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休日(3)

本を仕舞うついでに、トースターの周りに落ちているパンくずを拭き取る。次はガスレンジ。
何年か一人暮らしを経験した結果、大掃除と称して年に一回、部屋中を掃除するよりも、簡単にでもコツコツと掃除したほうが、手間がかからないという結論に至った。ガスレンジや窓枠なんかは特にそうで、毎週拭いているだけでひどい汚れはつかない。もちろん面倒だと思う日もあるけれど、こういうもんだと決めてしまえば、案外続けられている。
キッチンを終えて、リビングの掃除に入る。
音楽は、ちょうどアルバムの最後の曲だったので、その曲が終わったところで流す曲を変更した。
今度はニューヨークのバンドのアルバムで、歌の入ったものだ。このあたりから、時間の輪郭がはっきりしてくる。現実がぐっと近づくというか、朝が終わって日常に戻ってくる感覚になる。そこにはもちろん、爽やかな休日という甘いものだけでなく、休みが終わっていく憂鬱も含まれている。
リビングの掃除を終えると、とうに終わっている洗濯ものを洗濯機から取り出し、ベランダに干した。
やることを終えると、午前中は好きなことをする時間にしている。
楽器を弾く(決してうまくない)こともあれば、映画を観る(ほとんどの場合、昨晩の続き)こともある。
今日は、読みかけの小説の続きを読むことにした。上下巻の長い小説だけど、つい最近読みはじめて、あっという間に下巻に入っている。今は、ストーリーが少しスピードダウンしているけれど、クライマックスに向けて、不穏な雰囲気が漂っていて、読み出すとなかなか止められない。
小説を昔からよく読むわけではないし、上下巻ものなんて今でもそれほど読まない。
こないだ、久しぶりに上巻というものを読み終えたときに感じた、最後のそっけなさにはまだ慣れない。巻末の文章の後に、「下巻に続く」と書いてあるだけで、解説も、他の小説の宣伝もない。もちろん、まだ物語は終わってないので、解説があるわけないのだけれど、気分良く歩いていたら急に断崖に来てしまったような、もしくは世間の厳しさ(ちょっと大袈裟すぎる)に触れたようなひんやりした気持ちになる。だからすぐに下巻に取り掛かる。物語の中に戻る。断崖は見なかったことにする。

集中力も切れてきたし、昼も近づいてきたので、読書はここまでにして出かけることにする。
昼ごはんをどうしようと一瞬考えて、すぐに良い案が思い浮かんだ。源さんのところに顔を出してピザでも注文しよう。ここ最近、なんだかんだで源さんのところに顔を出せていない。最後に行ったのはいつだったかな。年末、いや、春に一度行った気がする。いずれにしても今までの頻度を考えるとかなり久しぶりだ。そんなことを考えていると、急にお腹が空いてきて、
ピザが食べたくなった。「イタリアから取り寄せた」と散々自慢された石窯で焼いたピザは、くやしいけどおいしい。
子どもの頃よく、食べたいものがあると、「XXの口になった」と言っていた。今は「ピザの口」だ。だけど今はもうそんなことは言わない。意識したわけではなく、気がついたら言わなくなっていた。大人になったからだろうか。伝わるような伝わらないようなあの感じ、結構好きだったな。

外に出てみると、空気は冷たいけれど、日射しは暖かくて気持ちよかった。
ピザはテイクアウトにして、河原で食べよう。

(続く)


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