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“苦労しなくてもできる美しいもの”。『オラファー・エリアソン展──相互に繋がりあう瞬間が協和する周期』

話題の麻布台ヒルズに設けられたギャラリーの開館記念。オラファー・エリアソンの個展は、2020年の東京都現代美術館『ときに川は橋となる』以来だろうか。前回ほど大規模ではなく、新作のお披露目と過去20年ぐらいからのピックアップを織り交ぜた、コンパクトな展示となっている。

すべて日本初展示というが、どれも「ああ、エリアソンだ」と安心できるのが面白い。それはネガティブな既視感ではなく、作家としての軸が確立して久しいということ。今なお制作意欲は衰えず、フレッシュな感銘を与え続けているのは称賛に値する。

会場はすべて撮影OKです。

1.蛍の生物圏(マグマの流星) 2023
名刺代わりの一作といった趣。光と影。変化する幾何学模様。

2.終わりなき研究 2005
19世紀式の「ハーモノグラフ」という装置らしい。振り子を用いて、回転台に付けられた紙にペンで円を基調とした模様を描く。振り子の動きを調整することで、様々な模様が可能。機械仕掛けなのにどこか生々しいのはなぜだろう。

3.「オラファー・エリアソン:想像力を擁する砂漠」からのドローイング 2023
ドーハ近郊の砂漠に設置されたドローイング・マシーンによって制作。詳しい解説は難しいが、太陽光、潟の水、風など自然由来のマテリアルやツールを活用して描かれている。つまり、仕上がりは天候次第ということになる。

4.ダブル・スパイラル 2001
本当は動画で紹介したい。動きが気持ちいい! 人間の本能的快楽を突いてくる。

5.呼吸のための空気 2023
鉱山から回収された亜鉛廃棄物をリサイクル。上部のファンがポイントで、ここにも「風」が登場する。

6.溶けゆく地球(バナジウム・イエロー)
  あなたのエコーの追跡子
  私のエコーの痕跡
  溶けゆく地球(カドミウム・イエロー、グレー)
  (左から順に/2017)

グリーンランド沖の氷河から採取した氷片を紙の上で溶かしたら、こんな水彩画が出来上がった。

7.瞬間の家 2010
ストロボライトが、流動する水の一瞬の「形」を切り取る。第12回ヴェネチア・ビエンナーレに出品された作品の再現。ありがたい。

彼の作品には、自然の偶然にまかせたものが多い。作り手のエゴは、表象(=ビジュアルとして描き出されるもの)には投影されない。その代わり、創出するための仕組み作りに心血を注いでいるわけだ。エコロジカルな関心、環境問題への危機意識が根底にあることが前提だが、だからといって思想が美に勝ることはない。だから、エリアソンは信じられる。

展示の最後で放映されているインタビュー映像で、彼はこう語っている。

私は美には説得力があるということを示す作品、それもそんなに苦労しなくてもできる美しいものを作るのが好きなのです。

片岡真実(森美術館館長)との対談

かっこいいね。

そして、麻布台ヒルズ内の森JPタワーのロビーには、パブリックアートとして、上記の5と同じ素材を使った《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》が展示されている。小さい11面体が連なって、一見すると捻れて閉じた輪っかだ。しかし、眺めているうちに、ひもが無限にループしている動画を見ているような感覚に襲われる。ミクロからマクロへ、静から動へイメージが飛翔するエリアソンらしい「美」である。

《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》

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