見出し画像

顧客体験価値ランキング上位を獲得する、日清食品のブランド戦略

みなさんこんにちは。
マーケティングディレクター兼データサイエンティストのtohari.です。
先日世界的なブランド専門会社の日本法人インターブランドジャパン社よりリリースされた「顧客体験価値(CX)ランキング2023」についてご紹介いたしましたが、本日はその中で7位にランクインした「日清食品」さんについて触れていきたいと思います。
 
「顧客体験価値(CX)ランキング」は、その名前の通り良質な顧客体験を提供している企業を評価する取り組みですので、小売業・飲食業・サービス業などリアルな顧客接点を持つ企業が多く選出されていますが、日清食品はその中でメーカーとして最も高い順位を獲得した企業になります。

メーカーといえど最近は自社でECサイトを設け直接顧客とつながる企業も少なくありませんが、それでもリアルな顧客接点を持つ企業と比べできることは限られていますし、ましてや同社の場合インスタント食品などの比較的低単価なパッケージ商品を主力事業としていますので、いわゆるTVCMといったマスマーケティング以外のプロモーション予算は掛けづらい事業構造にもあると思います。

そのような企業がどのようにして「顧客体験」という指標で多くの消費者からの評価を得ることに成功しているのか。本日はその辺りの紐解きを筆者なりの見解をもとにお話させていただきます。
 

大幅リニューアルによって生まれ変わったECサイト

メーカーが顧客と直接つながる場としての代表は、やはりWEBサイトやECサイトになると思います。同社のECサイトについて調べてみると、2016年に大幅リニューアルを実施していることがわかりました。それまでのECサイトは2000年に立ち上げたものの、事業として本腰を入れているわけではなかったようで、ケース単位のみで販売し、お届けまでにも1週間近くかかっていたそうです。そもそも、欲しい商品はあるけれど近くの店舗で売っておらず買うことができない方にお届けする手段、という程度の位置づけだったようです。

ですが、大幅リニューアルに際しては、できることは何かではなく、ベストだと思うことをやるためにはどうしたらいいのかへと思考を切り替え、様々な取り組みを実施。例えば、これまでのケース売りを1食から購入できるようにしたり、翌日配送も実現。お客様の期待を上回るやりすぎかな、と思えるくらいサービスレベルを高め、リニューアル後1年以内に利用者数で4倍、新規顧客数は複数年続けて年間で10万人規模で増やすことに成功しています。
 

売り上げよりも話題性を。エッジの効いた企画でブランディングを重視。

日清食品のECサイトを見て他のサイトと違うと感じる点として通常取り扱っていない商品まで売っているということがあります。

例えばカップヌードルでは、「ヌードルブーケ 愛 (あい)」と称してカップヌードルを花束に見立ててパッケージした商品が販売されていたり、「カップヌードルを食ってる風ネクタイ」や「カップヌードル お湯入れとる紙袋」といった食品と関係ない商品まで販売。ちなみにネクタイは「いいね!が多ければ作っちゃうかもシリーズ」としてTwitterに投稿し実際に商品化されたもので、紙袋についても公式フェイスブックのネタとして投稿したのがきっかけで、あまりの反響に本気で商品化し、アジアのパッケージデザイン賞『Topawards Asia』まで受賞した商品になっています。

ヌードルブーケ 愛 (あい)
カップヌードルを食ってる風ネクタイ
カップヌードル お湯入れとる紙袋

このようなおもしろブランドグッズのきっかけは、「日清焼そばU.F.O. ダム湯切りプレート」のようで、カップ焼そばを作る際の湯切りがダムの放流に似ていることから同商品を開発。お湯を入れて、3分経過した即席カップ麺の「日清焼そばU.F.O.」に、ダムの写真がプリントされたプレートを装着して湯切りをすることで、ダムを放流している気分を味わうことができるというものです。

日清焼そばU.F.O. ダム湯切りプレート

このダム湯切りプレートは、1枚200円ほどで発売し(現在では販売なし)、最初はあまり売りれないだろうと思っていたそうですが、蓋を開けてみると製作数1,000枚が販売翌日には完売。さらにこの放流を試すためにU.F.Oも同時に購入され、一日あたりの売り上げ数が4-5倍まで跳ね上がったそうです。
 
