、
気付けば足元が滲むまでになっていた。

その時にはもう帰り道が分からなくなって
ただただ、その場で立ち尽くし、
迫りくる真っ黒な雲の群れを眺めていた。


生憎、全身もがいてでも抜け出す
勇気なんて持ち合わせて無かったものだから
この暗く冷たい世界で
生きると決めた。

良くも悪くも変化のない
流れ作業な毎日。

何事もなく目が覚める
平和な朝を
繰り返して、繰り返して。

夏を耐えて、秋が過ぎ、冬を越えた頃、
君は、春と共に現れた。


あの日、その透明な言葉が
分厚い雨雲の隙間を抜けて、
その無垢な笑顔は
平らな水溜りに風を送った。

ふと顔を上げて見えた世界は一変し、
眩い光に染まっては、
キラキラと白く波打っていた。


だけど、まっさらに生きる君を
モノクロなこの世界に
巻き込みたくはなかった。

ならば、と塞ぎ込んでみれば
また、妖精みたいな陽だまりで
僕を容易く包み込む。

奥の方に仕舞った僕を起こすような
とても心地良くて
何よりも優しいその声に
邪魔な思いは溶けてしまう。


もしもこの先、平和が
変わり果ててしまったとしても
ここから君が見えるなら
迷うことは何もない。

それだけでもう、充分だ。



そんな夢の外側から
ほら、君の声がする。

幸せ一つも見逃さぬように
のんびりなんかしてられない。

おはよう、新しい世界。

おはよう、暖かい未来。

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