4.1 床解体、給排水設備の位置確認、本格解体


 ミズキさんから聞かされた「床解体」という意味があまりわからなかったのだが、実際に作業の日になってようやく分かった。

水まわりの給排水設備を確認するために、床を開けてみることらしい。

大工のイチローさんがウィーンと床を切ってくださった。

話は逸れるが、イチローさんは名前は平凡だがかなり細身の長身でダンディな雰囲気が漂う方だ。お若い頃は相当モテていたと思う。スキル一本でここまで3人のお子さんを立派に育てて来られた匠だ。カッコ良すぎる...........。次男さんも同じ仕事をされている。めっちゃ若くて米津玄師似の彼を見て、

「キミはなぜ、都会に行って違う仕事をしようと思わなかったのか」インタビューをしたくてたまらない。いや、今は解体だ。話を戻そう。

 電ノコの動きに見惚れていたが、仕事の早い棟梁&匠のイチローさんのおかげで床下の配管などが露わになった。このプロジェクトのディレクターであるミズキさんが指示を出して、その通りに床を広げていく。ミズキさんも相当かっこいい。

「やっぱりね」

カナメが言った。

匠の作業に見惚れていてキミ(夫)の存在忘れてたわ(汗)。作業になると実際に動く人がどうしてもかっこよく見えるね.........

それにしても何がやっぱりなのか状況が一切つかめていない私。

カナメが言った。

「ほら、最初に水道工事で4階の天井を開けるって言う話があったやんか。その必要はないってこと。」

カナメは最初の業者さんによる見積もりが高額になっていたことに相当憤っていたようだ。カナメには言えなかったのか、ミズキさんが後でこっそりと教えてくれた。

「見積もりの段階では分からないことも多いから、とりあえず高めに出しておくのは仕方がないんだよね。たしかにあの金額は新築工事と同等で高めではあったけど全くのでたらめな数字でもないんだよ。だから僕はいつも言ってるんだ。新築と違ってリノベの場合は開けてみないとわからないんですよ、だから開けてから考えてみましょうって。」

ミズキさんも色々な業者さんとの関係性があるから、一方的に見積もりをしてくれた業者さんを悪者にもできない。フォローも完璧だ。相変わらずミズキさんは仕事ができるな.......。

 ほどなく、電気工事のサトルさん、ガス工事の業者さん、水道工事の方などが入れ替わり立ち替わり確認に来られた。彼らの手元には数日前にカナメがミズキさんにメールに添付した間取り図(*1)をA3サイズにカラー印刷されたものが。ミズキさん、そういう細かい作業の段取りまで!と同時に、その方達に一つ一つピンポイントに指示を出したり質問したりとミズキさんは大忙し。

 私はと言うと、床下の配管などをバシャバシャと撮影してまわった。カナメは6階でいつもの様に色々と頭脳プレイをしていたようだ。時は9月、エアコンのある部屋で。

 ほどなくカナメが降りて来て、ミズキさんと詳細の打ち合わせに入る。本格解体を前に詳細&最終確認である。ここで間違ったら泣くに泣けない。印刷した間取り図に数字を書き込んでいくミズキさん。すっかり巻尺とオトモダチになったカナメが、あちこちのサイズをミズキさんに伝えていく。主に間仕切り壁の位置を計算していたみたい。

それを見ながら「そういうものなのか......」とぼーっと見つめる私。こういうのって工務店さんが最適サイズを割り出して「ここでは最低何センチ必要だから......」と自動的に決まるものかと思っていたのだが。

ミズキさんが言う。

「バンリさんもリクエストあるなら言ったほうがいいよ。今ならどんな風にも変えられるから。後で言われても困るしね。」

素朴な疑問が。

「その、作っている最中に、気が変わっちゃったりして、突然仕様が変更になったりとか、そういうことってあるんですか?あっても簡単には直せないですよね。」

ミズキさん曰く、「あるある。そんなのばっかり。でも変更をすると、それだけスケジュールも変わればコストも変わる。それでも良ければ作業中の変更は問題ない。こっちとしても納得がいかないまま進めてもお互い不幸だから、できるだけのことはしたいわけよ。だから早めにどんどん言ってね。」

なるほど。しかし、なにをか言いたいが、いかんせん脳内が空白。つい昨日まで壁紙の裏紙剥がし(壁に水スプレーを吹きかけコテでガリガリと剥がす。割と快感w)と床の掃除に精を出していた私に、肉体労働以外の脳内活動はなかったように思う。エアコン効いた部屋でカナメは色々と考えていたかも、だが。そっちはカナメにまかせた、だ。

 その数日後、本格解体の日を迎えた。ミズキさんは朝一番に作業の方に一通りの指示を出して、そのまま別の現場に向かわれた。この日は、たくさんの作業員の方が出入りして派手にドッカーン、ギュイーンギュイーン、バキバキと音を立てて作業が忙しなく続くので、私たち素人がウロウロすると危ない&邪魔になって仕方がない。なので、差し入れを持っていく以外は現場に立ち入らないようにしていた。作業が終わって廃材を撤去する際に、我が家の溜まりに溜まった長年のゴミの袋を大量に廃棄していただくことになっていたので、そのゴミの最終チェックと残った細々としたゴミも分別し続けていた。