このようなユニークな取り組みを実現させるポイントは、ECを短期的な売り上げ視点ではなく、中期的なファンづくりの一環として捉えていることが大きいと思います。実際に同社では「ECサイトをブランデイングの場」と定義しています。

日清食品という事業の特性上、大量生産と大量消費を結びつけるマスマーケティングが極めて重要な事業において、時節柄ECサイトに着手せざるを得なかったとしても、そこから得られる売り上げは従来の販売チャネルから得られるそれとは比べものにならないくらい小さな規模のはずです。つまりECを単体の事業性で捉えてしまうと時価総額1兆円を超える日清食品グループにとっては大きな意味性を見出しにくい、そのような背景が良くも悪くも「ECをブランデイングの場」と割り切れる大きな理由になっているとは思います。

ですが、それでもその考えを徹底してブランディングやCMなどのマス広告以外の情報伝達(メルマガ会員)の手段として成功させている点はやはり素晴らしいの一言に尽きます。
 
それともう1つ。このようなユニークなグッズをプロモーション懸賞用として製作するのではなく、実際に商品化させている点がとても良いと思います。

筆者も実際の案件でWEBサイトのご提案をする際、コンテンツの1つとして有償サービスの提案をすることも多いのですが、そうすることで、単なる販促費が原価に変わり、そこで多少なりとも収益が得られれば、その資源をさらにブランディングに活用できる、好循環生み出す要素となり得ます。
 
もちろんそれらグッズが有効なブランディングツールとして機能したり、次のマーケテイング投資を生み出す資源となるためには「企画力」が必要です。企画力と一言で言うと平易に聞こえてしまいますが、そのような新しいアイデアを生み出し、実行されるには、企業文化や経営者の意識や参画も欠かせないと思います。そこが日清食品の本当の強みなのかもしれません。
 

広告会社に頼りきらない、自前で作るブランデイング

日清食品のことを調べている中でとても素晴らしいと感じたことの1つが、「商品が売れるブランド・コミュニケーションを自ら作る」という考えをお持ちの点です。

社長の安藤徳隆氏によると「商品やブランドのことを一番理解している我々自身が、ブランド・コミュニケーションの基本骨格を作っていきます。一般的には、広告代理店にゼロベースで依頼して、提案された複数案から良いものを選ぶ、といった形が多いでしょうが、日清食品の場合、基本的な骨格は自分たちで作り、いざ制作する段になったら広告代理店さんや制作会社さんにサポートしていただくというスタイルをとっています。」とのことです。
 
例えば2021年に発売した「辛麺」のテレビCMの場合、やみつき、クセになる旨辛味の訴求をクセになるアニメーションダンスで表現し、それをカップヌードと掛け合わせてCMを作っているそうですが、InstagramやTikTokで人気だったジャクソン・マイルズ・チャビスさんのダンス動画を見つけて、このダンスは辛麺の世界観を表現するのにぴったりだと直感したそうです。そこから広告代理店に連絡して、チャビスさんに連絡をとってもらい、と言う流れで、広告代理店との協業が始まるそうです。その結果としてCMが大きな話題になり、辛麺の売上も計画比150%を達成しています。

 
この辛麺の他にも国民的アニメ「ONE PEACE」のキャラクターの高校生バージョンを描いたCMでしたり、2019年のカンヌライオンズではチキンラーメンの「Akuma no Kimura」が受賞しましたが、話題に上るCMを多く出がけられています。

 
CMにしてもECにしても、本当に様々な話題を提供してくれていますが、そのもとになっているのが、社長である安藤徳隆氏の「人の心をかき乱すくらいのCMでないと、他社のCMに埋没してしまうし、トガったところがないとマインドシェアは上がらない」というポリシーであり、そこから生まれる企業文化ではないかと思います。

そしてこうした取り組みが、低単価商品のメーカーでありながら、顧客体験価値ランキングの上位を占めるという消費者評価に繋がっていると感じます。

皆さんはどのようにお感じになりましたでしょうか?
 
 
【お仕事のお問い合わせは以下からどうぞ】
各種マーケティング施策(WEBマーケティングやサイト制作、CRM・データ分析、ブランディングなど)や商品・事業企画についてのアドバイス、社内セミナーや研修会などの依頼も受け付けております。週一の定例ミーティング、月イチや隔週での壁打ちなど、色々な形態で、それぞれの事業者様に応じた価格にて行っておりますので、お気軽に以下よりご相談ください。

 


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?