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オンラインライブの隆盛~無料配信への批判と今後の展開~

要点:

①オンライン配信で注目が集まるテンセント・ミュージック・エンターテイメント(TME)と商業化への道
②無料配信で生活できるのか?--五月天(Mayday)を例に
③オープンにすることで生じる問題--陳奕迅(Eason Chan)を例に

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  コロナ期間には、中国でも数多くのオンラインライブが開催されてきた。C-POPファンからすると、これまで、チケットが取れない、現地にわざわざ行くことができない、などの理由で参戦できなかったライブを視聴できるようになり、画期的なサービスだと感じた方も多いのではないだろうか。良い面が目立つこととなったオンラインコンサートだが、一方で、有料配信しないことでいくつかの問題が生じている。

プレゼンテーション1

相互交流もあり、お互いにとって嬉しいライブとなったケース。
写真;孫燕姿のライブ配信より筆者編集

  ここ最近、劉若英や五月天のコンサート動画配信を皮切りに、多くの中華有名アーティストがライブ配信をしてきた。同様に世界でも、有名アーティストが過去のコンサート動画を公開したり、ライブ配信をするなど音楽業界にもオンライン化の波が来ている。では中国のオンラインライブは世界と比較して何が違うのだろうか。

  コロナの影響でライブが中止となり、莫大な損害を負ったアーティストは少なくない。例えば韓国のではアイドルグループBTSは、ソウルでの20万人動員コンサートの中止や入国制限によって、ワールドツアー中止を余儀なくされた。世界に展開するのが特徴の韓国アイドルグループにとっては、活動の幅が制限され重要な収入源を失ったことになる。また、バラエティへの出演も厳しくなっており、それに関わるスタッフも含め、総じて音楽業界は非常に苦しい局面を迎えている。日本でも、国内のライブ・エンターテイメント業界は年間収入の8割減で、約7000億円の損失が発生するというデータも出ており(令和2年3月23日時点のデータ/ぴあ総研調べより)例外ではない。そのため無料配信では持続不可能であり、オンラインライブは有料配信がスタンダートとなっている。

中国はなぜ無料配信なのか、今後の展開は
  中国では反対にオンラインライブのほとんどが無料で配信されており、ファンからは有料にしてほしいとの声も上がっている。新型コロナウイルスの早期沈着に成功した中国では、海外のアーティストがメンターとして入国できないなどの一部制限はあったものの、バラエティ番組やオーディション番組は引き続き放送されたため、他国に比べると影響は大きくなかった。しかしファンも心配するように無料配信では持続できないのではという疑問が自然と生じる。

世界とは異なるモデルーオンラインライブ配信を手掛けるTME Liveとは

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TMEはこれまで多くの超一流アーティストとコラボ
例:劉若英・五月天・陳奕迅・周深・張韶涵・徐佳莹など
写真:張杰(Jason Zhang)公式Weiboより 

  テンセントグループの子会社テンセントミュージックエンターテイメント(TME・騰訊音楽娯楽集団)傘下のTME Liveは、すでに10を超えるオンラインライブを開催し、一流アーティストの囲い込みに成功しており、国内最大手と呼び声も高い。また、TME Liveは5月31日の五月天のライブを期に、ライブ映像をQQ音楽、全民K歌、Weibo、酷我音楽など自社関連SNSならびに、Youtubeなどのさまざまなプラットフォームで同時配信するようになり、その名が大きく知れ渡った。同社は、ライブ中止によって収益が激減した歌手と、コロナ禍で苦しい思いをする人たちの需給をうまくマッチさせた形となるが、注目されているのは新しいビジネスモデルである。初段階では、オンラインライブ配信の実験、またファンへの感謝、結成記念、チャリティーを目的としたため無料となったが、長期的にアーティストと協業関係を結ぶため様々な施策が行われているので紹介したい。

  TME副総裁の潘才俊氏は、試験期間にはオフラインに劣らぬライブが提供できるよう、新技術や多様なカメラワークなど導入し、リアルライブでは絶対に見ることのできない景色を提供することにこだわってきたと明かした。今後、TME Liveはオンラインライブの定着を図り、歌手と長期的に契約するために、メンバーシップや一部有料サービスを設け、さまざまな層を取り込む戦略を展開していくだろう。(参考URL:对话腾讯音乐娱乐副总裁:五月天陈奕迅线上演唱会刷屏背后)同社の新ビジネスモデルによって、高レベルで新感覚のライブが提供されること、そして音楽業界が再活性されることが期待される。

補足)8/8追記
中国ではこれまで無料で提供されてきたが、
8月に入り有料ライブの情報が初めて入ってきた。
TFBOYSというアイドルユニットによるライブは
30元から860元でチケット販売している。


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通常のライブでは見ることのできない香港の象徴的な風景との共演
「上帝視覚」と呼ばれる上空からの撮影やドアップなど
カメラワークがファンを引き付ける。
写真:陳奕迅(Eason Chan)の公式Weiboより

有料・限定配信に拍車

例1.)「短すぎた」五月天(Mayday)のオンライン配信

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Maydayにとっても思い出深い台北市立体育場で開催され
予想もしなかったが李荣浩,毛不易,萧敬腾なども出演し
全世界で4244万ビューと大注目を集めた。

しかし無観客・無料配信の形で行い、会場の使用料もあってか、
「普段のコンサートと比べると」60分と時間的には短く
事前に撮影されたビデオの配信で、リアル配信でなかったため
不満の声が寄せられた。
一部のファンからは有料でも良いからもっと見たかったとの声も。

*後日、阿信はこれに対し、
自分たちの20年を詰め込んだライブは全く短くないと伝えている。

例2.)コメント欄で中港対立が鮮明化した陳奕迅(Eason Chan)のライブ

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チャリティーライブ《Live is so much better with music》(7/11)

香港のビクトリア・ハーバーで配信されたライブで、コロナの募金を目的として開催された。
しかし国家安全維持法案が可決されたタイミングでの開催と時宜も悪く、
ほんの数分で言い合いはヒートアップし両者の暴言は見るに堪えないレベルにまで達した。
本来のライブの目的とは遠く離れ、純粋に歌を鑑賞しに来た人にとっては不快であっただろう。
これも有料化が急がれる要因となっている。

最期に中国語で一言:「日出日落便是一天,無論今天怎樣困難,明天太陽還會升起,希望大家有信心,有勇氣,相互扶持共渡難關。」(Easonライブより引用)

文責/Tagawa Taichi

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