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CRMで目指すべき「ロイヤリティ醸成」②

 前回のおさらい

  • ロイヤリティとは、直訳すると「忠誠心」だが、ブランドと顧客との関係性において使用する場合、「好意」や「コミットメント(関わり合い・関与度)」といった理解が適切。

  • 顧客がブランドにロイヤリティを感じる要因には、「プロダクトバリュー」と「リレーションシップバリュー」の2つが大きく関係している。

  • プロダクトバリューとは、商品・サービスそのものから受ける直接的な価値・便益のこと。

  • リレーションシップバリューとは、購入や利用経験のプロセスを通じて顧客が受ける価値のこと。

  • CRMの目的はリレーションシップバリューの形成にあり、商品の購入や利用経験の中でより良い顧客体験を提供することで、直接的なリピート促進や好意意識の形成を目指す。

  • ロイヤリティは、物性的施策・価値と、心理的施策・価値の提供の仕方によって、4つのタイプに分類できる。

    • 真のロイヤル

    • 表面のロイヤル

    • 気持ちのロイヤル

    • 仕方のないロイヤル

  • ブランドとの結びつきにおいて最も強い形は「真のロイヤル」であり、そのためには「物性的施策・価値」と「心理的施策・価値」の両面からCRMを行う必要がある。

  • ある自動車会社が購入後の定期点検のお知らせとして送った「バースデーカード」は、単純だが心理的施策の上手な例と言える。

今回は、前回の続きで「ココロにアプローチするCRM施策(心理的施策)事例」をいくつかご紹介していきます。
心理的施策は、ロイヤリティ形成においてとても重要な役割を果たしますので、ぜひ参考にしていただければ幸いです。

 

事例1:海外自動車ディーラー


前回ご紹介したある自動車ディーラーが実施した法定点検「バースデーカード」ですが、実は続きがあります。
「お客様アンケート」と称したロイヤリティプログラムの施策です。

このプログラムは、納車1ヶ月後にお客様向けにアンケートを送ることでスタートします。
そのアンケートは単に顧客様の声を拾うことに主眼が置かれたものではなく、アンケートの回答結果を予想し予め対応の仕方を決めておき、アンケート結果が返ってくると同時にお客様の声に対応することでお客様満足の向上を狙ったものになります。
その中でも特に「不満客」にいかに救い上げるか、がポイントになっています。

<ロイヤリティプログラムの概要>

 「不満を持っている」というのは実は、「満足に変えるチャンス」でもあります。
この施策は、不満客の発見と満足に変える仕組みが一体となった素晴らしいCRM施策です。


 

事例2:健康食品(サブスク通販)

この事例も上記の自動車ディーラーと同じような展開を行った事例です。自動車ディーラーの場合は、商材単価も高く、営業マンが絡むので、ある種不満客のケアがしやすい状況がありますが、比較的低単価の通販商材であっても同じような対応が可能です。

この健康食品は、便秘解消などの悩みを持つ方に向けた商品になりますが、その食品を摂取しても必ずしも全員が問題解消されるわけではありません。その食品を定期的に摂取していなかったり、摂取していても食品以外の他の対策も必要だったりなどです。

このような状況の中この商品の場合は、購入後1-3週間の中でご利用状況を伺うアンケートを送っています。
そして回答で「不満」とお答えいただいた方に、アンケートの他の項目で得た情報をもとに、すぐに改善策をメールでご案内したり、時には直接お電話して状況を再確認しながらアドバイスを行ったりしています。

その結果、アンケートを行わない場合の3ヶ月後の平均維持率が4割程度であったのに対し、アンケートで「不満」と回答した方の3ヶ月後の維持率は5割に達することができています。

そうした対応により、不満客から逆に感謝のメールをいただくことも少なくなく、1箱約6,000円程度のサブスク商品で、「不満」と答えていただいた方の半分を3ヶ月後も維持させることに成功しています。


事例3:Mac keeper(専属サポート担当制)


続いてアメリカのマックキーパーというMac Bookのサポートサービス(セキュリティソフトウエアサービス)の事例です。

このサービスの競合は、有名どころではノートンやウイルスバスター、マカフィーなどがあり、どの商品もリアルタイムで安全なインターネット接続の監視をしたり、パソコンの空き容量を管理してくれたりなどの機能がついていたり、もちろんサポートサービスもあります。

