俺のせい?
「俺さ、今すっごい彼氏欲しいんだよね。恋愛したい。」
スマホ画面に表示されている「男一覧」をゆっくりスクロールしながらヤツは言った。
『アプリで彼氏なんか見つかるのかね...』
ヤツと同じ作業をしながら俺は答えた。
『最後に彼氏がいたのっていつだっけ?笑』
「もう忘れた。でもさ、彼氏作ってもきっと長続きはしないんだろうな...」
「2、3年後の自分が想像できないっていうか。多分それまでに自分で命絶ってる気がして 笑」
『また言ってる。楽な方法見つけてからにしな』
「ほんとそれ」
「あ、この子かわいい!メッセージ送っちゃおっと!」
ヤツとは、会うたびにくだらない話しかしないのだが、毎回毎回5時間でも6時間でも話していられる、そんな友達だ。
お互いのカッコ悪いところもよく知っていて、時々ケンカもするが翌日に持ち越すことはない。
そして、居心地はいいが、お互いに恋愛感情が芽生えない。
相手に面と向かって言ったことはないが、俺の中では大事な「親友」だ。
ヤツは、ちょっと重めの"うつ"を患っていた。
良くなる気配はなく、どんどん落ちていった。
心配している友達連中から様子を伺うメッセージが届くらしいのだが、「みんなに心配させちゃってるな」というときもあれば、「みんなウザい」となっちゃうことも。
ある日、俺以外の連絡先をスマホからすべて削除した、と言われた。
重荷には思わなかった。共通の仲が良い友達は何人もいたし、共通の知り合い程度であれば何十人もいた。ヤツが誰かと連絡を取りたくなったら、俺がいれば誰とでも連絡が取れる。
ヤツもそれをわかっていて連絡先全削除を実行したのだろう。
しかし、誰かの連絡先を聞いてくることはなかった。
ヤツの現実世界には俺以外の誰もいなかった。
会えばいつものようにバカ話をするのだが、心配ごとを口にすることが多くなった。
生きていることが辛そうだった。
ある日のこと。
「家にある薬ぜんぶ飲んだ。ふらふらする。死ねるかも。」
うわ、まじか...
処方薬程度では死ねないだろうし、部屋を引き払って実家で暮らしている。
そんな安心材料はあったものの、すぐに車でヤツの家に向かった。
その日は、平日だったが代休を取って仕事は休みで、それをヤツにも言ってある。
俺が休みの日を選んだのか?止めに来て欲しいのか?
よし、待ってろ。
ヤツの実家は俺の家からそれほど遠くない。
日中の道が混んでている時間でも20分あれば到着できる。
そんなことをするくらいだから、家族の人は留守なのだろう。
急がねば。
インターホンを鳴らすと、それへの応答はなかったもののちゃんと玄関先まで出てきた。
ふらつく程度で歩くこともできる。
とりあえず、その場で喉に指を突っ込んで飲んだものを吐かせた。
「ごめん、来させちゃって」
『いや、ぜんぜん。』
しゃがみこんだ彼の肩を抱いて言葉をかけたが、放っておいて欲しいような反応だった。気まずさがあったのかもしれないが、早く帰って欲しいようだった。30分くらい黙って二人でしゃがんでいた。
『気分よくなったら連絡して?夜中にドライブ行こうぜ』
それだけ言って俺は帰った。
その晩、「復活した 笑」と連絡があり、目的地のない夜中のドライブに出かけた。
特にすることがないときに、目的地を決めずにただただ車を走らせ、おしゃべりするだけ。
二人とも運転が好きで、好きな時間の過ごし方だった。
これと同じことがもう一度あり、その時も一時の迷いかな?と思っていた。
二度目のときもヤツの家に駆けつけはしたが、夜には笑って話ができた。
しかし、三度目でヤツと俺は衝突した。
------------ 後編へ続く ----------------------
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