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やっぱり応挙にやられた。『皇室のみやび―受け継ぐ美―』第3期:近世の御所を飾った品々

2023年11月にリニューアルした三の丸尚蔵館。2024年6月まで、4期に分けて記念展『皇室のみやび―受け継ぐ美―』が開催されている。当館に収蔵された名品を順次紹介するコレクション展シリーズであり、再出発にあたって、まずは景気付けといったところか。

ずっと行きたいと思いつつ、なかなか足を運ぶことができていなかったが、ようやく第3期(5/12マデ)に駆け込むことができた。

”近世の御所を飾った品々”と銘打たれた第3期。日本における「近世」は、一般的には豊臣政権の頃を始点とするようで、江戸期の品が圧倒的に多い。数少ない鎌倉期の品である国宝の藤原定家《更級日記》は、書に詳しくなくても、躍動的な筆の運びに感銘を受けるはずだ。流麗というよりはヴィヴィッドだが、破調に向かうのではない。あくまで書写であって、根底には原典への敬意があるのだろう。

藤原定家《更級日記》

江戸期の名品としては、円山応挙の《源氏四季図屏風》を挙げないわけにはいかない。題名のとおり、春夏秋冬の風景が右から左に展開していく構成。夏の緑は、葉の一つひとつの描き込みが繊細を極める。秋の紅葉は、オレンジ、ピンク、赤を混在させた色遣いがさりげなくも味わい深い。松の枝に積もった雪が凛とした空気を醸す冬と、淡い桜花が控え目にたたずむ春の対比も絶妙である。

円山応挙《源氏四季図屏風》

狩野永岳の《源氏物語図屏風》も絢爛で立派だったが、偏執狂的と言っていい応挙の破格な魅力に比べると、型通りといった印象もなくはない。まあ、相手が悪かったということで……。

ほかに目を引いたものを2つ。

《泔坏・菊花散蒔絵台》の読み方は「ゆするつき・きっかちらしまきえだい」。「泔(ゆする)」とは、調髪のための湯水を指す。「坏」はそれを溜める容器だ。蓋と受け台で構成され、蒔絵の台に置かれた。容器本体だけでなく蒔絵の台も、驚くほど模様が細やか。

《泔坏・菊花散蒔絵台》

《修学院焼ふくべ形香炉》は、斬新な形状が面白い。蓋は葉っぱを模して作られているようだ。修学院焼は、その名の通り修学院離宮内で作られた御庭焼で、現存する作品は少ないという。

《修学院焼ふくべ形香炉》

虚心坦懐に歴史と向き合い、そこから自分なりに美を見出す。それがこの記念展の楽しみ方だろう。永徳の《唐獅子図屏風》が登場する第4期は5月21日からスタートする。

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