 ランチタイムの間に現場を少し見てまわった私は、キッチン部分にあたる壁に石膏ボードの壁が残されていることに気付いた。石膏ボードの裏にはコンクリートの壁が見えている。この壁からコンクリートの壁までざっくりと10センチほどある。この壁にはPS(パイプスペース)の出入り用の小さいドアがついていて、その石膏ボード壁にも同じ位置に木枠が埋められていて、木のドアがついている。それが私には気になって仕方がない。全然オシャレじゃない上に、もともと狭い敷地面積の10センチのムダが勿体なくて仕方がない。カナメに伝えた。

「ほんまやな。この壁も潰してもらうように言ったはずなんやけど、ちょっとミズキさんに聞いてみるか.......」

 午後になって様子を見にこられたミズキさんにカナメが聞いてみた。

「あの、この壁なんですが、これって残さないといけない理由とかあったりします?」

仕事の早いミズキさん。

「いや、あれ、いらなかった?ちょっとまってね。大工さんに聞いてみる。これ、ああ、石膏ボードだね。潰せる潰せる。いらない?じゃぁ取っちゃうね。そうだね。ここ10センチくらいあるしね。分かりました。」

大工のイチローさん親子、その場で丁寧に壁を崩し始める。ほおおおおおおお。

私の感嘆の意味を察して、ミズキさんが解説してくださる。

「解体屋さんは、とにかく解体するのが仕事だから、その後の作業のことは考えずに壊すんだ。でもその後の作業をするのは大工さんだから、大事な部分は大工さんに丁寧に解体してもらうのが正解。木材の廃材とか後で使えるものもあったりするからね。」

なるほど!!

 実は、押し入れの解体を大工のイチローさん親子が丁寧に作業してくださっていたのだが、それが不思議でならなかった。ネジか釘か分からないけど、一本ずつ丁寧に電動ドライバーで外していて驚いたのだ。巨大トンカチでバッコーンって壊すのかと思ってたわ(汗)。

 ほどなくキッチンの壁が露わになった。おおおお、モノホンのコンクリート現る!まさにワイルドかつアーバンでないかい?と私は思ったのだが。

カナメの顔色が次第に変わっていったのを私は見逃さなかった。やばい。カナメが不満そうな顔をしている。ミズキさんにあえてお願いして露出させたコンクリート壁の状態が、私たちの想像を超えるものだったのだ。私は彼の気持ちが分かっただけに、こう言うしかなかった。

「すっごーい!やっぱり本物の質感は違うね。まさにザ・コンクリート!って感じ。かっこいいね。これぞまさに私が求めていたものだよーん。」

カナメはけげんそうな顔で私を見て言う。

「お前、本気で言ってる?」

「うん♡」

カナメは文字通り頭を抱えた。彼の額に文字が浮かんでいるようだった。

「マジカヨ、オマエホンマニ、センスナイニモホドガアル.....orz」

一気にトーンダウンしたカナメであるが、彼にはもっともっと気になる事があったのだ。

軽天その他の資材をすべて取っ払ったら、きっと気にならなくなると思っていた天井の排水管は、何をどうしてもその大きな存在感をかき消すことはできなかった、らしい。

私は気にならないけど。

 どんどんと二人の求めるものが乖離していることが顕在化してきた。

 作業が終わり、廃材も粗大ゴミもすべて撤去されて、がらんとした空間が目の前に現れた。それはそれで感慨深いものがあったが、とにかく今日はもう疲れた。明日からまた考えてみるしかない。

(*1)今回のプロセスで最も大事なのが、この間取り図。私がざっくり作った図面の上に、カナメが設備の位置を正確な数字とともに記したもので、そこに電気ガス水道に関係するものを書き込み、PDFファイルに落としておいた。これをミズキさんに送ったところ、彼が適宜、業者さんに転送しておいて下さった。

必要なデータとしては、温水または冷水のいずれをどこに配置するのか、排水管はどこに来るのか、ガスはどこからどこまで引くのか、コンセントの位置はどこに何個口つけるのか、系統を別にするもの(パソコンやヘルシオなどは別系統など)の明記などなど。

また我が家には海外から持ち帰ったキッチン家電が若干あるので、キッチンにも、エアコンから分岐させて200Vのコンセントをつけることにした。後からの変更ができないので、コンセントはできるだけ多く追加しておいた。

ちなみに地面から何センチの位置にコンセントを置くかも決められるので、棚を作る予定であれば、その棚に合わせた位置に持ってくるなど、具体的に生活空間の中で、どの家電やデジタルデバイスを、どう使いたいのかをデザインすることが非常に大事である。

洗濯機の給水に温水も加えていただいたのだが、物理的制約を受けない限りは、どこにでも給水できるようだ。子供さんのいるご家庭では、玄関に小さな洗面台を置くなどの設計をするといいと思う。

キッチンでは電気しか使わないので、当初はガスを引く予定はなかったのだが、高い天井&コンクリートの壁では冬の寒さが尋常じゃないという話も聞くので、暖房効果の高いガスストーブを設置しようと、リビングの真ん中あたりにガス栓を持ってくることにした。

このあたりの設計は、個々人のライフスタイルに強く関わってくるので、業者さん任せにせずに、時間をかけて神経質なほど考え抜いて設計することを強くお勧めする。


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