Mac Keeperもそれは同様なのですが、1つ違うのが、サポートサービスの担当者が顧客ごとに明示され、何かあった場合すぐに連絡が取りやすくなっている点があります。

パソコンの使用において特に問題がない場合は何も心配はありませんが、何か問題が発生した場合、どうすれば良いか困ってしまう人も多いと思います。そのような「変化=瞬間」を顧客満足形成の場と捉え、しっかりとケアすることで、継続利用の促進に繋げているわけです。


 

事例4:無印良品「IDEAPARK」

ブランドと顧客・生活者とのつながりづくりとして、コミュニテイを展開するケースも多いですが、「IDEAPARK」もその1つです。

「IDEAPARK」は、顧客の声をモノづくりに繋げる仕組みとしてくらしの良品研究所内に設置されており、顧客との対話を通してモノづくりを進めながら、同時に無印良品の考え方を伝えていく場にもなっています。
このようなコミュニティは、ある程度のブランドファンの存在がいないと運営が難しく、そこは無印ならではというところだと思いますが、これまでに10,000件を超えるリクエストを頂戴し、200点以上の商品が見直されてきたそうです。

ここではリクエストに基づき、商品開発のテーマが公開され、そこに協力してくれるユーザーを募集し、一緒に商品開発を進めていくプロセスが共有され、そしてその結果もきちんと伝えられます。

昔から商品開発に生活者を巻き込む方法はありましたが、無印は単に顧客の声を聞くというだけでなく活動自体に巻き込むことで、商品開発とブランドファンづくりを同時に進めていく仕組みづくりを上手に行っています。
これもCRMの1つです。


事例5:イオンお客様副店長/子供スタッフ体験


イオンが行っていたお客様副店長制度や子供スタッフ体験も、生活者の巻き込み施策の1つになります。
無印の事例はWEBでの展開ですが、イオンはリアルで実施しています。
現在お客様副店長制度はおそらく廃止されていると思いますが、顧客の声をサービスに反映し、サービス強化を行うだけでなく、そうした活動に取り組む企業姿勢もPRできます。

また子供のスタッフ体験も、そこに参加した子供の親からするととても好意的に映るはずです。

私も人の親として、自分の子供にそのような機会があればぜひ参加させたいですし、そうした機会を提供してくれるイオンも好きになると思います。


最後に(世界的にも有名な顧客ファン化事例「真実の瞬間」)


最後に、CRM事例ではありませんが、ロイヤリティ形成に通じる世界的にも有名なスカンジナビア航空の事例をご紹介いたします。だいぶ古い事例ですが、現在においてもお手本にすべき事例の1つです。
 
「真実の瞬間」とは、1980年代に当時赤字経営だったスカンジナビア航空のCEOに若干39歳という若さで就任し、たった1年で経営を回復させた伝説的な経営者ヤン・カールソンによって提唱された言葉です。

彼は前SEOの行った大幅なコストカットとは逆に、「顧客をサービスで満足させる瞬間」について考察していきました。その中で年間1,000万人の搭乗者に対して調査を行い、1人の顧客が従業員5人と接点を持つ時間はわずか15秒程度ということを発見します。

そして「ポジティブ・ネガティブな態度変容が起こるそのわずか15秒のために企業は顧客に全精力を傾けなければならい」とし、全150項目に及ぶサービス改善リストを作成し取り組むことで、見事に経営回復を果たしたのです。
 
15秒という時間は、もちろん業種や商材によって変わると思いますが、基本はどのビジネスであっても同じはずです。また昨今ではインターネットの普及によって人を介さないでブランド接触する機会も増え、企業はマネジメントしなければならない顧客接点は多岐に及んでいます。

ですが、ロイヤリティが生まれたり失われたりするのは、いつもそのような瞬間なのだと思います。
 
CRMというと、パーソナライズして何かする、といったプロモーション手法ばかりを考えがちで、もちろんそうした手法も有効ではありますが、無印良品やイオンのように、そうでなくても顧客関係性を作る打ち手は存在します。そして「サービス」という視点がとても重要になります。
 
大切なのは「心が動く瞬間」をどう演出するかです。

そうした視点に立つと、CRMを考える時も、また新たなアイデアが生まれてくるのではないでしょうか。
 
 

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